一箱古本市っていのは、プロの古本屋さんやアマチュアの本好きが、それぞれみかん箱くらいの箱1つ分の古本を持ち寄る青空古本市です。
場所は谷根千(谷中・根津・千駄木)。根津神社のつつじ祭り期間中のこの時期と秋に毎年開催されているようです(これまで気になりつつも、なかなか縁がなかった)。
シキさんのお誘いで、すずめの巣さん(作務衣にサンダルで、すっかり地元民スタイル)と3人で連れ立って、5月の青空の下、古本「箱」めぐりを堪能してきたので、簡単にレポートします。
さて、11時半に千駄木駅で待ち合わせて、いざ出発。意外な人出で、千駄木から谷中にかけての商店街は、けっこうな賑わいです。多くは古本と関係ない下町観光の人なんでしょうけど、谷根千エリアって、いつの間にかこんなに人気スポットになってたのね。
で、とりあえずは駅近くの「コシヅカハム」へ。古本市に協力してくれるお店の店先なんかを借りて、数組の店主さんたちが「箱」を出しているのね。2日は10ヶ所に55箱が出品されていました(この日は2日目。1日目は4月29日でした)。コシヅカハムでは、10箱の店主さんがズラリ。
ここで異彩を放っていたのが、あの書評家の豊崎由美社長で、のっしと立ち上がってオススメ本講釈をしておられました。購入者には、「幸あれ〜」と豊崎社長から祝福の言葉。シキさんが買った文庫本には、おすすめのヒトコト栞に加えて、サインと金ぴかハンコが捺されてました。
私もさっそくお買い物。豊崎社長のところでは残念ながら「コレ!」という本は見つからなかったのですが、地味に見えてなかなかステキなセンスの「あり小屋」さんで買ったのが、
(1)獅子文六『娘と私』(新潮文庫)200円
(2)尾崎一雄『閑な老人』(中公文庫)200円
獅子文六のほうは、ちょっと前に評伝『獅子文六 二つの昭和』を読んで以来、気になっていた一冊。「娘」というのは、文六とフランス人の奥さんの間に生まれた子です。獅子文六、とても国際人なのです。奥さんは日本に来たものの、言葉も通じないし心を病んでフランスに戻っちゃうんだけどね。
尾崎一雄のほうは、パラパラめくると、「虫のいろいろ」みたいな虫関連の随筆が多いみたい。店主さん曰く、「尾崎一雄が売れるとは思わなかった」だそうですが、いや、意外に人気ですって。
最初だし、記念に写真撮影。皆さんこんな感じで「一箱」の本を出しています。

それともう一冊、「まぶしがり屋」さんで、
(3)ソール・ベロー『宙ぶらりんの男』(新潮文庫)10円
ソール・ベローは、古きよき時代のアメリカのビルドゥングスロマン『オーギー・マーチの冒険』が無類におもしろいノーベル賞作家。今の日本ではまったく読まれてませんが、将来の見えない不安な日常を生きるような作品を書いてます。『ハーツォグ』とかハヤカワNVで出てるのを持ってますが、新潮文庫でも出てたのね。陸軍に徴募したんだけど入隊まで7ヶ月待ちで、就職もできない、タイトルどおりの「宙ぶらりん」状態の話みたい。よくわかんないけどダメ男小説なんでしょうか。保存状態はよくないけど、10円ではなんだか申し訳ない作品です。
以上、いきなり3冊購入で、おお、なんだか幸先がいいぞう。
次は、8箱「古書ほうろう」。
ここでは、書評家の岡崎武志さんによる「岡崎武志堂」で、
(4)高野文子『棒がいっぽん』(マガジンハウス)400円
いつか古本屋で見つけたら買おう、と思ってた一冊です。ここで見つけたので買いました。
購入者はおみくじを引かせてもらえて、ジャジャーン、
「中吉」
でした。
「古本運は絶好調。ほしい本が向こうからやってくる」
だそうで、おお、ますますボルテージが上がります。
とはいえ、そこでしばらく停滞。続く花歩、アートスペース・ゲント、貸し原っぱ音地の3スポットでは空振りでした。
一冊、永沢光雄『声をなくして』というのを見つけて、永沢光雄ってもしかしてあの人? 名作『AV女優』の? 声をなくしてって、えっ、咽頭ガン!? そんなたいへんなことになってたの!? と気になったのですが、ハードカバー単行本で500円ではなあ、まあ図書館で借りようかなあ、と名残惜しくスルーしました。
ところで、このあたりでちょうどわれわれと歩調を合わせるかのように、
「痕跡本ツアー」
の一行と先々で遭遇。痕跡本っていうのは、ようするに、書き込みのある古本のようです。通常は嫌われる書き込みに、あえて価値と意味を見出すという、マニアックな趣向のよう。
それにしても、どんな書き込みが喜ばれるんでしょうか。やっぱり、
「不治の病で余命いくばくもない十代の美少女が書き込んだ、死を予感させるピュアな言葉」
などでしょうか。岩波文庫のカントやヘーゲルあたりで、
「おもしろいけど難しい‥‥。でも、これを理解するには、あたしの命が足りないわ‥‥」
といった書き込みがあると、痕跡本ファンは悶絶、鼻血なのか。いや、これだったら痕跡本ファンならずとも鼻血ですわな。ともあれ、気になるところです。
その後、藍と絹のギャラリー前で、SNS「やっぱり本を読む人々。」の一箱から、
(5)ジョー・ホールドマン『ヘミングウェイごっこ』(ハヤカワSF文庫)200円
を購入。ホールドマンは超ハード死闘戦争SF『終りなき戦い』の人ですね。『ヘミングウェイごっこ』というのは知らなかったんだけど、ヘミングウェイの贋作小説を書いていたら目の前にヘミングウェイその人が現れた、という話のようで、うーむ、気になる、と思わず手が出ました。
汗ばむくらいの陽気の中、「箱」めぐりはまだまだ続きます。途中で、金ぴか観音がそびえ立つ大円寺に立ち寄って(たまたま門前を通りがかったので)、三遊亭圓朝のお墓にお参りした後、特養ホーム谷中へ。
ここで、えーと、店主さんの名前忘れちゃったけど、ちっちゃい娘さんがいるお父さんによる「箱」の中に、あーっ、さっきの本がここにも!
(6)永沢光雄『声をなくして』(晶文社)250円
先ほどの半額で、しかも保存状態も上。置き場もないのに単行本で、ちょっと躊躇ったんですが、でも、これが、あれですよね、「ほしい本が向こうからやってくる」ということなんですよね。と、古本の神様(というか岡崎武志の)のお告げを信じました。
次に、TOKYOBIKE no OFFICE、Gallery Jin + classicoで、えーと、これも店主さん名を忘れちゃったけど、
(7)吉田健一『本当のような話』(中公文庫)200円
吉田健一のまだ読んでない小説で、しかも200円なら、買わざるをえないでしょう。ちなみに200円というのは、本についてる定価と同じです。おー、定価販売。
それともう一冊、
(8)子母澤寛『味覚極楽』(中公文庫)200円
ちょっと古めの食べ物エッセイが、このところわりと好きなので。『父子鷹』なんかの子母澤寛によるこの本は、パラパラ見ると、本人の随筆というより、有名人の聞き書きなのね。まだ読売新聞の記者だった若い頃に新聞の1コーナーとして連載したものに、30年後、一編一編に注のようなおまけエッセイをつけて一冊にまとめた、という本のようです。最初の連載は昭和2年で、「有名人」として小笠原長幹をはじめ伯爵、子爵がごろごろ。その中に、「印度志士ボース氏の話」なんてのも。中村屋のラース・ビハリ・ボースですね。わー。
ちなみに、ボースによると、「カレーをこしらえる上で一番大切なのは、カレー粉より何により、バタのいいのを選ぶことです」だそうです。
最後に往来堂書店へ回って、おしまい。本日の収獲は、以上の8冊でした。
もう2時を回っていましたが、近くの中華屋さんで祝杯。ビールプハーッ!
記念に、収獲写真をパチリ。左側は、すずめの巣さんの獲物です。

中華屋では、ビール(中ジョッキ350円の嬉しい下町価格!)をうぐうぐしつつ、本日の収獲についての語り合いは早々に終えて、
・天津丼はなぜ天津丼なのか。中華丼はなぜ中華丼なのか。なぜ日本丼やフランス丼がないのか。
・「伊」の字には何か意味があるのか。なぜ井伊直弼の「井伊」は「伊井」じゃないのか、伊は井より弱いのか。となると、たとえば藤、伊、井の三者の間には、井>伊>藤>井‥‥、というじゃんけんのような関係があるのか。
・将棋キャバクラというのもいいんではないか。キャバ嬢みんな将棋ができて、でも店内には将棋盤はなくて、「4六歩」「きゃー、お客さん、それ、ありえなくなーい!? じゃあー、あたしー、同銀」などという会話を楽しむの。
などといった論点について真剣に討議し、ゴールデンウィークらしい有意義な時間を過ごしました。シキさん、すずめの巣さん、おつかれさま。いずれはぜひ、出品者側で参加しましょう!














