新風舎の民事再生法申請も、芥川・直木賞候補発表も、個人的にはあまりピンとこない話題でしたが、このニュースには驚きました。
「草思社、民事再生法適用を申請」
えーっ! そ、そうなの!?
ニュースによると、すでに複数の企業が支援を表明していて、3月あたりにはまた新刊が出るようになる、というのでひと安心なんだけど、でも今後は、「ジャカジャカ売れるわけではないだろうけど、でも確実に、これはいい!と自信をもっていえる翻訳物・自然科学物を出してくれる出版社」、というこれまでのカラーを維持できるとは限らないでしょう。(ちなみにこれは私の偏った見方で、世間的には「声に出して読みたい日本語」「間違いだらけのクルマ選び」「清貧の思想」「平気でうそをつく人たち」などで知られる出版社、ということになっているようです。どれも読んだことない。)
ということで、本日は緊急企画!(まあ緊急じゃない企画なんて今までひとつもないんだけど)
草思社を勝手に支援することにしまして、同社の「ジャカジャカ売れるわけではないだろうけど、でも確実に、これはいい!と自信をもっていえる翻訳物・自然科学物」をいくつか紹介したいと思います。
ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」(上下)
これはそれなりに話題になりましたよね。大局的な視点から歴史を見るって、こんなにおもしろいのか!という興奮を骨の髄まで味わわせてくれる本。上下2冊の重量級で、もうボルテージ上がりっぱなし。
テーマはシンプルで、ユーラシア大陸と南北アメリカ大陸、どっちも文明が生まれたのに、結局はユーラシア大陸(の特にその端のヨーロッパ)が圧倒的に優位に立ったのはなぜなのか? それは、
「ユーラシア大陸が横長で、南北アメリカ大陸が縦長だったから」
という、縮めて言うとトンデモなんだけど、とにかくこのことを、気候やら地形やら家畜やら穀物やら言語やら、膨大な知識を動員して、事細かに論証していくのね。
著者は後に、文明の発端側ではなく終焉側に焦点を当てた「文明崩壊」(もちろん草思社)を出してますが、こっちはやや精彩に欠けます。
〈サイエンス・マスターズ〉シリーズ
海外の実力派研究者たちが自然科学のオモシロサを披露してくれるシリーズ。小学生の頃に読んだアシモフの科学発見シリーズ(「ブラックホールってなに?」とか「恐竜ってなに?」とか)を彷彿とさせて、毎回楽しみにしてました(まだ続いてるんだっけ)。
「思考する機械コンピュータ」「セックスはなぜ楽しいか」「宇宙を支配する6つの数」など17冊が出てるみたいだけど、とくにおすすめは、
イアン・スチュアート「自然の中に隠された数学」
リチャード・ドーキンス「遺伝子の川」
の2冊。議論に迷いがなくて、実にシンプル。たとえば、「自然の中に隠された数学」ならば、トラは檻の中でどうして行ったり来たりするのかを説明するくだりとか、「遺伝子の川」ならば、超音波を通してコウモリが認識する世界ってテレビとかではよく昔風のCGのワイヤーフレームみたいなので表現したりするけど、あれって絶対違うってば、人間が「見てる」のとあんまり変わんないって、という話とか。なーるほど、と思います。
V・S・ナイポール「神秘な指圧師」
トリニダード・トバゴ出身のノーベル賞作家の処女作にして出世作。英領トリニダード島の人々ののんびりした暮らしをコミカルにつづった一編で、そういえば「本読みHP」でも紹介してました。詳しくはそっちを見てもらうとして、植民地の人々が話すなまりのある英語を尾道・広島弁に置き換えた訳者の英断(?)に拍手。
「そろそろわしらも英語国民であるということを自覚してええころじゃけえ、恥ずかしがらずにちゃんとした英語をしゃべらんといけんのう」。
アドルフ・ヒトラーの一族
これは以前、mixiの日記(ほとんど更新してない)に書いたんだけど、タイトル通り、ヒトラーの親やら兄弟やら親戚やら、そんな知られざる一族の生い立ちと一生を丹念に追った歴史本。
マリアは、自分が生んだ息子アロイスの父親が誰かを誰にも教えない。アロイスが5歳のとき、彼女はヨハン・ゲオルクと結婚する。しかし、子どものアロイスはふたりの間で育てられることなく、すぐさまヨハン・ゲオルクの弟であるヨハン・ネポムクにあずけられ、そのままそこの養子になる。マリアは結局、アロイスの父親が誰なのか、口にすることなく死んじゃう。アロイスが10歳のとき。
長じてアロイスは、若い娘にはだらしない男となり、2番目の妻ファンニが病気で寝ている間、家政婦として雇っていたクララと通じる。ファンニの死後、アロイスは、すでにみごもっていたクララと結婚する。クララは、ヨハン・ネポムクの娘の子、つまり孫だった。
しかし、男親の名を明らかにせず死んだマリアは、なぜ息子アロイスを、夫ではなく夫の弟ヨハン・ネポムクにあずけたのか。アロイスの本当の親が、ほかならぬそのヨハン・ネポムクではなかったのか。だとすると、その孫娘であるクララとアロイスは、姪とおじの関係ではなかったのか。
その近親相姦だったかもしれない2人の間には6人の子どもが産まれ、4人が幼くして死亡。生き残った女の子はパウラ、男の子は、アドルフ。
という、自らの出生にいささか疑問があるだけに、ヒトラーはことさら親族を表に出さなかったのね。地味ながら、いろいろ発見があってゾクゾクします。
稲垣栄洋「身近な野菜のなるほど観察記」
えー、そろそろ面倒になってきましたが、続けます。
キャベツにナスにカボチャにタマネギ、ニンジン、ニラ、オクラなどなど43の身近な野菜について、農学的・植物学的・博物学的に手際よく紹介。などというとありがちに見えるのだけど、いや、もう、その語り口が、たまらんのですわ。
涙なしには語れないタマネギの生い立ち、厳しい減量に耐え勝利を勝ち取ったボクサーの王者のようなマスクメロン、努力家のニラ、ぬめりはあってもぬかりはないヤマノイモ‥‥。著者は、植物学界の東海林さだおである!といいたい。
オクラはアフリカ原産でハイビスカスの仲間で、だから派手な花が咲くとか、ほうれん草のほうれんっていうのは漢字で書くと、えーと、ここでは文字化けしちゃうかもしれないから書かないけど、とにかく難しい字でペルシアを意味していて、つまりペルシア原産なのだとか、思わず「へえ」の雑学知識も満載です。
同じ著者の「身近な雑草のゆかいな生き方」もおすすめ。
稲本喜則「当面の敵というのを決めることにしたのだ。」
これがなぜいきなり草思社から出たのか、よくわかんないのですが、おそらく「いま流行りのブログ本ってやつを、いっちょ当社でも出してみっか」ということなったときに、このブログのファンだった社員がダメモトで企画を出して、通っちゃったのでしょう。私もひそかにファンだったので、びっくりしました。
電車の中では読めないような(ブハッと吹きだしてしまうので)多彩な脱力ネタいっぱいで、日本語の奥深さを堪能できます(ブログでは最近、言葉遊び物が少なくなっちゃったのが、ちょっとさびしい)。
ポール・ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」
1996年に83歳で死ぬまでに数学をやり続け、1500本の論文を発表した放浪の数学者ポール・エルデシュの評伝。でもって、「古今東西評伝傑作選」なんてのがあったら、絶対にはずすわけにはいかない一冊。
エルデシュの頭の中はもうホントに数学だけで、他人の迷惑なんか考えない(それがまたお茶目なんだけど)。アイデアを思いついたら早朝だろうと知り合いの数学者に電話をかけて、
「西海岸はまだ午前5時だよ」
「よかった。それなら間違いなく家にいるな」
なんていうのもステキです。
といった、数々のステキ本(ほかにもまだまだあるよ)を出してきた草思社を、これからもひそかに応援していきたいと思います。
2008年01月11日
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Tracked: 2008-01-15 17:41



アマゾンから買えたってことはちゃんと作ってもらえてたって事なんですかね〜?
店頭では何件か見ましたがさっぱり置いてないです。
絵本なんですが、テーマは悪くないけれどもイマイチ微妙で…。
正直売れそうではありませぬ。
今後はどうなるのかしらん?
草思社。新聞に出てましたね。
目録は早い段階から手に入れておりました。
『草思』というPR誌を途中まで持ってましたね。
あと、『続群書類従完成会』ってまだあるのかな。
これといって注目していたシリーズ本は無かったな……。
古本で『妖精物語』(上下巻、草思社)があるくらいか。
大手に傾向が傾きすぎて、注目度が低いな……。
頑張れ、草思社。
へー、ちゃんとamazonで買えるものなんですね。
でもamazonって、その本を買おうと思って探す場合は便利だけど、探さなければまず目に留まることはないだろうし‥‥、内容の如何にせよ、売れるかどうかは微妙そうですね‥‥。
Qさん。
そうそう、草思社って、PR誌もあったして、中堅とかいいつつ、けっこういい出版社なんですよね。堅実な商売をしていれば、こんなことになるはずはなさそうなのに‥‥。うーん。「売れないけど、いい本」を出すのも、出版社の役目だとは思うんですけどね。むずかしいところです。
うちの店長もけっこう好きらしく、悔しがってました。「こうやってとどめを刺すようなことするチェーンがあるから、立て直すといっても難しいよなぁ・・・」って。
応援したいと思っていても、傷口に塩を塗りこむようなことを強いられるわけですから、複雑な心境でしょう。
本屋って、本好きなだけにやってられないと思うこともよくあります。
お久しぶり! なるほどねえ、本屋さんは本屋さんで、たいへんなのね。商売だからねえ。
いい本が、いい、というただそれだけの理由で売れるわけではない、というのが難しいところですよね。私も図書館派だから、あんまりまともな意見がいえないんだけど‥‥。
そういえば池袋のジュンク堂では、草思社の本の「応援フェア」をやってましたよ。(自由価格本!?と一瞬思ってしまった。)