2010年06月30日

i文学少女

コンテンツについての議論が抜け落ちたまま、電子書籍に関する話題はあいかわらず過熱気味ですね。先日も、電子書籍販売のパピレスの上場に投資家が飛びついてましたし。
短期的な動向はまだまだ予断を許しませんが、しかし長期的には、おおかたのコンテンツが電子書籍の形で読めるようになる、という未来は避けられようがないように見えます。
そしてそうなったとき、音楽におけるiTunesのような存在になれる者はあるのか。電子書籍販売を、巨大な販売サイトが寡占することになるのか。今のところKindleやiBookstoreが一歩抜け出ているのでしょうが、しかしまあ、ニッポンはニッポンらしく、ニッチなところを狙うというのもありのような気がします。
というのが今日の話題。

KindleやiBookstoreでは、表示されるのは、電子書籍だけです。
当たり前といえば当たり前ですが、でも考えてみると、現実の本屋さんであれば、本だけがあるわけではありません。
店員さんがいるし、お客さんもいます。本屋さんには、人がいるのです。
本を選んでいる自分の隣に、やっぱり本を選んでいる文学少女などがいて、棚にある本に手を伸ばしたら、隣の彼女も偶然その本に手を伸ばして、手と手がふれあい、
「あっ」
ということにもなるのです。
KindleやiBookstoreでは、そんなことはできません(今のところ)。

となると、KindleやiBookstoreに対抗するには、それができるようになればいいのではないか。
電子書籍販売サイトだけど、電子書籍だけを売ってるんじゃなくて、ニッポンお得意の、
「美少女」
これを付け加えればいいのではないか。
DSの恋愛シミュレーション「ラブプラス」が人気を呼びましたが、ああいうのを電子書籍販売サイトに応用してみるのです。
具体的には、本の表紙や本棚が表示されているその脇に、本屋さんを訪れている(という設定の)アニメ顔の女子が表示されるのね。画面の中の文学少女、i文学少女です。
女子のバリエーションはさまざま。お客さんですから、入れ替わり立ち代り、いろんな女子が登場します。
定番のセーラー服のメガネっ娘はもちろん、ワンピースの清楚なお姉さまに赤いランドセルの小学生、クールな雰囲気のOLさん、むっちり和服の年増美女‥‥。
現実の本屋さんで、そんな美少女、美女が続々と現れても、本に気をとられて気づかないか、あるいは気づいてもチラチラ横目で眺めるだけですが、ここは電子書籍を販売する仮想書店です。もう、女子に声かけ放題。
「ねー、おねえさん、何読んでるの?」
とか、
「一緒に本を選びませんか」
とか、いくらでも話しかけられます。
そのたびごとに相手の女子は、ポッと頬を赤らめたり、キッとにらみつけたり。
ときには、
「さいきんイーガン読んでSFにはまっちゃったんですけど、何かおすすめ、ありますか?」
などと会話が成立したりする。
と、まあここまでは、無料。別に電子書籍を購入しなくても、ちょっとサイトに立ち寄るだけで楽しめる、ということになっています。
が、もちろん、本当の楽しみは、このサイトで電子書籍を買ってこそ、です。
電子書籍を購入するたびに、女子と会話できる確率が高まるわけですね。会話のキャッチボールもできるようになる。
本を買っていると、たとえば、庄野潤三の作品がカート内に入っているときに、
「あっ、その人、私も好きなんです」
と、女子の方から声をかけられるようにもなります。
彼女たちはそれぞれ、SFファンとか国文マニアとか歴女とか隠れ腐女子とか、本の好みがいろいろ設定されていて、自分の購入履歴を反映して、ジャンルが重なる女子とは、より頻繁に会って、おしゃべりできます。
嗜好の似ている女子と仲良くなるのもよし、あるいは好みのタイプの女子と仲良くなるために、あまり読んだことのないジャンルの本にトライしてみるのもよし、です。

そうしてだんだん親密になると、ついに告白イベント。
「お、お、おつきあい、しませんか」
「‥‥友達からでよければ‥‥」
ということになり、彼氏彼女ということになり、そうしてデート場所はやっぱり、同じ電子書籍販売サイト内。
「じゃあ、こんどの土曜、3時に、考古学の棚の前で待ち合わせね」
と約束して、土曜の3時過ぎに考古学の新刊をチェックすると、いつもの彼女がちょっとおめかしして現れて、
「もー、○○くん、遅いよー。ぷんぷん」
なんて言われたりして、でへへ。
そのまま一緒に仮想書店の中を見て回り、
「あっ、この本、おもしろいんだよ。○○くんも、読んでみれば?」
とすすめられたり、あるいはこちらから彼女にすすめたり。
そうして彼女を自分好みの女に育て上げていくのも、生身の女子相手にはなかなか実現できない、このサイトならではの楽しみです。
最初はラノベにしか興味を示さなかった彼女に、少しずつ少しずつ時代小説の味を覚えさせて、ついには、
「ねえ、この前○○くんが買ってた北原亞以子の新刊、あの、ちょっと、読みたい、かも‥‥」
と、おずおずと言わせた日には! あああ、むふう、もう、たまらん。

そうやってサイトに人気が出てくると、出版社側も積極的に販促に使おう、ということになります。広告費を出して、特殊設定を追加したりするわけです。たとえば、
「発売日から1カ月以内に購入すると、今つきあってる女子と海水浴に行くイベントが発生!」
とかいうのね。
海水浴ということは、本屋さんの中ではぜったい見られない、みみみ、み、水着姿が!!!
ということで、さして興味のない本でも、彼女の水着姿見たさに買う人続出です。
もちろん水着だけじゃなく、浴衣にメイド服、裸エプロン‥‥。本さえ買えば、彼女のいろんな姿を見ることができるとなると、一部の男子は、金に糸目はつけません。

そうして、さらにさらに親密になって、やがては本棚の陰でこっそりとチュー、でもってあまり人の来なさそうな東欧文学のあたりで、そっとスカートをたくしあげて‥‥、わー!!!
ということも思いのまま(年齢制限あり)。ひと通り楽しんだらリセットして、あらためてほかの女子と仲良くなりましょう。
あ、もちろん、女子向け(あるいは一部の男子向け)には、お客さんがみんなステキ男子ばかりのバージョンが用意されてますので、ご安心ください。

ちなみに、生身の彼女や奥さんがいるかたは、メールの新刊通知設定には気をつけましょう。
「○○くん、今週発売の森見登美彦の新刊、一緒に買いに行かない? いつものところで待ってるね!」
なんていうのがうっかり見つかっちゃったら、
「ちょっとアンタ! これ、どういうことよ!?」
と、たいへんなことになります。



posted by 清太郎 at 21:29| Comment(14) | TrackBack(1) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月26日

出会いの場としての書店

ITの発達した現代において、ネットさえつながっていればどこでも仕事ができるにもかかわらず、それでもあえてコストを払って物理的なワークプレイスを維持し、会社という場で仕事をするのはなぜか。言うまでもなく、コミュニケーションのためである。人と人とのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションから、創造的な成果が生まれる、そのためのオフィスなのである。

それは、書店にもいえることである。
書店という物理的スペースは、単に本を売るだけの場であるか。電子書籍化の果てに、書店は必要なくなるのか。
否、である。ビジネスのIT化がそれでもオフィスを必要とするように、読書界がIT化しても、書店はやはり必要なのである。なぜならば、書店もまた人と人の出会う場所、人と人が出会い創造的な何かが生まれる場所であるからである。
そのことを、書店はもっと声高に主張すべきではないのか。
一介の読書ファンとして、私は今、猛烈にじれったさを感じているのである。書店は何をやっておるんだ、何をうろたえておるのだ、と。みずからのコアコンピタンスを磨かずしてどうするか、と。

物理的な本を販売する場である書店は、同時に、人と人との出会いの場を提供してきた。
本を取ろうとして書棚に手を伸ばしたら、脇から伸びてきた手と触れ合って、
「あっ」「あっ」
「どうぞどうぞ」
「いや、どうぞ」
「えっ、でも」
「いや、あの」
「‥‥(ポッ)」
「‥‥(ポッ)」
そこから芽生える恋‥‥。
書店では、このような出会いが、日々繰り返されてきた。そんな出会いを求めて、幾多の人々が書店を訪れている、といっても過言ではないのである。文系カップルの5組に1組(推計)が、出会いのきっかけは書店であるといわれているのである(総務省調べ)。

しかしながら、そのあたりについて、書店はこれまで本腰を入れて取り組んでこなかった.
並んでいる本同士が有機的につながっているような書棚が、
「魅力的な棚」
といわれ、それをつくる書店員が「名人」などと呼ばれ賞賛されたりすることがあったが、その一方で、人と人が出会いやすい書棚は評価されてこなかった。
本の充実度や書店員のサービス等によって書店がランク付けされることはあっても、そこでどのくらいの出会いがあるかによって書店が評価されることはなかった。
利用者はもっぱら口コミによって、
「あの書店は出会いが多いらしい」
「友達の今の彼は、あの本屋で見つけんだって」
などと書店を選んできた。
出会いを求めて訪れるお客さんに対して、書店からの情報発信はほぼ皆無であったし、一切のサポートをしてこなかった。

だが今、電子書籍化の波が押し寄せてこようとしている今、あらためて書店は、自らのよって立つところを見つめ直さねばならぬのではないか。
単に本を売る、というだけの業態にいつまでも固執していては、今後、電子書籍化が進行する中で、ジリ貧に陥るのは誰の目にも明らかである。であるならば、人と人との出会いの場としての方向へ、軸足を移していくべきではないだろうか。それこそがまっとうな経営的判断というものではないのか。

では、そのために、書店は今、何をすべきか。
早急に取り組むべきこととして、以下のようなことを提案したい。

ひとつは、基礎的なリサーチの実施である。
本の売上や販売部数についての数値的データは蓄積されてきたが、出会いについては、1日に何度出会いがあったか、といった基礎的な数字すらない体たらくである。まずは、実際に書店がどれだけ出会いの場になっているのかを、キッチリとデータとして提示すべきであろう。
・各書店で発生した出会いを日単位で算出
・その出会いの結果、実際にカップルになる割合
・書店内のどこで出会いが発生しているか、また時間帯はいつか
・出会いを発生させたお客さんの年齢、職業等
・出会い発生のきっかけとなった書籍は何か
その他、出会いに関する項目について、精査すべきである。
また、こうした調査を行うことは、
「書店は、本の販売の場から軸足を移し、本気で出会いの場になる!」
ということの公式の宣言ともなる。低迷している書店業界に、世間の耳目が再び集まることであろう。

そして、調査が行われたら、その結果を有効に活用せねばならない。
出会いの多い書店には、どのような理由があるのか、どのような棚づくりをしているのか、立地やインテリアに工夫があるのかなど、徹底的に研究、検証すべきである。さらに、そうして得たものを、一書店内、一チェーン内で秘匿することなく、他の書店にもどんどん広げ、応用し、出会いの場としての書店の力を全国的にベースアップしなくてはならない。
一方で、大々的なPRも必要であろう。書店はもう、単に本を買うだけの場所ではない、人と人との出会いの場、お客さんの出会いをサポートする空間なのです! ということを、世間に知らしめねばなるまい。
そのための手段としては、低迷しているとはいえ、まだまだ雑誌の力は侮れない。「anan」をはじめとする女性誌で、
「恋は書店で生まれる!」
といった特集を組んでもらい、まずは若い女性に対して訴求したい。そこで話題になれば、おのずと男性誌やテレビにも波及していくであろう。

とにかく、事態は一刻を争う。
電子書籍化の完了が先か、出会いの場への転換が先か、書店の未来がその一事に懸かっているのだと、書店人には肝に銘じてもらいたい。
うかうかしていると、いずれiPhoneなどで、
「同時刻に同じ本を買った人と手が触れ合っちゃうアプリ」
などができてしまうかもしれず、そうなってから慌てても、もう遅いのである。



※ちなみに、物理的な書店のもうひとつの強みとして、
「本屋さんにいるとなぜかウンチに行きたくなる」
ということから、
「お通じをよくするためのスペース」
としての業態転換も、業界の一部では検討されていると囁かれていますが、個人的には、どうせ変革するのであれば、お通じのための場であるよりも、人と人との出会いの場として、本屋さんには生き残ってほしいと思っています。本屋さん、がんばって!


posted by 清太郎 at 16:17| Comment(5) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月08日

文学少女を守るデモ

iPadの日本発売を機に、電子書籍についての話題が今までになく盛り上がっております。
斜陽の出版界に対して、電子書籍は福音をもたらすのか、はてまた引導を渡すことになるのか。
業界内では、今、侃々諤々の議論が議論が行われているのであります。

しかし、その議論において、大切なものが忘れられていないか。
出版界を構成するものは、いわゆる「業界」、すなわち出版社、書店、取次だけではないのであります。
それは誰か?
もちろん、
「読者」
である!!
そんな読者不在の議論ばっかしてるから斜陽になるんじゃボケ!

というのは正論でありますが、小生が言いたいのはそういうことではないのであります。
出版社、取次、書店、それから読者。それぞれが生産、流通、小売、消費という役割を担うことで出版界は回っているわけではありますが、しかし、その営みは、単なるビジネスではありません。
それは、そう、文化、なのであります。
出版は、文化なのであります。
そして、文化としての出版を象徴するものは何か!?
それこそ、おお、われらが、
「文学少女」
なのであります!
そうなのであります。電子書籍をめぐる一連の議論において、抜け落ちているもの、それはまさに、文学少女についての視点にほかならないのであります。
何という誤りであるか!
と、小生は、声を大にして言いたいのであります。
文学少女こそ、まさに紙の本なしでは存在し得ないものなのであります。
電子書籍ではない、物理的な本を前提としてはじめて文学少女は存在するのであります。
電子書籍しか出さない出版社があってもいいでしょう。電子書籍しか読まない読者があってもいいでありましょう。
しかし、電子書籍しか読まない、iPadやキンドルやケータイの画面で電子書籍を読んでるだけの文学少女は、それはもう文学少女ではないのであります!

もちろん、文学少女には、さまざまな形態が考えられるでありましょう。
髪は腰までの長いストレートでもいいし、三つ編みお下げでもいい。
眼鏡はかけていても、かけてなくてもいい。
セーラー服でもブレザーでも、白いワンピースでもいい。
しかし、その手にしているものが、iPadであってはならないのであります。これはもう、何があろうと、紙の本でなくてはならぬのであります!
電子書籍が出版界を蹂躙しようとしつつある今、われらが文学少女は、ああ、まさに危急存亡の秋を迎えているのであります!
出版という文化に可憐に咲く花、われらが愛する文学少女。その命は旦夕に迫っておるのであります!

では、今、われわれは何をなすべきなのか。
事態は一刻を争うのであります。
静観している場合ではないのであります。
今、まさに行動が、果敢なる行動が求められているのであります。
しかし、残念ながら、できることは限られているのであります。
金と技術があれば、たとえば日本中に妨害電波を流して電子書籍のダウンロードを阻害する等できるでありましょうが、非力なわれわれにはそれができぬ。
ああ、どうすればいいのか!?
だが、同志よ、安心召され。
ここは日本、われらは日本国民なのであります。
日本国民には、言論と集会の自由という、すばらしい権利があるのであります。
その権利を、今使わずして、いつ使うのというか!?
そうだ! 同志よ、今こそ、決起せよ!
立ち上がれ! そして、集え!
ともに手を取り合い、
「文学少女を守るデモ」
をおこなうであります!!

と、口先ばかりではないのであります。
iPad発売から1週間が経った先日の金曜日、われわれは、東京都渋谷区において、デモを決行したのであります。
東京都ではデモは届出制になっているので、われわれは『貧乏人の逆襲!─タダで生きる方法』(松本 哉、筑摩書房)を参考に、抜かりなく管轄の渋谷警察署に届出を出しておいたのであります。
デモを主催する団体名は、
「文学少女を守る会」
であります。ゆくゆくはNPO法人の認可をとるつもりであります。
暑いくらいに晴れ渡った当日の午後1時半、デモ出発地の恵比寿公園に集合したのは、関東各地から集まった、我輩を含め5名の同志であります。
5名‥‥。
「少ないんじゃないの?」
と思ったそこのキミ! キミは間違っておる!
5名もいれば、たいていのことはできるのであります。戦隊の皆さんだって地球の平和を5人で守っているのであります。
5名でも戦隊であり、5名でもデモなのであります。
われわれは、先導する警察官のかた(ご苦労様であります!)に交通整理をしてもらいながら、
「文学少女を守れ!」
「いま文学少女が危機に瀕している!」
のプラカードを手に手に掲げ、威風堂々、デモ行進をしたのであります。
ルートは、恵比寿駅西口側にある恵比寿公園から、目黒通りを代官山まで行き、北上して線路を越え、青山学院大の脇を通り、青山病院前の通りを抜けて原宿へ向かい、原宿駅前で解散、であります。
あえてケータイ世代の若者に対して、文学少女の価値と希少性を訴えようではないか、という狙いなのであります。

デモ行進のさなか、沿道からは実にあたたかい声援をいただき、何度も励まされたであります。
「なんか知らんががんばれよー」
と応援していただいた見知らぬお兄さんにも、
「これ何の撮影?」
と気にかけていただいた見知らぬオバサンにも、この場を借りて、あらためてお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
また、デモ行進中の様子は、随時、twitterで、
「デモ出発なう」
「代官山アドレス前なう」
「道行く女子が写メ撮ってるなう」
などと、実況したのであります。
それに対して、
「ガンバレー」
「文学少女、やっぱり大切ですよね!」
「ボクも参加したかった!」
と、多くのかたがたから返信をいただき、これまた感謝の念に堪えません。
われわれは間違っていなかった! との思いを、さらにさらに深めたのであります。

ただ、一点だけ、遺憾に思うことがないではないのであります。
こうしてわれら5名、誠心誠意がんばった、精魂傾け、声を張り上げ、一所懸命やり遂げた、その行為に対して、当の文学少女本人から、特に何の音沙汰もなかったのであります。
いや、もちろん、われわれは代償を求めてデモ行進をしたのでは、決してない。トキやイリオモテヤマネコを守る会の人たちも、別にトキやイリオモテヤマネコから感謝されたいと思ってやってるわけではないのであります。
同様に、われわれは、何の見返りも求めぬ、誠に清い心でもって、高い志と正義を愛する心のみを糧に、立ち上がり、集い、デモを決行したのであります。
シャイな文学少女のかたがたから、ひと言の感謝の言葉もなくても、われわれは文学少女を守るべく、これからも活動を継続していく所存であります。
ただ、そこで、たとえひとりでも、いや、ただひとりでいい、可憐な文学少女のかたが、ほのかに頬を染め、
「あたしのこと、守ってくれて、ありがとう‥‥」
と、つぶやいてくれたのなら、われわれは、それだけで昇天、いや、勇気百倍なのであります。

そこで、であります。
次なる、第二回文学少女を守るデモ決行に向けて、われわれ文学少女を守る会では、
「守ってほしい文学少女」
を募集したいであります。
全国の文学少女の皆さまに、お願いであります。住所、氏名、連絡先に加え、好きな本のジャンルや作家、それにスリーサイズと写真2枚(全身写真とバストアップ)を同封のうえ、以下の宛先の、
「守ってほしい文学少女係」
まで、どしどしご応募いただきたいであります!
厳正な選考のうえ選ばれし文学少女のかた(若干名)のもとへ、われわれ文学少女を守る会の同志は、ただちに馳せ参ずるであります!
そうして、われわれは、全力でもって、われらが女神、敬愛すべき文学少女をお守りするであります!
文学少女を守るデモをはじめ、文学少女を守るシンポジウム、文学少女を守る読書会、文学少女を守る食事会、文学少女を守る伊豆温泉旅行など、文学少女を守るさまざまな活動を決行していく所存であります。
そのうえで、いずれ、
「会のみんなで守ってくれるのもうれしいけど、‥‥こんど、ひとりで守ってくれますか」
と言われたら、小生としては、えーと、その、やぶさかでないであります。


posted by 清太郎 at 21:51| Comment(8) | TrackBack(1) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月30日

使用済み国語の教科書

えー、更新をさぼっているうちに(最近こればっかだな)、世間ではiPadが発売されて盛り上がったりしてますね。
iPadで不思議なのは、これを使ってできることの一番目に、
「電子書籍」
があがってくること。うーむ、いくらiPadなら電子書籍読みやすいからって、今まで本読んでなかった人がいきなり電子書籍読むことはないでしょう。
京極夏彦の新刊が電子書籍で出たりはしてますが、とりあえず司馬遼太郎の主要作品が電子書籍で安く手軽に読めるようになるまでは、大した変化はないんじゃないかと思います。

ところで、このiPadの話題のひとつとして、教科書をこれで配信しちゃう、というのがありますね。電子教科書として、とってもいいツールである、と。
視覚に障害がある人なんかへのサポートは必要としても、実際、各教科の教科書がすべてiPad1台におさまるのなら、かなり便利になりそうです。当面は一部の高等教育の場だけなんでしょうけど、こうしたスレート型端末がどんどん普及すれば、紙の教科書はすべて一掃されて、小学生があんな大きなランドセルを背負わなくて済むようになるかもしれませんね。
同時にクラウド化もどんどん進むでしょうから、わざわざ端末を持ち運びしなくても、学校では学校の、自宅では自宅の端末にログインすれば、すべてOK。手ぶらで登校しても、何の支障もないような日が来るかもしれません。

おお、なんと素晴らしいことではないか、iPadワンダホー、ITバンザイ!
と、手放しで喜んでいる人が世の中には多いようですが、しかし、本当にそれでいいのか。
電子化によって、便利になるのと引き換えに、われわれはもっと大切なものを失ってしまうのではないか。
いや、失うのではないか、ではない。失ってしまうのです!
われわれは断固として、この電子化の流れに、反旗を翻さねばならんのです!
というのが、今日のテーマです。

では、教科書の電子化によって失われるものとは何か。
まあ、ちょっと、聞きなさい。
iPad教科書で、誰もが喜ぶわけではありません。悲しい思いをする人も、いっぱいいるんです。
もちろん紙の教科書がなくなれば、ランドセル業者や教科書専門の印刷屋さんなどは、悲しむでしょう。でも、そういう話をしているのではありません。
ビジネスではなく心、感情、愛のレベルの問題なのです。

たとえば、教科書の電子化によって悲しむのは、4年2組のケンタくんです。
ケンタくんは、隣の席のユリコちゃんに片思いをしています。
従来の紙の教科書であれば、
「センセーイ、僕、教科書、忘れちゃいましたー」
「あら、ケンタさん、しかたがないわねえ、隣のユリコさんに見せてもらいなさい」
「ハーイ!」
と、隣の席ながらふだんはなかなか話しかけられないユリコちゃんと、一冊の教科書を分け合って、必要以上に密着して、なんかこういい匂いが漂ってきたりして、もうドキドキ。でもって、肩がちょっと触れ合っちゃったりなんかして、さらにさらに、ページをめくるときに偶然を装って、ちょこんと、指を、指を‥‥! ハアハア、もうオレ、今ここで死んでもいい‥‥。
ということができました。
しかし、紙ではなくスレート型端末であれば、そうはいきません。
「センセーイ、僕、教科書、忘れちゃいましたー」
「あら、ケンタさん、しかたがないわねえ、じゃあ学校の備品を使いなさい」
でおしまい。いや、上に述べたようにクラウド化が進めば、「教科書を忘れる」ということがあり得ないシステムにもなるでしょう。
ケンタくん、もうガッカリ。
教科書の電子化によって、ケンタくんは、せっかく隣になったユリコちゃんの肩にも指にも触れることのないまま、席替えになっちゃうのです!

そして、悲しむのは、こうして幼い恋を邪魔されたケンタくんをはじめ少年少女だけではありません。
すでに学校を卒業して久しい、われわれ大人も、大いに悲しむことになるのです。
だって、紙の教科書がなくなってしまうのですよ!
紙の教科書がなくなる、ってことは、算数/数学の教科書や理科、社会の教科書がなくなるだけではないのですよ。
そう、そうです。
国語の教科書、ぼくたちの国語の教科書も、なくなってしまうということなのです!

どうですか、ホラ、そう言われて、思わず青ざめた男子諸君も多いのではないか。
何しろ、国語の教科書なのです。
そこには、ぼくたちの、夢とロマンと愛が、詰まっているのです。
学校、というこの近代が生み出した不条理なシステムにおいて、ぼくたちはそれでも、そこに、人間的な夢を、ロマンを、そして愛を見出してきました。
学校の、どこにか。
そう。
すなわち、セーラー服、スクール水着、体操着、上履き、リコーダー、ピアニカの口にくわえるアレ‥‥。
ああ、なんという夢でしょう、ロマンでしょう、愛なのでしょう!
そして、ぼくたちは、セーラー服やスクール水着、リコーダーなどにおいて、清らかな女子小中学生、高校生の身体的なものの象徴を感じてきた一方で、彼女たちが使った使用済みの国語の教科書に、精神的なものの象徴を感じてきたのです。
たとえば裏表紙に書かれた名前は、粗野な男子とは異なる、繊細で几帳面な、女子ならでは筆跡で。
ちょうどいい塩梅に手垢で黒ずんでいるけれど、ページにあまり折れがないのは丁寧に扱われた証拠で。
何より、お手製のカバーがかけられていたりして。
でも、中を開くと、あちこちにかわいらしい落書きが。
正岡子規はアフロになっていて、芥川龍之介の鋭い目からはなぜか怪光線。
「走れメロス」には、ページの隅に、メロ×セリを二重線で消してその下に花丸囲みでセリ×メロ!!!と書いてあったりしたら、もう悶絶、卒倒。
女子小中学生、高校生の使用済み教科書をめくることで、ぼくたちはたとえようもない夢とロマンと愛を感じてきたのです。興奮と悦びと、そして安らぎを得てきたのです。

そしてそのすべては、紙の教科書であってこそ、なのです。
電子化されてしまっては、それらは決して味わえません!
あのめくるめく興奮が、悦びが、安らぎ、感動、味わいが、失われてしまうのです!
ああ、なんということ!!

と、こう言うと、
「まあ、教科書は、しかたがないよ、あきらめよう。教科書がなくっても、ぼくたちには、ほら、セーラー服が、体操着が、スクール水着があるじゃないか!」
とほざく男子がいるやもしれぬが、キミ、それは間違っとる!
教科書は、端緒にすぎないのです!
教科書の電子化を許せば、どうなるか。
それを皮切りに、学校内のあらゆるものが、次々と電子化されていくことでしょう。
黒板が、掲示板が、名札が、白線引きが‥‥、そしていずれは、紙の教科書が失われたように、布のスクール水着も失われ、
「電子スクール水着」
になってしまうのです!
それでもいいというのか、キミは!!
イカンだろう、ダメだろう、エッ、そうではないのか!?
電子スクール水着じゃ、どうにもならんだろう!
そうです!
電子スクール水着になってしまってから、泣き叫んでも、遅いのです!
そうなる前に、われわれは、先手をうたねばならんのです!
教科書という水際で、電子化を食い止めねばならんのです!
ぼくたちの大好きなスクール水着を電子化から守るために、いざ立ち上がれ! 教科書の電子化、断固反対!!



と、以上、このように、教科書の電子化に対して異を唱えている男子がいたら、それはスクール水着ファンだと思って間違いはないので、女子の皆さんは用心しましょう。


posted by 清太郎 at 20:56| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月05日

一箱古本市に行ってきた

5月2日の日曜日、「一箱古本市」に行ってきました。
一箱古本市っていのは、プロの古本屋さんやアマチュアの本好きが、それぞれみかん箱くらいの箱1つ分の古本を持ち寄る青空古本市です。
場所は谷根千(谷中・根津・千駄木)。根津神社のつつじ祭り期間中のこの時期と秋に毎年開催されているようです(これまで気になりつつも、なかなか縁がなかった)。
シキさんのお誘いで、すずめの巣さん(作務衣にサンダルで、すっかり地元民スタイル)と3人で連れ立って、5月の青空の下、古本「箱」めぐりを堪能してきたので、簡単にレポートします。

さて、11時半に千駄木駅で待ち合わせて、いざ出発。意外な人出で、千駄木から谷中にかけての商店街は、けっこうな賑わいです。多くは古本と関係ない下町観光の人なんでしょうけど、谷根千エリアって、いつの間にかこんなに人気スポットになってたのね。
で、とりあえずは駅近くの「コシヅカハム」へ。古本市に協力してくれるお店の店先なんかを借りて、数組の店主さんたちが「箱」を出しているのね。2日は10ヶ所に55箱が出品されていました(この日は2日目。1日目は4月29日でした)。コシヅカハムでは、10箱の店主さんがズラリ。
ここで異彩を放っていたのが、あの書評家の豊崎由美社長で、のっしと立ち上がってオススメ本講釈をしておられました。購入者には、「幸あれ〜」と豊崎社長から祝福の言葉。シキさんが買った文庫本には、おすすめのヒトコト栞に加えて、サインと金ぴかハンコが捺されてました。
私もさっそくお買い物。豊崎社長のところでは残念ながら「コレ!」という本は見つからなかったのですが、地味に見えてなかなかステキなセンスの「あり小屋」さんで買ったのが、
(1)獅子文六『娘と私』(新潮文庫)200円
(2)尾崎一雄『閑な老人』(中公文庫)200円
獅子文六のほうは、ちょっと前に評伝『獅子文六 二つの昭和』を読んで以来、気になっていた一冊。「娘」というのは、文六とフランス人の奥さんの間に生まれた子です。獅子文六、とても国際人なのです。奥さんは日本に来たものの、言葉も通じないし心を病んでフランスに戻っちゃうんだけどね。
尾崎一雄のほうは、パラパラめくると、「虫のいろいろ」みたいな虫関連の随筆が多いみたい。店主さん曰く、「尾崎一雄が売れるとは思わなかった」だそうですが、いや、意外に人気ですって。
最初だし、記念に写真撮影。皆さんこんな感じで「一箱」の本を出しています。

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それともう一冊、「まぶしがり屋」さんで、
(3)ソール・ベロー『宙ぶらりんの男』(新潮文庫)10円
ソール・ベローは、古きよき時代のアメリカのビルドゥングスロマン『オーギー・マーチの冒険』が無類におもしろいノーベル賞作家。今の日本ではまったく読まれてませんが、将来の見えない不安な日常を生きるような作品を書いてます。『ハーツォグ』とかハヤカワNVで出てるのを持ってますが、新潮文庫でも出てたのね。陸軍に徴募したんだけど入隊まで7ヶ月待ちで、就職もできない、タイトルどおりの「宙ぶらりん」状態の話みたい。よくわかんないけどダメ男小説なんでしょうか。保存状態はよくないけど、10円ではなんだか申し訳ない作品です。

以上、いきなり3冊購入で、おお、なんだか幸先がいいぞう。
次は、8箱「古書ほうろう」。
ここでは、書評家の岡崎武志さんによる「岡崎武志堂」で、
(4)高野文子『棒がいっぽん』(マガジンハウス)400円
いつか古本屋で見つけたら買おう、と思ってた一冊です。ここで見つけたので買いました。
購入者はおみくじを引かせてもらえて、ジャジャーン、
「中吉」
でした。
「古本運は絶好調。ほしい本が向こうからやってくる」
だそうで、おお、ますますボルテージが上がります。

とはいえ、そこでしばらく停滞。続く花歩、アートスペース・ゲント、貸し原っぱ音地の3スポットでは空振りでした。
一冊、永沢光雄『声をなくして』というのを見つけて、永沢光雄ってもしかしてあの人? 名作『AV女優』の? 声をなくしてって、えっ、咽頭ガン!? そんなたいへんなことになってたの!? と気になったのですが、ハードカバー単行本で500円ではなあ、まあ図書館で借りようかなあ、と名残惜しくスルーしました。

ところで、このあたりでちょうどわれわれと歩調を合わせるかのように、
「痕跡本ツアー」
の一行と先々で遭遇。痕跡本っていうのは、ようするに、書き込みのある古本のようです。通常は嫌われる書き込みに、あえて価値と意味を見出すという、マニアックな趣向のよう。
それにしても、どんな書き込みが喜ばれるんでしょうか。やっぱり、
「不治の病で余命いくばくもない十代の美少女が書き込んだ、死を予感させるピュアな言葉」
などでしょうか。岩波文庫のカントやヘーゲルあたりで、
「おもしろいけど難しい‥‥。でも、これを理解するには、あたしの命が足りないわ‥‥」
といった書き込みがあると、痕跡本ファンは悶絶、鼻血なのか。いや、これだったら痕跡本ファンならずとも鼻血ですわな。ともあれ、気になるところです。

その後、藍と絹のギャラリー前で、SNS「やっぱり本を読む人々。」の一箱から、
(5)ジョー・ホールドマン『ヘミングウェイごっこ』(ハヤカワSF文庫)200円
を購入。ホールドマンは超ハード死闘戦争SF『終りなき戦い』の人ですね。『ヘミングウェイごっこ』というのは知らなかったんだけど、ヘミングウェイの贋作小説を書いていたら目の前にヘミングウェイその人が現れた、という話のようで、うーむ、気になる、と思わず手が出ました。

汗ばむくらいの陽気の中、「箱」めぐりはまだまだ続きます。途中で、金ぴか観音がそびえ立つ大円寺に立ち寄って(たまたま門前を通りがかったので)、三遊亭圓朝のお墓にお参りした後、特養ホーム谷中へ。
ここで、えーと、店主さんの名前忘れちゃったけど、ちっちゃい娘さんがいるお父さんによる「箱」の中に、あーっ、さっきの本がここにも!
(6)永沢光雄『声をなくして』(晶文社)250円
先ほどの半額で、しかも保存状態も上。置き場もないのに単行本で、ちょっと躊躇ったんですが、でも、これが、あれですよね、「ほしい本が向こうからやってくる」ということなんですよね。と、古本の神様(というか岡崎武志の)のお告げを信じました。

次に、TOKYOBIKE no OFFICE、Gallery Jin + classicoで、えーと、これも店主さん名を忘れちゃったけど、
(7)吉田健一『本当のような話』(中公文庫)200円
吉田健一のまだ読んでない小説で、しかも200円なら、買わざるをえないでしょう。ちなみに200円というのは、本についてる定価と同じです。おー、定価販売。
それともう一冊、
(8)子母澤寛『味覚極楽』(中公文庫)200円
ちょっと古めの食べ物エッセイが、このところわりと好きなので。『父子鷹』なんかの子母澤寛によるこの本は、パラパラ見ると、本人の随筆というより、有名人の聞き書きなのね。まだ読売新聞の記者だった若い頃に新聞の1コーナーとして連載したものに、30年後、一編一編に注のようなおまけエッセイをつけて一冊にまとめた、という本のようです。最初の連載は昭和2年で、「有名人」として小笠原長幹をはじめ伯爵、子爵がごろごろ。その中に、「印度志士ボース氏の話」なんてのも。中村屋のラース・ビハリ・ボースですね。わー。
ちなみに、ボースによると、「カレーをこしらえる上で一番大切なのは、カレー粉より何により、バタのいいのを選ぶことです」だそうです。

最後に往来堂書店へ回って、おしまい。本日の収獲は、以上の8冊でした。
もう2時を回っていましたが、近くの中華屋さんで祝杯。ビールプハーッ!
記念に、収獲写真をパチリ。左側は、すずめの巣さんの獲物です。

hako02.jpg

中華屋では、ビール(中ジョッキ350円の嬉しい下町価格!)をうぐうぐしつつ、本日の収獲についての語り合いは早々に終えて、
・天津丼はなぜ天津丼なのか。中華丼はなぜ中華丼なのか。なぜ日本丼やフランス丼がないのか。
・「伊」の字には何か意味があるのか。なぜ井伊直弼の「井伊」は「伊井」じゃないのか、伊は井より弱いのか。となると、たとえば藤、伊、井の三者の間には、井>伊>藤>井‥‥、というじゃんけんのような関係があるのか。
・将棋キャバクラというのもいいんではないか。キャバ嬢みんな将棋ができて、でも店内には将棋盤はなくて、「4六歩」「きゃー、お客さん、それ、ありえなくなーい!? じゃあー、あたしー、同銀」などという会話を楽しむの。
などといった論点について真剣に討議し、ゴールデンウィークらしい有意義な時間を過ごしました。シキさん、すずめの巣さん、おつかれさま。いずれはぜひ、出品者側で参加しましょう!


posted by 清太郎 at 09:51| Comment(7) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月10日

岩波文庫を早光戦に乱入させる

行きつけの本屋さんでやってなかったので、3月下旬になるまで全然知らなかったんだけど、
「早光戦」
なんてのがあります。
早川書房と光文社の合同フェア、
「文庫・早光戦 五番勝負」です。
「二社の豊富なラインナップが五つのジャンルで対決! 幅広く、賑やかに、強烈に五番勝負を繰り広げます!
両者を読み比べることで、新たに見えてくる切り口……文庫の新しい楽しさ、面白さが生まれるはず。
さあ、新たな伝統の一戦が始まります!」
とのこと。

わー、なんだかおもしろそうではないですか。
そうそう、こういうのを読者(一部の)は求めてるのよ!
観戦してるだけでは、もったいない。ぜひとも参戦、乱入したい!
ということで、勝手ながら岩波文庫を乱入させてみることにしました。早光岩バトルロイヤルです。

早速、一番勝負から‥‥。

【一番勝負】
読めば惚れずにいられない!?
キャラクター対決

魅力的でキャラの立った作品が、一対一で真剣勝負。あの名探偵、名刑事、剣豪VS名ガンマンまで。軍配はどちらに上がるのか?

女性刑事・探偵対決
[ハヤカワ(以下、早)]探偵V・I・ウォーショースキー
[光文社(以下、光)]警部補 姫川玲子

「一番勝負」はいきなりミステリ戦で、岩波としてはかなり不利。岩波文庫のミステリっぽい作品って、シャーロック・ホームズ(本屋さんに並んでるの見たことない気がするけど)と、「江戸川乱歩短篇集」と、ボルヘス「伝奇集」の中のいくつかと、えーと‥‥。というくらい。
なのに、その最初が、「女性刑事・探偵対決」って、そりゃ無理でしょ。
ということで、とりあえずの代表は、ホフマン「スキュデリー嬢」(これも本屋さんで見たことないが)のタイトルになってるヒロイン、スキュデリー嬢。宝石強盗殺人で、被害者の弟子が犯人として捕まった事件で、その弟子は無実だ、と確信する女流詩人スキュデリー嬢が真相を探る‥‥、って話なんだけど、でも、このスキュデリー嬢、「嬢」とかいって、70過ぎ。老婆ファンには間違いなくオススメなんですが、探偵ウォーショースキーには惨敗です。
ちなみに、光文社古典新訳文庫からも「黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ」として出ています。

超人的記憶力対決
[早]パン屋の店員 チャーリイ
[光]陸軍二等兵 東堂太郎

ボルヘス「伝奇集」の1編、「記憶の人、フネス」のイレネオ・フネスは、あまりにも記憶力がよすぎて普遍的なプラトン的観念をもつことができない、「鏡に映った自分の顔や自分の手がつねに彼を驚かせた」というんだけど、なんか地味ですね。東堂二等兵に完敗です。

元祖名探偵対決
[早]灰色の脳細胞 エルキュール・ポワロ
[光]名探偵 明智小五郎
元祖名探偵といえば、やっぱりポーの「モルグ街の殺人」のオーギュスト・デュパンですよね。岩波文庫からもポオ『黒猫・モルグ街の殺人事件』が出ています。中野好夫訳。まあでも、探偵としての実力は、ポワロや明智君に及ばないかしら。数編にしか出てこないし。

人情派対決
[早]元祖ハードボイルド フィリップ・マーロウ
[光]捜査一課検視官 倉石義男
人情派で岩波文庫代表となると、これはもう、O・ヘンリの短編「改心」に出てくる探偵ベン・プライスに決まりでしょう。
かつて凄腕の金庫破りとして名を馳せたジミィと、彼を追うベン。愛に目覚めたジミィは、泥棒から足を洗おうと決めたが、金庫室に子供が閉じ込められて、「自分なら子供を救える、でもその瞬間、自分が金庫破りだとばれてしまう‥‥」という究極の選択。意を決して、子供を救ったジミィは、待っていたベンにおとなしく両手を差し出すが、ベンは、「何か誤解していらっしゃいませんか。あなたが誰だったか、記憶にありません」。
まあでも、勝負したら勝つのはマーロウかな。

私立探偵対決
[早]和製マーロウ 沢崎
[光]無頼探偵 野崎通
上に書いたように、岩波文庫でもシャーロック・ホームズが出てます。でも新潮よりも翻訳新しいくせに実物を見たことすらないし、不戦敗かしら。
とはいえ、ハヤカワの代表も光文社の代表も、どっちも知らない人です。すごい探偵なの?

ダーティヒーロー対決
[早]泥棒 ジョン・ドートマンダー
[光]外道の剣客 柴新九郎
ダーティーヒーローといったら、岩波にはいっぱいいそう。『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』のティル・オイレンシュピーゲルとか、『ハックルベリー・フィンの冒険』のハックとか、鼠小僧とか弁天小僧とか。しかしやっぱり、いろんな意味(とくに糞尿的な意味で)で「ダーティー」なヒーローといえば、ラブレー『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』のガルガンチュワ&パンタグリュエル父子がいちばんかしら。

悪女対決
[早]魅惑の女学生 メラニー
[光]謎の才色兼備 君島沙和子
えーと、これについては、サロメがいいとか「三銃士」のミレディがいいとか「高野聖」の女がいいとか数多の悪女ファンからさまざまな意見が提出されることでしょうが、ワタクシとしましては断然、ラクロ『危険な関係』のメルトゥイユ侯爵夫人をベスト悪女として推薦させていただきます。ハヤカワ・光文社の小物悪女なんてメじゃありません。

ハミ出し警察官対決
[早]一匹狼 リーバス警部
[光]新宿鮫 鮫島警部
うーむ、岩波文庫に出てくる警官キャラって誰がいたっけ、というあたりでそもそも思いつきません。泉鏡花『夜行巡査』の八田は私情よりも職務に殉じるハミ出さない警察官だし‥‥。

成長キャラ対決
[早]夏休みの小5三人組
[光]読者とともに成長 杉原爽香
成長といえば、やはり伝統あるドイツの王道ビルドゥングスロマンでしょう。ゲーテ『ヴィルヘルム・マイステルの徒弟時代』および『遍歴時代』とか、あるいはノヴァーリス『青い花』、ケラー『緑のハインリッヒ』、トーマス・マン『魔の山』‥‥。王道すぎて、なかなか読む気になれないのですが‥‥。

剣豪 vs. ガンマン対決
[早]保安官 ワイアット・アープ
[光]素浪人 月影兵庫
岩波文庫に出てきた剣豪、ガンマン? えーと、三銃士の皆さんは「剣豪」というのとはちょっと違うし、えーと、えーと、ええい、もうここは、剣豪本人に出てきてもらいましょう。宮本武蔵『五輪書』、あるいは柳生宗矩『兵法家伝書』。うーん、でも、なんだか微妙‥‥。

ということで、岩波文庫、鼻息荒く乱入したものの、10戦のうち、7敗。ぜんぜんダメでした。

二番勝負
可愛いだけじゃありません!
動物作品対決

事件の陰に動物あり!? ミステリからエッセイまで、両文庫の動物登場作品が対決。ネコ対ネコ、犬対犬のオーソドックスな対決から、「それってあり?」な対決まで。

猫探偵対決その1
[早]猫は殺しをかぎつける
[光]三毛猫ホームズの危険な火遊び
人間の探偵でさえ人材不足なのに、猫探偵だなんて! 何そのハンデ! 岩波に不利すぎる!(当たり前だけど)、と思ったのだけど、いや、考えてみれば、漱石の『吾輩は猫である』の猫なんて、いいかも。
だってホラ、あらためて考えてみると、この作品の冒頭、めちゃんこハードボイルド! 漱石風の戯作的言い回しを現代風に言い換えれば、
「俺は猫だ。いまだ名はない。」
なんだもんね。シビレル! 三毛猫ホームズなんて一蹴!
それにこの猫、あとで『「吾輩は猫である」殺人事件』(奥泉光)にも出てるし。

猫探偵対決その2
[早]猫探偵ジャック&クレオ
[光]猫は密室でジャンプする
ちょっと何、また猫探偵!? 『我輩は猫である』の猫に勝てなかったからって、それはないんじゃないの。とりあえず、ホフマン『牡猫ムルの人生観』のムルを出場させますが、うーん‥‥。

架空生物対決
[早]妖女サイベルの呼び声
[光]魚舟・獣舟
ハヤカワがあえて『幻の動物たち』や数多のSF作品を出さなかったのは、光文社にあわせてレベルを落としたからか? 岩波で架空生物っていったら、泉鏡花の『夜叉ヶ池・天守物語』とか『草迷宮』とか‥‥。あ、でも、鏡花もいいけど、どうせなら『西遊記』かな。

名犬 vs. バカ犬(?)対決
[早]マーリー
[光]名犬フーバーの事件簿
名犬というかバカ犬というか、存在感のある犬といえば、『ボートの三人男』のモンモランシーでしょう。最近、丸谷才一訳の中公文庫版がリニューアルされてましたが、しかし岩波版は、1941年発行の浦瀬白雨訳。読んでみたいけど、なかなか入手できるものではありません。残念ながら、不戦敗ということで。

動物学者対決
[早]ソロモンの指環
[光]シートン(探偵)動物記
ど、動物学者って、えーと、誰かいたっけ。ウェルズ『モロー博士の島』っていうのは、反則でしょうか。

会話する犬対決
[早]犬ですが、ちょっと一言
[光]犬にどこまで日本語が理解できるか
ちょっと、なんか、どこまで岩波文庫不利なのよ! 嫌がらせ? いじめ? ホントに「それってあり?」だよ。
と思ったけど、そういえばゴーゴリの『狂人日記』で、犬がしゃべってなかったっけ。手紙書いてるし。

虫対決
[早]虫づくし
[光]昆虫探偵
虫だったら、負けませんよ。ファーブルもありますが、それよりも、カフカ『変身』です。巨大な毒虫です。脚いっぱいです。かたい甲羅です。キモイです。ゾワゾワです。でも最後がなあ‥‥。

★名脇役対決
[早]夏への扉
[光]スパイク
ハヤカワに本命『夏への扉』を出された時点で、もう何を出しても負けのような気がしますが、えーと、アナトール・フランス『シルヴェストル・ボナールの罪』に出てくるハンニバルとハミルカル、ってのはどうでしょうか。

荒野の動物対決
[早]すべての美しい馬
[光]白い牙
うーん、いろいろ考えたんだけど、思い当たらず。無念。岩波からも『白い牙』出てます。ジャック・ロンドン、いいです。でも作品よりも、その伝記『馬に乗った水夫』(アーヴィグ・ストーン)のほうがもっといいです。以前はハヤカワNFに入ってましたが、今は文庫じゃなくなっちゃいました。

進化論対決
[早]ワンダフル・ライフ
[光]種の起源(上)
進化論で、この2冊の前に、何を出せというのですか‥‥。えーと、ラマルク『動物哲学』? なんか勝負する前にもう負けてます。

ということで、二番勝負は10戦のうちやっぱり7敗、もしくは8敗。岩波、惨敗です。

三番勝負
事実は小説より奇なり?
ノンフィクション・エッセイ対決

同じジャンルでも対比させると見えてくる両者の持ち味。いずれも、人生を豊かにする事うけあいの傑作揃い。

[ハヤカワ文庫]
ホーキング、宇宙を語る
二重らせんの私
変な学術研究1
妻を帽子とまちがえた男
五人のカルテ
はじめての現代数学
子供たちは森に消えた
セックスとニューヨーク
大西洋漂流76日
ブラヴォー・ツー・ゼロ

[光文社文庫]
ガラスの地球を救え
今日の芸術
風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険
アインシュタインの宿題
お母さんという女
もっと声に出して笑える日本語
札幌刑務所4泊5日
他諺の空似
永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編
菊と刀

ハヤカワ文庫は、以前NFに入っていた硬派骨太男のノンフィクション名作群(ムーアヘッド『恐るべき空白』とかラピエール&コリンズ『さもなくば喪服を』とか)を軒並みノンフィクション・マスターピースのレーベルに移しちゃったんで、なんだか寂しいラインナップ。でも光文社に比べれば、まだまだイケそうな感じです。
これらに対する岩波文庫のノンフィクション・エッセイは‥‥。

高群逸枝『娘巡礼記』
 もうこれはすべての乙女ファンに読んでもらいたい、足バタバタものの萌え旅日記。
『寺田寅彦随筆集』
 科学エッセイの基本の基本でしょう。
『中谷宇吉郎随筆集』
 『雪』もいいけど、いろんな話題のあるこちらを。師匠の寺田寅彦には及びませんが、科学者らしいステキエッセイです。同じく寺田寅彦の弟子の平田森三のエッセイがハヤカワに入っていて(『キリンのまだら』)、そっちもなかなかステキです。
・キャサリン・サンソム『東京に暮す 1928-1936』
 ガイジンの日本滞在記は、幕末のアーネスト・サトウやらヒュースケンやらビゴーやら、岩波の青からいっぱい出てますが、1冊挙げるなら、これ。著者による微妙にヘタな絵が、なんだか萌えます。このころの日本人は、のんびり生活してたんだなあ‥‥。
メンヒェン=ヘルフェン『トゥバ紀行』
 この本、なぜかうちに2冊あります。しかも、1冊は旅先でなくしたことがあるし。しかも、いまだはじめのほうしか読んでない。
長谷川如是閑『倫敦! 倫敦?』
 以前、はじめてロンドンに行くとき飛行機の中で読んだら、本書の中のロンドン(1910年)が現代のロンドンとさして変わりがないので驚きました。
F.キングドン-ウォード『植物巡礼―プラント・ハンターの回想』
 英国が世界に君臨していたころ、園芸に使えそうな植物を求めて、世界中の未開の地を探索したのが、プラントハンターたち。というだけで、けっこう興奮しますよね。

えーと、ほかにもいろいろありそうだけど、そろそろ飽きてきたので、このくらいで。

【四番勝負】
すべてお馴染み!
映像化作品対決

古典的名作から最新話題作まで。映画やTVの原作本対決。「読んでから観るか、観てから読むか」。あなたはどちら?

映像化された作品なんて、『伊豆の踊子』から『戦争と平和』まで、ブンガクものを中心に岩波にこそいっぱいありますが、映像の方はほとんど見たことないので、パス。
一応、ハヤカワと光文社、それぞれのリストを挙げておきます。

[ハヤカワ文庫]
フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電機羊の夢を見るか?』
デニス・ルヘイン『ミスティック・リバー』
マリオ・プーヅォ『ゴッドファーザー(上・下)』
カービー・マッコーリー編『闇の展覧会―霧』
アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』
エド・マクベイン『キングの身代金』
アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ 完全版』
クリストファー・プリースト『奇術師』
リアノー・フライシャー『レインマン』

[光文社文庫]
内田康夫『横浜殺人事件』
大薮春彦『野獣死すべし』
宮部みゆき『長い長い殺人』
東野圭吾『ゲームの名は誘拐』
高木彬光『白昼の死角 新装版』
みうらじゅん『色即ぜねれいしょん』
荻原浩『明日の記憶』
松本清張『鬼畜』
エリス・ピーターズ『聖女の遺骨求む 修道士カドフェル1』
コンラッド『闇の奥』

なんだか光文社の方は小粒ね‥‥。

【五番勝負】
エール交換!
自薦・他薦対決

「この作品なら負けません」「この作品は羨ましいぞ」出版社の枠を越えてオススメ。一冊ごとに各社推薦者の力の入ったコメント帯付。

早川書房と光文社がそれぞれ自社文庫のイチ押し5冊と相手の5冊を選ぶ、という趣向で、そうなるとこの勝負のためには、あらためてハヤカワ、光文社、そして岩波各文庫のベスト5を選考しなくてはならず、そんなことを考えはじめたら楽しいけど1日や2日では選べそうもないので、これもパス。
これもハヤカワ、光文社のリストを挙げるだけにしておきます。

[早川書房、自社のイチ押し!]
人類が消えた世界
わたしを離さないで
天の光はすべて星
華氏451度
深夜プラス1
[早川書房社員が薦める光文社文庫]
黒猫/モルグ街の殺人
ひとにぎりの異形
猫島ハウスの騒動
最後の願い
放送禁止歌

[光文社、自社のイチ押し!]
祝山
ビジネス・ゲーム
猫とともに去りぬ
オイディプス症候群(上)
シルバー村の恋
[光文社社員が薦めるハヤカワ文庫]
あなたの人生の物語
悪童日記
シーラという子
女には向かない職業
図書館の死体

ということで、いずれにせよ、岩波文庫、自分から乱入したくせに、あえなく返り討ち。
まあ、もともと勝負自体がハヤカワ文庫と光文社文庫に有利なように設定されているのだから、しかたがないかもしれないけど。
これが、
「江戸時代対決」
「哲学者対決」
「中国古典対決」
などであれば、ぜったい岩波が勝ったのになあ。残念。

ところで、全体的に、ハヤカワSFが冷遇されてる気がするんだけど、どうなのか。これだけのリストの中に、SFが3冊しかないってのは、どういうわけよ。あるいはSF対決は、水面下で計画中の創元推理文庫とのガチ対決のために温存してあるのか。今後の展開が気になるところです。
でもって、この対決、敗れた方の編集者は頭丸刈りとか鼻でスパゲティ食べるとか、何か罰ゲームがあるんでしょうか。それも気になるところです。


posted by 清太郎 at 21:37| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月01日

読書家向けキャバクラ「檸檬」体験記

前回の「キャバクラ本屋」を読んだというかたから、1通のメールをいただきました。

>こんばんは。
>池袋でお店を何軒かやってる者なのですが、
>そのうち1つが、読書家向けになっています。
>(中略)
>いかがですか、一度遊びにきませんか。
>ブログで取り上げていただけるのでしたら、料金半額でかまいません。
>ジュンク堂の裏あたりにある、「檸檬」というお店です。(後略)

とのことで、読書家向けキャバクラ!
しかも店名は「檸檬」!
さらに料金半額!
えーと、まあ念のために申しておきますと、私自身は、キャバクラなんていうものに興味があるわけではありません。しかしながら、一部の読書家向けブログを標榜している以上、こうした申し出を無碍に断るわけにもいかないでしょう。
読書家向けキャバクラとはいかなるものか、本当に読書家を満足させられるのか、その真偽のほどを、ぜひ確かめなくてはなりません。
ということで、決してキャバクラに興味はないのですが、お店を取材させていただくべく、先日の金曜の夜におじゃましてきました。以下、そのレポートです。

お店があるのはジュンク堂池袋店から200メートルくらいのところ。
駅とは反対側ですが、ジュンク堂やリブロで買い込んだ本を抱えてくるお客さんも多いと、後で聞きました。
メールをくれたオーナー氏はいなかったのですが、
「オーナーから話はうかがっています」
と、黒服のボーイさん(というのかな?)が丁寧に案内してくれました(こういうお店に入るのは初めてなんですが、なんだかすごく物腰やわらかなのね。どこでもそうなの?)。
店内は薄暗くて、どのくらいの広さなのかいまひとつよくわかりませんが、壁際に本棚がずらりと並んでいたりとかはしないみたい。うーん、何が「読書家向け」なんだろう。
ソファに腰掛けると、とりあえずそのボーイさんが、料金について説明してくれました。繰り返すけどこういうお店は初めてなので、ちょっと警戒してたのですが、いちおう明朗会計なのね。
説明によると、料金システムは、「セット料金」になっているとのこと(ふつうのキャバクラと同様だそうです)。45分が1セットで、5,500円(税・サービス料込み)。この料金には、ハウスボトル(ウィスキー)の飲み放題も含まれています(これもふつうのキャバクラと同様なんだって!)。ただし、女の子が飲むと、その分の料金が加算されるとのこと。なるほど。
ほかに、女の子の指名料が2,000円または3,000円なのだそうですが、今回は初めての来店だから関係ないよね。45分で出てきちゃえば、5,500円で済むのか(今日は半額だから、2,750円!)。へー、キャバクラって、思ってたより、ずいぶんリーズナブルなのねー。

ボーイさんの説明が終わると、さっそく女の子が隣に。
「こんばんは〜」
こ、こんばんは。なんだか緊張します。
「お客さん、はじめてですか?」
はいっ、はじめてどころか、キャバクラ自体がはじめてですよ初体験ですよリアルキャバ嬢と初会話ですよ。
「えー、やだ、そんなこと言われると、あたしも緊張してきちゃうー」
という彼女は、キリノちゃん。クリッとした目でかわいらしい顔ですが、キャバ嬢というわりにはふつうの格好で、髪型も別にモサモサアップにしてません。っていうか、店内見渡すと、どの女の子も、いわゆるキャバ嬢っぽい姿ではありません。なるほど、そのあたりはちょっと、読書家向けなのかも‥‥。
そのキリノちゃんの胸元には、名札がついてます。見ると、名前の上に、
「小説一般」
という文字が。
ん? これって、もしや‥‥。
「あ、これですか? あたし、小説一般が担当なんですー。小説なら、こう見えても、けっこう読んでるんですよ、あたし。ほかにも、マンガとか、社会とか、自然科学とか、歴史とか、ビジネスとか、いろいろあってー」
おおお、読書家向けって、そういうことでしたか!
名札にジャンル名とは、ジュンク堂と同じ。心憎い演出です。
ちなみに、キリノちゃんのように、ピンクのプレートに黒い文字の女の子は指名料2,000円、逆の黒いプレートにピンクの文字なら指名料3,000円とのこと。後者は「SF」とか「時代小説」とか「詩」とか、よりジャンルを絞った担当なのだとか。
また、相手の女の子の担当ジャンルが自分の好みと合わない場合、あるいは他の女の子と話したい場合は、いくらでも変更可能だそうです(キャバクラ用語で「チェンジ」というそうです)。

まあとにかく、そういうことでしたら、遠慮なく本の話をさせていただきましょう。
えーと‥‥。
などと、いきなり詰まる私。何度も言うようにキャバクラなんて入るのはじめてですから、女の子相手にどんなふうに会話したらいいのか、よくわかりません。そもそも、こんな若くてかわいい女の子と本の話をする(いや、本以外の話も含めて)なんて、いつ以来だ‥‥?
とはいえ、そこはそれ、キャバクラなんですから、たとえ外見はキャバ嬢に見えなくとも、相手はプロ。私のようなウブな客に対しても、ちゃんと会話をリードしてくれます。
「最近読んだ小説で、何かおもしろかったの、ありますー?」
えーと、えーと、最近、何読んだんだっけ。
「あたしはねー、お客さん、知ってますか? 辻原登の『抱擁』‥‥」
あ、それなら、私も読んだ読んだ。
「やーん、うれしい! この本のこと話せるお客さんがいなくって」
おお、では、まず『抱擁』について話そうではありませんか。『抱擁』のどんなとこがよかったの?
「えーっと、『ねじの回転』っぽいとこ‥‥、なんていうと、お客さん、引きません?」
いや、もう、引くどころか。『ねじの回転』、いいではないですか!
というところから始まって、『抱擁』と『ねじの回転』の比較、信頼できない語り手について、辻原登は私ははじめてだったんだけど他に何がおすすめなのか、しかし同じ『抱擁』ならむしろA・S・バイアットでしょう、きゃーあたしもバイアットの『抱擁』大好きー、バイアットをはじめ英国の現代作家の話、マキューアンもいいよねー、新刊の『初夜』も、ああいうとき女子はやっぱりあんなふうに思うわけ?(このあたり私もお酒が入ったので、エッチな話題にも挑戦してみました)、英国モノといえば一風変わったところでキース・ロウの『トンネル・ヴィジョン』、ソニー・マガジンズってときどき意外な掘り出し物があるよねー、『紙葉の家』とか、『紙葉の家』といえばアルフレッド・ベスターの『ゴーレム100』読んだ?、ピーター・アクロイドの『切り裂き魔ゴーレム』について‥‥といった感じで話が盛り上がり(感心したのが、そうやって話しながらもさすがプロ、キリノちゃんは、グラスについた水滴をしきりに拭いてくれるのね)、ふと気がつくとすでに1時間弱が経過‥‥。
ありゃー、45分で終わりにしようと思ってのに、1セット分はとっくに終わってたのね。延長は、15分ごとに2,000円なのだそうです。
うーん、これで十分ブログは書けるし(そういえば、いちおう取材に来たんだった)、そろそろ切り上げてもいいかなあ、いやあ、しかし、キャバクラって、はじめての体験だけど、案外、楽しいものですな。ぐふふ。
などと思っていると、
「すみませーん」
とボーイさんが登場。どうやらキリノちゃんに他から指名が入ったようです。
「楽しかったですー、今度いらしたら、ぜひ指名してくださいねー」
と、手を振って去るキリノちゃん。わー、なんか、名残惜しい‥‥。
と思ったら、
「こんばんは。よろしくお願いします」
と、次の女の子が現れました。キリノちゃんに比べるとお姉さんな雰囲気の、ロングの黒髪が清楚な感じのマヨイちゃん。
彼女の胸の名札には、
「小説・工学・産業」
の文字。おおお、なんだかよくわかんないけど、すばらしい。
キャバクラはじめての私ですが、ほどよくお酒も回っていますし、初顔合わせでも、もう大丈夫です。
「工学・産業ってことは、建築関係とか、大丈夫?」
「もちろんですよぅ、何かおすすめの建築本、あります?」
というところから、最近読んだ『住まいのりすとら』の話、それに載ってた「カーサ・ブルータス」企画の安藤忠雄に設計してもらった住宅の後日談について、『東京R不動産』もおもしろいよねー、この前出た『東京シェア生活』について、シェア生活といえば少女マンガだけど『グッドモーニング・コール』って知ってる?、きゃー知ってる知ってる「りぼん」ですよねー、というところからなぜか少女マンガの話題になり(「マンガ担当じゃないからそんなに知らないんですけど‥‥」と言われましたが、私もそんなに知ってるわけじゃないから問題なし)、往年の「りぼん」の話、やっぱり柊あおいだよねー、やだあたしリアルタイムじゃ知りませんよー、最近はもっぱら花とゆめコミックス、『てるてる×少年』と『紅茶王子』について、少年マンガ誌に描いてる少女漫画家について、でも渡瀬悠宇は『アラタカンガタリ』もいいけど『櫻狩り』に興奮した!‥‥などと盛り上がっているうちに、またいつの間にか1時間。
わー、いかん、このままではキリがない! このへんで終わりにします! 引き止めないでください!
と、
「今日はあんまり建築本の話ができなかったから、次はたっぷりお話ししましょうね」
などと言われつつ、残念だけど、お会計にすることにしました。もちろん、その前に、マヨイちゃんと、メアド交換。うふうふ。

正味滞在時間は、2時間強。
したがって、最初の45分5,500円+6回分の延長料金12,000円+女の子が飲んだお酒(もちろん、勝手に飲んだんじゃないよ。「一杯おつきあいしてもよろしいですか?」といわれてOKした分)+ポッキーとかおつまみの合計で、24,500円でした。今日は特別に半額だから、12,250円‥‥。
あれ? 最初、私、2,750円で出てくるつもりだったよね!?
こ、これが、キャバクラの魔力か‥‥。
なにせキャバクラは初体験で、相場というものがよくわからないから判断できないんだけど、こんなもんなんでしょうか。
いや、でも、好きなジャンルの本の話ができて(しかも、一方的に自分が話すのではなくて、ちゃんとした会話になって)、相手は若い女子、かわいい、ということになると、値段はどうあれ、なんかちょっと、また来てみても、いいかな‥‥、なんて気分になります。
ふだん本ばかり読んでるけど、女子と本についてしゃべったことなんてほとんどない、でも一度くらい女子と本バナしてみたい、という男子は、もしかしたら、こんなお店に行ってみるのもいいんじゃないでしょうか。

以上、読書家向けキャバクラの実態レポートでした。
はじめは「本当に読書家を満足させられるのか」なんて思っていたわけですが、読書家の端くれとして、力強く断言しましょう。
「満足しました!」
と。
「できればまた行きたい!」
と。
場所は池袋、ジュンク堂の近く。
店名は「檸檬」。
お店のホームページはwww.sexyclublemon.com

hp416.jpg

いやあ、もう、私もね、何度も言うけどキャバクラははじめてだったんですが、ハマっちゃう人の気持ちがよくわかります。楽しいですもん、ホント。相手はプロ、これは商売だってわかってるんですが、でも商売だろうと何だろうと、本について話してることはホントなんですからね。
それに、実をいうと、メアド交換したマヨイちゃんからは、あれから毎日メールが来るのです。
「本バナの続きがしたいですー(はあと)! 次はいつ来られますか? 会いたいなー」
とか何とか。マヨイちゃんったら、私とのおしゃべりが、そんなに楽しかったのかなあ。うふふ。
今回はまあ、お試しでしたけど、これから何度か通って、開店前の「同伴」で一緒にジュンク堂でお買い物したり、神保町で古本屋めぐりしたり‥‥、でもって、さらにさらに‥‥。
わー。





と夢と妄想はふくらむばかりなのですが、当然のことながら今日は4月1日、エイプリルフール。
以上はすべてウソです。
(このブログ、エイプリルフールじゃなくても、たいていウソですが。)
残念ながら、池袋に読書家のための「檸檬」なんてキャバクラ、存在しません。
池袋じゃなくても、神保町にも、ありません。
キリノちゃんもマヨイちゃんも、いません。
私は、こんなキャバクラに入ってません。
っていうか、そもそもキャバクラに行ったことも、ありません。
セット料金とか何とか、そんなこと全然知りません。これを書くためにネットで調べました。
とか何とかいいつつ、エイプリルフールだからそれもウソで、実はけっこうキャバクラ好きです、なんてこともありません。
キャバクラは入ったことないけどセクキャバなら毎月行ってます、ということもまったくありません。
キリノちゃんとマヨイちゃんのモデルはマナミちゃんとチヒロちゃんです、なんてことも絶対ありません。
ホントにキャバクラ未体験です。
キャバクラのキャの字も知りません。いや、キの字も知りません。
ホントのホントですよ。ね、誤解しないでくださいね、ホント、ホントなんですからね、ね、ね‥‥。



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2010年03月22日

キャバクラ本屋

先日、丹下健太『マイルド生活スーパーライト』を読んでいたら、
「セクキャバ」
というのが出てきて、主人公・上田の基準ではセクキャバは風俗ではないことになってるらしくて、よくわからないのでググってみたら、いや上田、それはたぶん風俗だよ‥‥、と思いました(気になるかたはググってみてください)。キャバクラとかスナックとか、あのあたりの区別、何がどういう内容のお店なのか、大人になったのに、いまだによくわかりません。
で、よくわかんないままに、先日の「書店ガイドツアー」の後でよく考えたのだけど、たとえば、
「キャバクラ本屋」
みたいな感じのお店があってもいいような気がするんですけど、どうでしょうか。

たとえば、「すみれ書店」なんていう看板がかかっているお店に入ると、白熱灯の、本屋さんにしては薄暗い店内で、ずらりと本棚が並んでいて、ところどころにソファとローテーブルが置いてあるのね。
本を物色していると、露出度高めの女子店員さんが密着してきて、
「お客さまぁ、どんな本を、お探しですかぁ」
「えーと、SFとか‥‥」
「SFですかぁ!? やぁん、マミもぉ、SF大好きなんですぅ」
「えっ、そうなんですか」
「そうなんですよぉ、最近ではぁ、やっぱ、イーガンとかぁ‥‥」
「イーガン、いいっすねえ、僕もイーガン、好きっす」
「やぁん、お客さんもですかぁ!? ねえ、よかったら、そっちに座ってぇ、ちょっとお話ししませんかぁ」
などと、隣り合ってソファに座って小一時間、イーガンの作品ではどれが好きとか、「夏への扉」の旧訳と新訳のどっちがいいかとか、「天の光はすべて星」の新しい表紙はいいよねーとか、2000年代日本人SFのベスト10は何かとか、これまでリアルな女の子とはぜったいできなかったようなコアなおしゃべりを楽しんで、マミちゃんからすすめられたハヤカワSFと創元推理文庫を3冊買って、お会計は1万円くらい。(再販制度により、新刊本を定価より高く売ることはできないので、本代+サービス料の金額です。)
こんなお店なら、
「あ、俺、キャバクラよりも、そっちのほうがいいかも」
という本好き男子は多いのではないかしら。
キャバクラと違ってお酒が出ないから、体にもよさそうだし。
いや、キャバクラ本屋には、キャバクラよりいいことが、もっとあります。
たとえば、

(1)経費で落とせる(かも)
不況で交際費がどんどん削られている今、「キャバクラすみれ」とかで領収証をもらっても経理に受け付けてもらえないかもしれませんが、これが「すみれ書店」ならば、資料代として認めてもらえそうです。

(2)奥さんや彼女にばれても大丈夫
ドラマなんかだと、背広のポケットから「キャバクラすみれ」とか店名入りのマッチが出てきて、
「あなた! これ、どういうことよ!」
などということになるわけですが、そんな心配はありません。そもそも、マッチなんてないし。
証拠品となるのは、「すみれ書店」のブックカバーのついた本とレシートくらい。
その本が背広のポケットに入っていても、奥さんや彼女は何の疑問も抱かないでしょう。
(もちろん、1、2万円分のレシートが出てきたら、それはそれで「あなた!」ということになるでしょうが。)

お客さん側だけでなく、店員さんにもメリットがありますよ。
なにしろ、

(3)お父さんや彼氏の理解が得られやすい
「バイトしたいんだけど」
「ん? 何するんだ? ファミレスとか喫茶店とかは許さんぞ」
「違うよー、本屋さん」
「おー、本屋か、なら、よかろう」
ということになるわけですから。

神保町の裏通りかどこかに、こんなお店、できないかしら。
でもこれ、業態としては、書店なんでしょうか、キャバクラなんでしょうか。私の基準では書店に入るのですが、彼女や奥さんは認めてくれないような気もします。


posted by 清太郎 at 10:40| Comment(5) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月15日

文化祭で古本屋

季節外れの話題だけど、文化祭の思い出をひとつ。
高校の文化祭で、クラスの出し物をしたことがありますか?
喫茶店とかお化け屋敷とか占いとか、あるいは研究発表、演劇や合唱‥‥。
僕は高3のとき、古本屋を経験しました。ちょっと変わってるでしょ。
経験しました、とかいって、発案者は僕なんだけどね。
受験を控えて、3年生は有志のみ参加(勉強したい人に迷惑かけないでね、ということ)。喫茶店やら研究発表やらといった大掛かりなことはできないそうにない。でも、何もしないのはつまらない。古本屋だったら、本さえ供出してもらえれば、当日は別に来てもらう必要はないし、でもやりたい人はそれなりに楽しめるんじゃないかしら、と考えたものだ。
一応みんな協力的で、50人弱のクラスだったけど、2000冊近い本が集まった。(まあ中には、どう見ても廃品回収に出した方がいいようなシロモノもあったが。)
ただ、本だけ並べても売れないだろうと、発案者の僕がもうひとつ提案したのが、
「出品者の生写真をつける」
というもの。今でいうところの「顔の見える商品」というやつですね。
当時はまだデジカメなんてものはなかったから、フィルムでちゃんと撮影して、焼き増しして。
ちょうどクラスに写真部の元副部長もいたので、彼女および彼女の命令のもとで働く現役写真部員に撮ってもらった。
もっとも、正直に出品者を申告しては、
「こんな気持ち悪い男子が読んだ本なんて、ギャッ、さわるのも汚らわしい」
ということになりかねないので(そういえば当時は、キモイなんて言葉もなかった)、ほとんどは偽装。かわいい系の女子に頼み込んで、モデルになってもらった。男子の写真は、ごく一部だけ。
だから、2000冊のほとんどは、わずか4、5人の女子の持ち物ということになってしまったけれど、まあすべての本を1冊1冊チェックする人なんていないだろうから、かまやしない。
ただ、本の中には夢野久作(今はなき教養文庫だ)や山田風太郎などもあったから、今考えると、
「このかわいい女子が、この本を‥‥、ずももも」
という鼻血ものの組み合わせがいっぱいあったはずだ。当時はあまりそんなことを意識しなかったので、今思うとやや惜しいような気もする。
モデルになってくれた女子は、「恥ずかしい〜」と最初は逃げ回りながらも、「これも思い出かなー」とか何とか言って、ちゃんと撮らせてくれた(もちろん、水着とかお色気ポーズとかじゃないよ。ふつうの日常写真)。まあ何だかんだいって、写真部の連中に、一眼レフのカメラでポートレートを撮ってもらうことなんて滅多にあるわけじゃないし、まんざらでもなかったんだと思う。
その生写真を1冊につき1枚、表紙の見返しのところに貼り付けた。個人情報保護だとかストーカーだとか、そんな面倒なことのない、まだまだ牧歌的な時代だったんだなあ、と今となっては思う。
とにかく、それが当たったのか、思った以上に本は売れた。ちなみに、文庫は50円、その他は100円。2日間しかなかったのに、売れ残ったのはたしか2、300冊だけだったと思う。
受験生として、わりとカリカリした毎日を送っていた僕たちにとって、この文化祭の古本屋は、いい気晴らしになった気がする。「本は出すけど、それ以上のことはごめんだよ」なんて言ってた級友も、多くが手伝いに来てくれたしね。
「たまにはこういう息抜きが必要だよねー」
なんて、打ち上げにはみんないい笑顔で喜んでた覚えがある。

でも、いちばん喜んでたのが、ほかならぬ僕であることは、友達には内緒だった。
実は当時、同じクラスに、ひそかに片思いしている女子がいた。彼女は地元の大学への進学を希望していて、僕は東京に出てくるつもりだったから、もう会えなくなることは、わかっていた。だから、卒業前にどうしても、彼女の写真がほしかった。(告白しようなんて、これっぽっちも思っていなかったのが、今となってはふしぎではある。)
それで、思いついたのが、文化祭の古本屋だったのだ。
「生写真をつけたら売れるかも」
などと、さも「いいアイデア思いつきました」みたいな顔をして提案しながら、本当はその写真のほうが目当て。古本は手段にしかすぎなかったってわけ。恋にはオクテだったけど、変なところで策士だったのだ。
もちろん、彼女が出品してくれた本はぜんぶチェックして、そのほとんどは自分で購入した。当然、写真のバリエーションはコンプリート。
本当は発案者の特権として、ネガ一式もほしかったのだけど、それを口にするのはさすがに恥ずかしく、でも思いきってリクエストしておけばよかったと、ずいぶん後まで後悔したものだ。
結局、恋は片思いのままで終わってしまったけれど、彼女のものだった本の何冊かは、その後、上京したときにもたずさえてきた。今でも、部屋の本棚におさまっている。





と、こんなことを書いたのも、その1冊、写真が挟まったままの1冊を昨夜、妻が見つけて、
「ちょっとアンタ、何、この女子高生の写真!?」
と鬼の形相で問い詰められたからです。
そういう理由なんです。ね、わかってくれた? 浮気とか援交とか、そんなんじゃないから。誤解だって。棄てられないだけなんだってば。ね、男子の純情なんだから、しょうがないんだってば。
あの、だから‥‥、写真、返していただきたいのですが‥‥。





ということで、わー、しまった、今さら気づいたけど、このネタ、今年のエイプリルフールにとっておけばよかった。
共学だったら、こういうのやりたかったなー。


posted by 清太郎 at 22:36| Comment(3) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月13日

書店員は本を薦められるのか?

八百屋さんは、野菜を薦められる。
「奥さん、今日は、いい大根、入ってますよ!」
と言える。
魚屋さんも、魚を薦められる。
「今日の夕ごはん、煮魚にでもしようと思うんだけど、何かない?」
といわれたら、
「奥さん、それなら今日はメバルがお得だよ」
とか何とか、薦められる。
これらに対して、われらが書店員さんは、どうか。
ちゃんと本を薦められるだろうか?
‥‥とあらためて考えると、よくわからない。

おそらく、ふつうにデキる書店員さんなら、たとえば、
「最近出た本で、売れてる本は何ですか?」
と聞かれれば、即答できるでしょう。
売れてる本や、雑誌や新聞の書評で絶賛されているような本を薦めることはできるでしょう。
あるいは、マニアックなお客さん、たとえば、
「天然系の美人おねえさんとツンデレ妹が大活躍するような小説を読みたいんだけど」
なんていうのに対して、
「それでしたら、こちらなどはいかがでしょうか」
とオススメすることもできるはずです。

でも質問の内容が、たとえば、
「甥(あるいは、いとこ)が高校に合格したから、お祝いに本を1冊あげたいんだけど、何かオススメの本ありますか?」
だとしたら、どうか。
こういうときに、
「有川浩とか、どっすかー。若い子に人気っすよー」
なんていう人がいたら、それはぜんぜんわかっていない店員だと思うし、あるいは、
「『アルジャーノンに花束を』とか、いっすよー」
というのも、いかにもマニュアル通り(しかもちょっと古い)のようで、つまらない気がする。
っていうか、その程度の本しか薦めてもらえないような本屋さんで買うなら、amazonで買ってもあまり違いはない気がします。
(ちなみに、私だったら、とりあえず西村佳哲『自分の仕事をつくる』(ちくま文庫)を薦めておきます。)

その内容についての賛否はさておき「いじめから守る45冊」の棚をつくっている、くすみ書房という本屋さんがありますが(このブログでも以前ネタにしました)、この本屋さんが選んだ45冊をほかの書店でもセット販売したとかで、な、なんという気概のなさ。そこはふつう、
「あそこの本屋が45冊だけど、うちは50冊だぜ」
「うちは、いじめられたときに読む100冊」
「うちは、いじめっ子に復讐する666冊」
と競うべきでしょう。
本はこんなにいっぱいあるんだから、少し工夫すれば、もっといろいろ発信できるはずです。
まあ年に8万点も出版物が出るわけで、それをさばくだけで手いっぱい、ということなのかもしれないけど、でもねえ、「本が売れない」と嘆いてばかりいないで、やるべきことをやろうよ、と思います。

と、珍しくこんなふうにからむのも、行きつけの本屋さんに、
西村佳哲『自分をいかして生きる』(バジリコ)
    『自分の仕事を考える3日間』(弘文堂)
がなかったから。
えーっ、なんだよー、おかげで、どちらも去年出た本だっていうのに、つい先日まで、知らなかったじゃんかよー。んーもう、どうしてくれるんだよー。ちょっとアンタんとこ、ちゃんと本見て仕入れてるの? どうなの? ホントにプロなの? 本見る目があるの? エッ!?
という愚痴でした。すんません。

まあでも、電子書籍が本格的に始動しそうな昨今、「自分の目で見て、仕入れて、売る」という小売店であれば当たり前のことをしない本屋さんは、どんどんいらなくなっていっちゃう気がします。流通のしくみがなかなかそれを許さない、という事情もあるけれど、もうちょっと本屋さんにはがんばってほしいなあ。なんだかんだいって、私にとって本屋さんは、1冊の本と初めて出会う場所なのだから。


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2010年02月21日

書店ガイドツアー

美術館や博物館で、ガイドツアーなんてものがありますね。
ガイドさんが10人内外のお客をぞろぞろ先導して、主だった作品の前で、
「はーい、皆さん、注目〜」
とかいうの。
日本だとめちゃ混んでるか閑散としてるかのどっちかがほとんどなのであまり見かけませんが、欧米の大きな美術館・博物館ではあちこちで出くわします。
これを、本屋さんでできないか。

一般に、
「趣味は読書です。1か月に、えーと、10冊くらいは読むかな?」
という自称・読書家の人でも、その読書の内訳はほぼ小説だけだったり、あるいはその小説の中でも一部のジャンルに偏ってたりするわけで、いつも慣れ親しんでいる種類以外の本との出会いは、必ずしも多くはありません。
電子書籍やネット書店に対抗して、
「リアル書店は、本との偶然の出会いを提供できるのが強みです」
なんていう話をときどき聞くけれど、実のところ、大した広がりのない出会いの場にしかなってないような気がします。社内合コン程度の広がり、といった感じでしょうか。
とはいうものの、実際のところ、自分が知らない分野にチャレンジしようと思っても、どれがおもしろくて読むに値する本なのか、わからない人が多いでしょう。
そこで、そんな未知の本との出会いを求めるお客さんを集めて、書店内を案内して、いろんな分野のステキ本を紹介する、
「書店ガイドツアー」
というのがあってもいいんじゃないか。

たとえば、きれいなお姉さん書店員さんが、
「では皆さーん、右手をご覧くださーい。こちらは生物学コーナーです。ここでのおすすめは‥‥、そうねえ、これなんていかがでしょうか。木村李花子『野生馬を追う―ウマのフィールド・サイエンス』。著者は女性研究者で、原野にじっと身を潜めながら、野生の馬の群れをじーっと観察するんです。その描写がまた詩的で繊細で、自然科学の本なんだけど、なんか、もう、すごくって‥‥。ああ、馬って、いいわぁ‥‥(頬を染める)」
などとよくわからないけど色っぽくガイドしたり、あるいは、
「お次は、建築コーナーでーす。こちらでおすすめはぁ、えーと、ジャーン、これなんか、すっごいの。ジェフリー・ムーサス『縁側の思想』。マチャ、マサツー、マチャチュー、マチャツー、マサチューセッツ工科大学の建築科を出て、槇文彦と谷口吉生の下で働いたことのあるムーサスさんは、ガイジンだけど、京都の町家をリフォームしちゃったりして、すごいんですよー。タイトル見ると難しそーだけど、リフォームの話とか大家さんとの付き合いの話とかすっごい楽しくて、でもって、なんか日本建築の深いところも見えてきちゃったりなんかして、もう、ぜったい、おすすめ!」
などと甘ったれた感じでガイドしたりすると、いいところを見せたい男子客などが、
「じゃあ俺、それ、買っちゃおっかなー」
「俺も」
「俺も」
ということになったりしないかしら、とは思うものの、しかしどっちかというと、むしろ手堅く、中高年客を相手に、ベテランの(でもそれなりに若く、見た目もいい)店員さんによるガイドツアーのほうが、いいかもしれません。
結局のところ、こんなツアーを催しても、参加するのは中高年層ばかりのような気がするし。
お金があって暇もあるのは、リタイア組なんだろうし。
それにガイドする側にとっても、何十年もずーっと同じようなジャンルの本しか読んでこなかったオジサマオバサマに新たな読書のヨロコビを提案する、なんていうの、なんだかやりがいがありそうではないですか。
「俺が本当の読書の楽しみを教えてやるぜ!!」
なんて。

そうして、 そんな中高年のお客を引き連れて、文庫や文芸コーナーから人文、法経、理工書、美術などとすべて回って1〜2時間、1冊数分で数十冊の本を紹介するガイドツアー(もちろん、無料です)。
はじめは2、3人しか参加者がいないかもしれませんが、繰り返していくうちに口コミで広まり、リピーターもついて、
「火曜日の当番のタカシ君って子が、いいのよぅ」
なんて、ガイドさん目当てのお客さんも出てきたりして、そうなると当然、
「あらあ、もう終わりなの、残念だわあ。もっと、タカシ君に、いろんな本を、紹介してほしいわあ」
「ふふふ、奥様、でしたら、閉店後に、個人的に、いかがですか……」
ということになり、
「ただし、閉店後ですから、有料となりますが……」
ということになるんだけど、あらあ、やだわあ、だいじょうぶよぅ、そのくらいのお金は、あるわよぅ、うふふ。
ということになり、客のいなくなった夜の本屋さんで、一対一の濃密なガイド。
奥様はタカシ君の勧めるままにどんどん本を買い込んで、
「あらあ、ちょっと買いすぎちゃったかしらぁ。ねぇん、もしよかったらぁ、この本、うちまで持って帰るの、手伝ってくれるかしらぁん」
ということになり、
「あらやだ、うっかり忘れてたけど、今夜はうちのヒト、出張で留守だったんだわぁ」
ということになり、
「はい、タカシ君、ガイド代と持ち運びの手数料、お支払いするわね」
「奥さま、ちょっと多いようですが‥‥」
「やだあ、もう、うふぅん、わ・か・る、でしょ‥‥」
ということになり、でもっていつの間にかタカシ君の羽振りがよくなっちゃったりして、
「書店員のバイトって、時給が安くても、夜の仕事でけっこう儲かるらしいぜ」
「1年目でベンツ買ったって‥‥」
「てか、ベンツ買ってもらったっていうぜ‥‥」
ということになれば、書店業界に続々と人材が流入してきて、業界の活性化につながったりするんじゃないか、と思うんだけど、‥‥無理だよね。
それが可能なら、とっくの昔に、風俗業界の人が参入してます。


posted by 清太郎 at 19:19| Comment(3) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月14日

国民読書年テコ入れ

あいかわらず国民読書年が盛り上がりません。
1月の成人の日こそ、「20歳の20冊」なんて企画が持ち出されましたが、そのあとの節分の日には、
「今年は、豆の代わりに本を撒こう!」
なんていう気運はゼロ。今日のバレンタインデーも、
「チョコの代わりに本をあげるね。あたしだと思って、これを読んでね! ハイ、『罪と罰』」
ということもなくスルー。
少年ジャンプの読書アンケートでいえば、1週目だけは4位を獲得したものの、2週目ですでに2桁、その後も低迷したままで、今や最下位目前、といったところでしょうか。
となると、そろそろ、あれが必要なのかも。
あれが。
そう。
T・E・K・O・I・R・E。
テコ入れです。

伝統的・正統派のテコ入れ方法としては2種類の方法がありまして、ひとつは、
「バトル要素の導入」
です。
国民読書年なんて、どうせおとなしく静かに本読むだけでしょ、と思ってたら、いきなり、
「バトル開始!」
なのです。
しかも、「朗読大会」とかそういう生やさしいもんじゃありませんよ。肉がちぎれ、血しぶきが上がる、まさにジャンプ的な激闘です。
具体的には、
「天下一国民読書大会」
なんてどうでしょうか。
国民よ! これから最強の読書家を決める!
本を武器として、一対一で戦うのだ!
優勝者には図書カード100万円分!
ということで、ホームページか雑誌上で、大々的にエントリー募集が始まります。
もちろん、本といってもいろいろありますから、階級分けが必要ですね。
いちばん軽い、文庫級、コミック単行本級あたりから、新書級、単行本級、週刊少年マンガ誌級、写真集級などとあって、いちばんヘヴィーなのは国史大辞典級あたりで。
やがて各地の予選が始まり、バトルの様子はすべてネットで中継。
「女子中学の弱小文芸部が、部の存続をかけて、団体戦に参戦!」
といったような注目のトピックがあれば、各種の雑誌で取り上げたりなんかして、大会を盛り上げます。
でも、まあこれで1年もつほど世の中甘くないでしょうから、とりあえず春くらいをめどに天下一国民読書大会を開催するとして、その戦いの中、拳と拳を(というか本と本を)ぶつけ合った読書家たちの間には、いつしか熱い友情が‥‥。
そして戦いのさなか、彼らは気づいてしまうのだった、真の敵の存在に‥‥!
真の敵、それは、国民読書年の名のもとに国民の読書を統制しようとする悪の組織、暗黒国民読書団(略して書団)なのだった!
正義の読書家たちのもとへ、次から次へと送り出される書団からの刺客(武器は本です)。互いに協力し合いながら、その刺客たちとの苛烈な戦いをくぐり抜け(武器は本です)、読書家たちは、ついに大ボス、暗黒読書大帝を打ち倒すのだった!
というのが夏ごろで、しかし戦士たちの休息も束の間、暗黒読書大帝を操っていた裏の組織が存在していた!
ということになってさらに激烈な戦いが続けば、1年くらい何とかなるんじゃないでしょうか。

ちなみに、テコ入れ手段の2つ目は、
「お色気を導入」
で、具体的には、
「いきなり、本屋のお姉さんはみんなビキニ」
とかいうことで、どうせならバトル要素と一緒にして、
「水着姿で本バトル! ポロリもあるよ!」
というのでもいいかもしれませんが、しかし一歩間違えれば一般国民はおろか読書家からも見放されて、年半ばにして、
「国民読書年は今週で終わりです。みんな長い間ありがとう! 国民読書は永遠に不滅だ! 来週から始まる国民テレビ年を応援してね!」
ということになるかもしれないので、要注意です。


posted by 清太郎 at 19:05| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月11日

マンガでわかる内科学

2月も、もう中旬です。
国民読書年が始まって、はや1ヶ月以上。
週末ごとに、全国各地の本屋さんや図書館で、多彩かつ心ときめくイベントが開催され、多くの参加者が読書のヨロコビを再発見し、「本って、やっぱりいいよね!」とあらためて読書意欲を高めている‥‥、のかもしれませんが、そういう話題はネットで流れないのか、実際に国民読書年活動が現場でどのように推進されているか、いまだによくわかりません。ヨミネエもあいかわらずマイナーなままだし。今ってホントに国民読書年なの? 昨年と何が違うの?

‥‥などといいつつ、このブログも国民読書年だっていうのに丸々1ヶ月更新してなくて、ぜんぜんダメですね。まず自分が国民読書しないとね。
ということで、まったく面目ない限りですが、久しぶりの更新です。皆様、お元気ですか。

さて。
昨年の終わりから今年にかけて出た本の中で、大きな収穫といえるもののひとつは、
岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)
でしょう。
野球部の女子マネージャーになったみなみちゃんが、マネージャーって何すればいいんだろう‥‥、と思って本屋さんでうっかり買っちゃったのがドラッカーによる経営学の古典『マネジメント』で‥‥。
というバカすぎる設定の、つまり、
「ラノベでわかるドラッカー」
といったところ。
ありえない筋立てながら、なかなかよくできていて(たぶん。立ち読みしただけなんだけど)、イラストのレベルも合格点で、うーん、ヤラレタ、という感じ。
「まだまだ、本にできることはたくさんある」
と、本の可能性をあらためて教えてくれた一冊でした(立ち読みしただけなんだけど)。

それはそれとして、こうした「ラノベでわかる」に先行する、
「マンガでわかる」
について、今日は考えてみましょう。
「マンガでわかる」というジャンルは、小学校の図書館で人気の「まんが日本の歴史」や学研「ひみつ」シリーズを持ち出すまでもなく、それなりに長い歴史と広がりを持っています(ちゃんと体系化された資料があったら読んでみたい)。が、その長い歴史のわりには、なんというか成熟していないというか、B級のままというか、あいかわらず日陰者というか、そんな存在であり続けてきたような気がします。
まあ、ようするに、「マンガでわかる」とかいいながら、
・結局、わからない
・マンガは一部で、実は文章が多い
・マンガがおもしろくない
・っていうか、それ以前に、絵がヘタ
といった作品が多かったわけです(たとえば「日本の歴史」も、小学館の児玉幸多監修のもの以外は、子どもをバカにしてるのか! と子どもながらに思う作品ばかりでした)。
このジャンルでいい作品って、赤塚不二夫『ニャロメのおもしろ数学教室』と、あさりよしとお『まんがサイエンス』と、えーと‥‥、とそのくらいしか思いつかない。
というような状況が、ずっと続いていました。

それが最近、印象としては2000年代に入ってからなんですが、底辺のレベルアップがはかられたのか、安いギャラでもたくさん描ける若い子が増えたのか、編集者のマンガを見る目が多少洗練されてきたのか、
「少なくとも、絵はそこそこ上手」
という作品が多くなってきたように思います。(マンガとしておもしろいかどうか、さらに結局わかるかどうかはさておき。)
ちゃんと一冊読み通したことがないのでテキトーな印象ですが、オーム社の「マンガでわかる」シリーズとか、学研の「大学受験らくらくブック」とか、わりとよさげ。
また、内容的にも、「物理」とか「量子論」とかざっくりしたものだけでなく、
・マンガでわかるフーリエ解析
・マンガでわかる統計学 回帰分析編
・マンガでわかるシーケンス制御
といった細分化が目立つようになっています(これらはオーム社のシリーズ)。
今後はキャラの細分化が進みそうで、『ねこ耳少女の量子論』(PHP研究所)とか、あるいは先日本屋さんで、
『ツンデレ相対性理論』(PHP研究所)
なんてのも見かけました。
読んでないので内容はよくわかんないけど、ツンデレで相対性理論ってことは、
「ヒカリちゃん、今ちょっと、曲がったでしょ」
「な、何言ってんの、曲がってないわよ」
「えー、そうかなあ、さっき、重力に‥‥」
「じゅ、重力、って何よ、重力がなんで関係あるのよ!」
「へー、そうかなー」
「そそそ、そうよ、じゅ、重力のことなんて、ぜーんぜん知らないんだから!」
「ふーん、そう。それなら、試しちゃおっかなー。重力レンズ効果で……」
「だ、だめーっ! 見ちゃダメーーーー!!」
という感じなんでしょうか。

ともあれ、このようにジャンルの細分化に加えて、その細分化されたジャンルのひとつひとつにツンデレやらネコ耳やら妹やら巫女やらがあり、一定以上のレベルの描き手が供給されるとなると、今後、「マンガでわかる」は大きく(というほどではないにせよ)花開くかもしれません。(マンガで実用書となると、電子書籍との相性もよさそうだし。)
やがては、
・マンガでわかる建築構造計算
・マンガでわかる二次元以上での実空間くりこみ群
・マンガでわかる小学校学級経営
・ツンデレ労働契約法
・ろりぷに社会選択理論
・巫女と学ぼう! イスラム教の歴史
・ご主人様のための土木計画学
・シリーズ・教えて!おにいちゃん マーケティング理論
と、たいていのことがマンガでわかるようになります。

お母さんも、もう「マンガばっか読んでないで勉強しなさい!」なんて言えませんよ。マンガを読めば受験も完璧。
・マンガでわかる地理B
・ツンデレ基礎解析
・センター試験ネコミミ過去問題集
大学受験に限らず、たとえば医師国家試験なんかでも、
・マンガでわかる内科学
・ツンデレ解剖学講義
・眼鏡っ子といっしょに基礎病理学
とかいっぱい出てますから、勉強もなんだか楽チン。
そうして晴れてお医者になったら、医学書はすべて「マンガでわかる」。
・マンガでわかるハリソン内科学
・マンガ版ワシントン外科マニュアル
・ご主人様のための薬物治療の基礎と臨床
・シリーズ・教えて!おにいちゃん 放射線診断学
最新の研究成果や医療技術もどんどん「マンガでわかる」。
・魔法少女メディの内視鏡的胃瘻造設法の適応と実際
・スク水少女が教える! ステントを併用した動脈瘤塞栓術
・腰部脊柱管狭窄症でのLipo PGE1注射剤を用いたツンデレ保存的治療

‥‥と、こんなことをいいながら、でも、初めて受診する病院の診療室で、本棚に「マンガでわかる内科学」「ニーソ少女の標準病理学」「ドジっ娘といっしょに最新免疫療法」などが並んでるのを見つけたら‥‥、そんなお医者さんには、かかりたくないです。


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2010年01月09日

非国民読書年

えー、2010年が始まって、早くも10日が経とうとしています。
日本史上初の「国民読書年」のうち、すでに36分の1くらいが終わってしまった、ということです。
この10日の間に、待ちに待った国民読書年の到来を寿ぐさまざまな国民読書活動が各地で開催されていたことでしょう。
たとえば、
・国民読書新年会
・国民読書餅つき大会
・国民読書百人一首大会
・国民読書出初め式
・国民読書七草粥
といった、胸躍るステキイベントが行われたに違いないのですが、すべて見逃しました。がっかりです。

といった妄言はさておき、しかし結局のところ、国民読書年って、いったい何やるんですかねえ。
何だかよくわからぬままに、まあ2010年までにいろいろ具体的なことが決まるでしょ、と思っていたら、ありゃー、もうその2010年じゃないのよ。
いまだに実態がよくわからぬなんて、どういうことよ!
関連キャラ「ヨミネエ」の知名度も、上がらないままだし‥‥。
と、早くも失敗感濃厚という気もするんだけど、いや、待てよ待て。
実態がよくわからぬなんて、思ってるのは私だけかもしれない。
案外、文部科学省とか経済産業省とかそっちの方では、ちゃっちゃ、ちゃっちゃといろんなことが取り決められて、次から次へと実効性のある施策が執り行われているのかもしれません。
不振にあえぐ中小出版社への公的資金注入とか。
地方の零細書店への戸別所得補償制度とか。
読書家のための毎月1万2,000円の読書手当とか。
とりあえず今年1年だけの時限措置とはいえ、思わぬ恩恵にあずかって、
「国民読書年バンザーイ!」
と喜んでいる人は、いっぱいいるのかもしれません。

が、待てよ待て。
たしかに、かような国家による支援は嬉しいことかもしれません。
しかしながら、物事には必ず裏があり、光あるところに影があるのです。
国家のお金は、ひも付きなのが当たり前。
公的資金の投入で、所得補償をしてやろう、そのかわり‥‥。
ということに、必ずなる。
公的資金を受け入れる以上は、国家による口出しを覚悟せねばなりません。
すなわち、政府のおめがねにかなわない本は、売ってはならん、ということです。
国民読書年だ、ワーイ、などとうかれているうちに、実は水面下では、国家的な読書統制が静かに始まっているのかもしれないのです。

ところで、そうして国家によって本屋さんから排除され、弾圧される本とは、どんな本か。
えーと、いまどき、無政府主義とか天皇制転覆とかいっても、
「だから何?」
という感じだしなあ‥‥。
やはり、あれか、児童ポルノ関連か。
ということで、まずはいわゆる成年コミック誌、成年コミック単行本の、とりわけ小中学生以下の女の子(もしくは男の子)を題材にしたものが標的となるわけです。昨年、きっちり廃案になった児童ポルノ禁止法改正案が、あらためて現実のものになる。
で、どうなるかというと、国民読書年のワッペンを胸につけた国民読書憲兵などが一軒一軒本屋さんを回るわけです。
そうして、国民読書年の精神に抵触するロリなコミックを見つけては、
「ええい、貴様、こんなものを売って、日本国民として恥ずかしくないのか!」
と、押収、処分。
本屋さんの店頭から、あっという間に、あれとかあれとかあれとか(具体的な雑誌名を検索しようかと思ったのだけど、うっかりamazonで開いてしまって、しばらく同様のエッチマンガが「おすすめ」されるとやや困る気がするのでやめました)が消えていくのです。
で、当初は業者のみを対象としていたはずが、なし崩し的に、所得補償とは関係ない個人も対象となっていき、いきなり国民読書憲兵が来訪しては、
「これから、貴様の本棚の査察を行う!」
と強制的な蔵書チェックを行うことになります。
もちろん、国民読書年の精神に反する図書が一冊でも見つかれば、
「ええい、貴様、それでも日本国民か!」
と、没収のうえ、袋叩き。
多くの主婦などは溜飲を下げるかもしれませんが、表現の自由の灯は消えます。

が、しかし、すべての国民が黙ってそれに従うとは思えません。
必ず、立ち上がる者がいることでしょう。
「それでも、我はこれを読むのだ!」
と。
「これを読んでは日本国民として恥ずかしいというのなら、ええい、我は国民でなくともよい! 今日から非国民になる!」
と。
そんなわけで、ここに同好のロリ読者、じゃなかった反国民読書の志士たちが集まり、
「これからは非国民読書年だ!」
と気勢を上げることになります。
そして、彼らは地下に潜伏し、ゲリラとなって非合法な非国民読書活動を繰り広げます。
たとえば、地下室で深夜、ロリコミックの読書会を開催したり、読書憲兵を襲撃してロリコミックが詰まった書庫に一昼夜監禁したりする。
政府は、これら非国民読書活動に対し、
「国家に対する反逆の徒め! 見つけたら即刻通報せよ! 通報した者には金一封!」
などと弾圧を加えるわけですが、しかし弾圧されればされるほど、非国民読書活動の志士たちは力強く結束し、彼らの風貌はますます精悍になっていくのです。
そして、やがて‥‥。
ある夜、あなたが帰宅すると、門の脇の茂みに潜んでいた青年がのっそりと立ち上がり、その逞しい体躯を街灯の明かりにさらけ出しながら、あなたに向かって莞爾と笑って、
「やあ、君、我らが同士となりたまえ! 非国民読書活動により、非道な国家に立ち向かおうではないか!」
と、一冊のロリコミックを差し出してきたら、どうするか。
それでもあえて国家の犬に甘んじるか、あるいは反骨のロリ戦士として目覚めるか、微妙な選択です。


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2009年12月30日

2009読書界番付

今年も残すところ、今日と明日。皆様いかがお過ごしでしょうか。 そんなわけで、年末恒例企画の「読書界番付」をまとめたいと思います。毎度ながら、
「どれだけ売れたか、だけではなく、話題性やインパクトの大きさ、将来性、私の個人的趣味といった各要素を勘案したうえで」
の順位付けです。
一昨年昨年に比べると、なんだかパッとしませんが‥‥。


読書界番付

西
1Q84 横綱 電子書籍
ブランドムック 大関 太宰治
ONE PIECE 関脇 大日本印刷
リーマン本 小結 貧困本
戦国本 前頭1 オバマ本
加藤周一 同2 高遠ブックフェスティバル

以下、解説です。

■横綱
1Q84
電子書籍

今年の新刊で社会的にも話題になったベストセラーって、『1Q84』しかないんじゃないでしょうか。1月にエルサレム賞で注目を集めた後、久々の長編でさらに話題をかっさらい‥‥、と2009年は村上春樹一人勝ちでした。
ノーベル文学賞にも、もしかして‥‥、と(ファンと出版社が)期待しましたが、そちらは残念でした。(ハルキ読者じゃないからよくわかんないけど、村上春樹ってそんなにノーベル賞に近いの? 欧米でもよく読まれているのはわかってるけど、今ここで読む意義とか、そういう選考委員会好みの政治性を考えると微妙だし‥‥。)

一方の電子書籍は、まあこれといって何か大きな話題があったわけではありませんが、あだ花で終わった「コルシカ」のサービス(購入した雑誌をウェブでも読める)とか、iPhoneアプリとして読める雑誌(クーリエジャポン)とか、同じくiPhoneで雑誌を有料配信するMagastore(どれだけ使われてるのかしら)とか、ディスカヴァー・トゥエンティワンの「デジタルブックストア」とか、国会図書館の蔵書デジタル化とか、Kindleが日本でも発売とか(青空文庫なら読める)、amazon.comの1日の売上でKindle向けが紙の本を上回ったとか、そうしたもろもろを合算して横綱に。ついでに今後の期待も込めて。
日本雑誌協会が来月から「雑誌のデジタル配信に向けた実証実験」を開始するというし、なんとなく電子書籍化への「風が吹いてきた」ような気がしますが、どうなることやら。まあ一般の新刊書籍が専用端末やケータイで少し安く読めるようになるまでブレイクスルーはないでしょうけど‥‥。

■大関
ブランドムック
太宰治

ChuChuやらマリ・クレールやら、今年もメジャータイトルが休刊になった女性誌界ですが、そこそこ元気だったのが宝島社でした。sweetやInRedなんかで付録をつけるだけでなく、一冊丸ごと1ブランドで付録のついた「ブランドムック」が完売続出とか何とか、ニュースになりました。
でも、いつでも女の子が大好きな、そんな「安くてかわいい」路線もいいですが、それに対抗して、
「オリジナルバッグ付き・丸ごとヴィトンムック」(10万円)
なんていうのがひとつくらい出てくれると楽しいと思います。

今年はまた、太宰治、松本清張、大岡昇平、埴谷雄高、中島敦と、今年は何人ものメジャー作家の生誕百年でもありました。1年終わって、勝者は太宰、2位が松本清張、でした。
ただ、太宰治フィギュアが商品化されなかったのが、残念です。

■関脇
ONE PIECE
大日本印刷

朝日新聞の12月4日付け朝刊で、9面をジャックした「ONE PIECE」。このところ元気のないコミック市場にあって、大きな話題になりました。第56巻の初版発行部数は285万部と史上最高を記録したそうです。「メンズノンノ」の表紙にもなったし。
映画も好調で、「宇宙戦艦ヤマトを初日に見に行ったら、すごい行列で、ヤバイ!と思ったんだけど、ヤマトのほうはガラ空きで、並んでたのはONE PIECEだった」なのだそうです。

業界では大日本印刷の動きが目立ちました。昨年、図書館流通センターと丸善を子会社化してましたが、今年は3月にジュンク堂を子会社化、5月には主婦の友社の筆頭株主になって、さらにブックオフへの出資を決定、9月には傘下のジュンク堂が文教堂の筆頭株主に。
今年はそれほど大きな出版社の倒産がありませんでしたが、代わりに着々と業界再編が進んでいるのかもしれません。ただし、こうして提携や経営統合した先のビジョンというのが、まだハッキリしないのだけど。近所のブックオフも、あいかわらず元のままのブックオフだし‥‥。

■小結
リーマン本
貧困本

リーマン本といっても、もちろん数学のリーマン予想ではなく、「ぼく、オタリーマン」とかそっちのリーマンでもなく、昨秋のリーマンショックのほう。さあいよいよ世界恐慌か、いや日本は大丈夫かも、とリーマンショックと恐慌関連のビジネス本、経済本が一時期、本屋さんの店頭を彩りました。

このリーマンショックと関連して、湯浅誠や雨宮処凛らの「反貧困」ものをはじめ、昨年に続いて貧困をテーマとした本もいろいろ出ました。今年は、貧困の現状告発本が一巡して、政権交代と相俟って、貧困を克服するためにはどうすればいいのか? といったようなテーマの広がりが見られました(ベーシックインカムの議論など)。
ところで、この貧困ブームの端緒になったのは、一昨年の赤木智弘「『丸山真男』をひっぱたきたい――31歳フリーター。希望は、戦争。」でしたが、思えば雑誌発で社会にインパクトを与えたのって、このときが最後だった気がします。寂しい。

■前頭一枚目
戦国本
オバマ本

大河ドラマの直江兼続が女性に人気だったことに加え、「戦国BASARA」などのゲームから広がった「歴女」が市民権を得て、これまで主に中高年男性向けだった歴史本が、少し華やいだものになりました。印象的だったのは、「“戦国BASARA”武将巡礼」シリーズや「戦国武将ぴあ」、「戦国武将お墓参り手帖」のようなガイドブック的な本です。
次は「竜馬伝」と「坂の上の雲」ですから、来年は幕末〜明治をテーマに同様の書籍(幕末志士巡礼、幕末ぴあ、幕末志士お墓参り手帖)が出そうです。
でもって、幕末ぴあに対抗して、「幕末Walker」「るるぶ幕末」「幕末一週間」などが出ると、楽しそうです。

また、年の初めには、演説集をはじめとするオバマ本も流行しました。政権交代で民主党本もいろいろと出ましたが、ベストセラーになる前にみんな政権に幻滅しちゃったみたい‥‥。

■前頭二枚目
高遠ブックフェスティバル
加藤周一

夏の終わりに、鉄道の駅もない山間の小さな町で、「ブックツーリズム」のイベントが開かれました。それが今年から始まった「高遠ブックフェスティバル」です。都心の一箱古本市とか、こういうのをきっかけに、草の根の読書ムーブメント、本との出会いを演出するイベントがどんどん開かれるようになるといいなあ。

加藤周一は昨年の12月に死んだ評論家・医者。没後、「やっぱり加藤周一はすごかったなあ」ということで、著作集やら何やらが刊行されました。
今年はレヴィ=ストロースが死んで、やっぱり著作が少しずつ出ていますが、むしろ庄野潤三の小説をどんどん文庫化してほしかった。

ということで、以上でおしまい。
一昨年の番付は前頭6枚目まで、昨年は同3枚目までの番付をつくりましたが、なんだか年を追うごとに番付が寂しくなっていきます。
しょんぼり番付の候補はいっぱいあるんですが、なんだか余計悲しくなりそうなので、今年の読書界しょんぼり番付は無しです。(単に、メンドーだから、でもあるけど。)
ちなみに、しょんぼり番付候補は、いっぱいある休刊雑誌や2兆円を割った出版市場はもちろんですが、大関か関脇には、ぜひ埴谷雄高を推したいところです。せっかくの生誕百年で、マンガ版「死霊」とか、「死霊完結編」とか(「死霊」は未完です)が出るのを期待したけど、埴谷雄高のことが少しも話題になりませんでした。

さて、明後日からはいよいよ、
「国民読書年」
が始まります。
1年後、この「国民読書年」が、「読書界しょんぼり番付」に顔を出さないといいのですが‥‥。


posted by 清太郎 at 11:09| Comment(3) | TrackBack(2) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月20日

ガンダム×ハーレクイン

えー、そろそろ終わりが近づいている2009年。今年はガンダム30周年ということで、いろいろ話題になったわけですが、そういえばハーレクイン日本版も創刊30周年だったんですね。最近、初めて知りました。
ガンダムが、
「もう30周年か‥‥」
という感じなのに対し、ハーレクインのほうは何となく、
「えっ、まだ30周年だったの?」
ではあるのですが、まあとにかく、ガンダムとハーレクイン日本版、お互い偶然にも同じ年生まれ同士、これからも手を携えて、ひとつひとつ年を取っていくことになるわけです。

そんな浅からぬ縁がある両者、せっかくですから、ときにはコラボしてもいいのではないでしょうか。
ガンダムって、見方によっては単なるロボットアニメでしかないかもしれませんが、しかし、その作品中には、多彩な女性キャラと、それに付随するドラマがあふれています。
そうした女性キャラをヒロインに仕立てて、ガンダムの物語をハーレクインの文法とレトリックで編みなおせば、立派なハーレクインロマンスが次々と生まれるはずです。

ということで、例の通り、ハーレクイン風のあらすじで、いくつか作品を考えてみると‥‥。

「めぐりあいの宇宙」

自分を拾ってくれた大佐のために尽くす東洋美人ララァ。やさしくて強くてミステリアスな大佐への愛は、本物だと思っていた。しかし、ララァはふと疑問に思う。大佐、あなたはあたしに、“お母さん”を求めているの‥‥? そんなある日、ララァは、敵方、連邦の少年兵士アムロに出会う。青くさくて一途なアムロと戦う中で、彼に惹かれていく自分の気持ちを、ララァは押しとどめることができなかった。でも、彼は敵なのよ! 愛しちゃいけないわ。それに、あたしには大佐が‥‥。「あなたの来るのが遅すぎたのよ」「遅すぎた?」「なぜ、なぜ今になって現れたの?」 そんなララァの心の揺らぎを、大佐は許さなかった。「ララァ、奴とのざれごとはやめろ!」 宇宙を舞台にした三角関係の行方は‥‥!?

「愛の密航者」

幼い弟と妹を養うために、ミハルにできることは、間諜になることしかなかった。今度のターゲットは、連邦の新型軍艦。ニヒルなように見えて案外単純な乗組員カイをだまして、まんまと潜入に成功したミハル。だが、秘密工作中の姿を、カイに見られてしまう。ど、どうしよう‥‥。しかしカイは、すべてを知ったうえで、ミハルのことをかばってくれたのだった。「わかってるよ。あんなに兄弟思いのあんたが俺を想って来たなんていうのは嘘だってこと」。温かく包み込みこんでくれるようなカイの愛に、ミハルは初めて女の悦びを知るのだった‥‥。そして、愛に目覚めたミハルは、カイのために尽くそうとするのだが‥‥。大西洋を血に染めて、愛は悲しい結末を迎える‥‥。

「ママと呼ばないで」

名家の令嬢として育ったミライも、今や軍艦の操舵手として、前線でバリバリ働いている。しかし、彼女の周りの男は、いまひとつ、パッとしない。婚約者だった男は、優柔不断のうえ、女が立派に働けることを認めようとしないボンクラ。いつもそばにいる艦長も、あたしに気があることはバレバレなのに、いつまでたっても手を出そうとしない。艦内のほかの男たちときたら、あたしのことをお母さん呼ばわりするガキどもばかり。あたしはあなたたちのママじゃないのよ! ああ、どこかに、あたしを満足させてくれる男、強くて頼りがいのある、本当の男はいないのかしら‥‥。そんな彼女の前に、彗星のごとく現れたのが、少しやさぐれた、あの男だった。スレッガー中尉。艦内のみんなが見ている前で、彼があたしを平手打ちしたとき、あたしの身体の奥深くに、電撃が走った‥‥!

「仮面の剥ぎ取って」

名門ザビ家の長女として、軍を統括するキシリア。彼女はこの年になるまで、本当の恋愛というものを知らぬままだった。わたしの周りの男どもときたら、誰もが犬のような目をした奴ばかり。少しは見所があるかと思ったあの痩せぎすの部下も、単なる骨董マニアの変態だった。ああ、どこかに、わたしの身も心も荒々しく奪ってしまうような男はいないのかしら‥‥。そんな鬱屈した気持ちを抱える彼女は、ある日、ひとりの男の存在に気づく。かつて彼女の愛する弟を守りきれなかった男。いや、見殺しにしたのかもしれない男。年下のその男が、仮面の奥からわたしを見つめた瞳に、危険な、けれど激しくたぎるような何かを感じてしまったのだ! 彼ならば、わたしのこの飢えと渇きを満たしてくれるかも‥‥。すぐに彼を直属の部下へと抜擢すると、キシリアは静かに、男の周りに網を張り巡らしていくのだった。女郎蜘蛛のように‥‥。そしてついに、彼女の前に、男がみずからのすべてをさらけ出すときがきた‥‥! 「いざとなると恐いものです。手の震えが止まりません」。だが、やがて、そんな年下の彼から、手痛いしっぺ返しを‥‥!?

‥‥って、しかし、よく考えると、こんなの、それこそ30年前からありそうですよね。
公式には発売されてなくても、コミケなんかでは、こうしたアニメを題材にしたハーレクイン同人誌があふれているに違いありません。
上記のような物語も、それこそ毎年何十冊単位で発表されているような気もします。
いや、むしろこんな実際のストーリーをなぞった物語なんて、もうとっくに、3年目くらいで消費し尽くされて、あとは作中に登場するあらゆる男女を、あらゆる設定で組み合わせたハーレクイン(たとえば、ルナツー舞台にしたハモン・ラル×ククルス・ドアンの人妻強奪ものとか、ベルファストを舞台にしたイセリナ×マーカーの一夜の情事ものとか)が出てるかもしれません。
うーむ、勉強不足でした。素人の浅はかな考えでした。出直してきます‥‥。


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2009年11月29日

読書推進キャラ「ヨミネエ」萌え化

今年も残すところあと1ヶ月ほどとなりまして、ということは、2010年の国民読書年の開始まであと1カ月、ということでもあります。
なのに、この盛り上がりのなさは、いったいどうしたわけか。
いちおうロゴマーク(ちょっとレトロ風味)が発表されたり、キャッチフレーズは「じゃあ、読もう。」に決まったり、それなりに着々と準備は進んでるみたいなんだけど、なんというか、‥‥地味です。
中でも、私がとりわけ問題視しているのは、ズバリ、
「マスコットキャラ」
です。
「国民読書年」そのものの公式マスコットが存在しない、ということがそもそも問題なのですが、国民読書年に関連する唯一のマスコットキャラともいうべき財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)の「読書推進キャラクター」の認知度の低さといったら!
皆さん、ご存じですか?
これです。

yominee3.gif

これ、「ヨミネエ」っていう名前なんですよ。
知らなかったでしょ。
どのくらい知名度がないかというと、さっき「ヨミネエ」でググってみたところ、検索結果、わずか、
「27件」
しかも、その27件中、この「ヨミネエ」に関するものは、なんと、
「5件」
ちょっとあなた、ググった結果5件しかヒットしないマスコットキャラって、どゆことよ!?
奈良遷都1300年を引き合いに出すまでもなく、今のご時世、イベントの話題性、そしてその成否は、マスコットキャラに左右されるといっても過言ではありません。
開始まであと1カ月の時点で、それに関連するマスコットにこれほど知名度がないイベントなんて、もうすでにその失敗が予見されたようなものです。
あーあ、残念でした、国民読書年。

‥‥とはいうものの、それで終わってしまっては、あまりにも悲しい。寂しい。
ここはひとつ、ポジティブに考えてみることにましょう。
国民読書年開始まであと1カ月。
1カ月あるのです。
この1カ月の間に、なんとかヨミネエの知名度をアップさせようではありませんか。
そもそも、素材としてのヨミネエ自体は、決して悪くないと思うのですよ。
なんだかパッと見、ひみつ道具「人間ブックカバー」を装着したのび太に見えなくもないんですが、それなりにかわいらしい。このヨミネエの携帯ストラップを本屋さんでもらえたら、たぶん、けっこう嬉しいです。
しかし、良いものがすべて売れるのなら、マーケティングなんて必要ないわけで、素材を用意したその後が勝負でもあるわけです。どうすれば、このヨミネエの存在を周知させることができるのか。
ということで、安直ながら、ここはやはり、
「萌え」
に頼るのがいちばんではないのか、というのが私の結論であります。
かつて草gくんが全裸になっちゃったとき、地デジPRのキャラとして代役に立てられた「チデジカ」を美少女化・萌え化したイラストがネット上にあふれたように、ヨミネエも萌えイラストの題材になればいいのです。
たとえば、こんな感じ。(なんか「萌え」から外れていて申し訳ない。しかも17歳には見えないし。)

yominee_comp.jpg

ついでに、裏設定も考えておきましょう。
ヨミネエは「ヨミ姉」ということでしょうから、本名は「本田ヨミ」で。(なんだかどこかで聞いたことのある設定だけど。)
お姉さんなわけですから、14歳くらいの弟がいます。だからヨミネエは、17歳で。
高校2年生。
文芸部所属。
趣味は、もちろん読書。
ふだんはおしとやかで、物静かで、眼鏡の似合う美女で、巨乳。
ただし、読んだ本を頭にかぶる変な癖と、気に入った本を、
「これを読んでよ、読んでよ、ねえ、読みねえ!」
と人に押し付けるのだけが、ちょっと困り者です。
で、このヨミネエの読みねえ攻撃に対して、いつも、
「読まない、読まないってば、もう、読まねえ!」
と、にべもなく退けるのが、ヨミネエの親友にしてライバル、「ヨマネエ」こと余舞詩織(よまい・しおり)、17歳。
背が高くて、ボーイッシュで、ふだんは体操着で、貧乳。やっぱり弟がいます。13歳くらい。
眼鏡はかけてないけど、本を頭にかぶる癖は、ヨミネエと同じです(ふたりが友達になったきっかけは、それです)。

yomanee_comp.jpg

と、以上は一例に過ぎませんが、このような美少女化ヨミネエがネット上で出回るようになれば、国民読書年に対する国民の認識もまたあらたまるのではないでしょうか。

さらにいえば、国民読書年のようなイベントは、事後にその成果についてちゃんと検証されることが少ないものですが、このヨミネエがひとつの指標となるような気がします。
来年12月の冬コミにおいて、ヨミ×ヨマ百合展開本をはじめとする「ヨミネエ本」(およびその弟たちを題材にした弟×弟BL本)が何冊出るか、その結果をもって国民読書年の総括とすればいいんじゃないかと思います。


posted by 清太郎 at 11:53| Comment(7) | TrackBack(1) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月22日

司書っ子マグたん

皆さん、はじめまして! 神崎マグです。玉南小学校4年生です。よろしくね!
マグはねー、こう見えて、魔法が使えるんだ。
ホントだよ!
あ、その目、信じてないでしょー。
まー、それも当然だよねー。
よーし、証拠を見せてあげるから、ちょっと待ってね。
今、マグは図書館にいます。うちの近くの、玉南図書館。
さいきん新しくなって、本の貸し出しとか、返却とか、ぜんぶ自動になってるんだよ。すっごいべんり!
だからマグ、内緒で、ちょっと恥ずかしいおとな向けの本とか、借りちゃってるんだけど。
あ、そんなのは、どうでもよくて、自動化はべんりだけど、でも、おかげでこのごろカウンターにあんまり司書さんがいないんだよねー。
だから、ときどき、本のことで何かききたいときとか、困っちゃう。
そんなとき‥‥。
あっ、今、おばあちゃんが、ちょっと困ってるみたい。あいかわらず、司書さんいないなー。よーし、マグの出番だぞー。
本棚の陰の、人から見えないところで‥‥。
ジャジャーン!
この魔法のステッキで‥‥。
「リーブラリーブラ、リブラリア〜」
ピロピロポロ〜ン!
ほーら、どう、見て!
すごいでしょ。
マグ、おとなの司書のおねえさんに、へーんしん!
ほら、胸のここには、キラリーン! 金色の司書バッジ。
どこから見ても、デキる司書さんだよー。エヘン!
よーし、今日も、レファレンスしちゃうぞー。
「お客様、何か本をお探しですか?」
「あら、あなた、司書さん? ちょうどよかったわ。ちょっと気になる詩があって、読んでみたいんだけど‥‥」
「どんな詩でしょうか?」
「何か、『おめでとう』をいろんな方言で言ってる詩なんだけど‥‥」
「おめでとうで、詩で、方言、でございますね」
「そうなの、孫にインターネットで検索してもらったけど、見つからなくて」
「それでしたら、少々お待ちくださいね」
おめでとうの詩かー、なんか、おもしろそう!
ちゃんと見つけてあげなくちゃ!
でも、マグ、魔法で外見はデキる司書さんになったけど、中身は小学4年生のままなんだよねー。ぜんぜんわかんなーい。
だけど、だいじょうぶ!
マグには、これがあるんだもん!
ジャジャーン!
この魔法のステッキで‥‥、
「リーブラリーブラ、リブラリア〜」
ピロピロポロ〜ン!
あっ、ひらめいた!
「お客様、お待たせしました」
「あら、早いわね。もうわかったの?」
「はい、お探しの詩は、川崎洋の『祝詞』のようですね。今、この詩が入っている本をお探ししますね‥‥。あ、ございました。『ちちんぷいぷい』という本が児童書のコーナーにございますので、そちらをお借りになっていただければ、いいかと思いますよ」
「あらー、さすが司書さんね! ありがとう」
「いえ、またお困りのことがございましたら、いつでもどうぞ」
うふふふ、マグ、すごい司書さんでしょー。

あ、次は、ちょっとかっこいいおにいさんだ。何か困ってるのかな?
「あの、お客様」
「えっ、あ、もしかして、司書さんですか?」
「はい、当館の司書でございます。何かお手伝いできることは、ございますか?」
「は、はいっ、あの、本を、というか、小説を一編、探してるんですが」
「どんな作品でございましょう」
「それが、タイトルも作者もわかんなくて。子どもの頃、どこかで読んだきりなんですが、何月何日に何を買った、っていう家計簿みたいな項目だけでできてる話なんです。数ページの短い短編で、オチまであってちょっと笑えたんですが、どんなオチだったかも忘れちゃって、この前から気になってるんですよね」
「家計簿みたいな短編、でございますね、で、笑える、と。少々お待ちくださいませ」
へー、なんか、おもしろそうな話! マグも、あとで、読んでみよーっと。
もちろん、マグにはぜんぜんわからないから、この魔法のステッキで‥‥。
「リーブラリーブラ、リブラリア〜」
ピロピロポロ〜ン!
あっ、ひらめいた!
「お待たせいたしました」
「あっ、もう、わかったんですか!?」
「はい、それだけのヒントがあれば、十分でございます。お求めの作品は、フィッシェ兄弟の『エステル』のようですね。『ちくま文学の森14巻 ことばの探偵』に入っておりますが‥‥、ああ、申し訳ございません。当館には蔵書がありませんので、ほかの図書館からのお取り寄せになりますが‥‥、よろしいでしょうか?」
「は、はい! もちろん! 予約します! ありがとうございます!」
「いえ、このくらいは、司書なら誰でもできることですから」
うふふふ、おにいさん、うれしそう。今日も、いいことしちゃった。
レファレンスって、なんか、快感! ぞくぞくしちゃ〜う。マグ、おとなになったら、ぜったい、司書さんになるんだ!

          *        *        *

皆さん、こんにちは!
神崎マグです。1週間ぶりの図書館です。
今日も、司書のお姉さんに、へんしんするぞー。
そういえば、このまえのおにいさん、どうしたかな? 取り寄せた本、読んだかな?
‥‥あっ、あのおにいさんだ!
「お客様、先日の作品、お読みになりましたか?」
「‥‥? えっ、何? キミ、誰?」
し、しまったー! マグ、まだへんしんしてなかった!
「あわわ、えっと、その、あの‥‥」
「ああ、いや、ちょっと聞いていいかな? キミ、この図書館に、よく来るの?」
「え? は、はい」
「それなら、司書さんのことで、ちょっと教えてほしいんだけど‥‥」
「はい‥‥」
「この図書館で、若い女性の司書さん、見たことある?」
えっ、それって、マグのことかな?
「若い女性の司書さん、ですか?」
「そう、このまえその司書さんに本を探してもらって、お礼を言いたかったんだけど、さっきカウンターで聞いたら、そんな若い司書は働いてない、っていうんだよね」
あ、やっぱ、マグのことだ。でも、マグの仕事は、図書館の人には、内緒だからねー。
「どんな司書さんなんですか?」
「どんなって、えーと、大学出たてくらいの若さで、っていってもキミにはわかんないかな、とにかく、若くて、髪がこのくらい長くて、眼鏡で、美人の‥‥」
えっ、び、美人、マグが!?
「ええーっ、やだあ、美人だなんて、あの、その」
「ん? キミ、あの司書さんのこと、知ってるの? いつ来れば会えるか、わかる? 知ってたら、ぜひ、教えてくれないかな。僕、あの司書さんのことが、どうしても気になっちゃって、こんど会ったら、お礼ついでに、食事にでも誘いたいと思って‥‥、あ、いや、小学生相手に、何言ってんだか、僕‥‥」
えーっ、もしかして、このおにいさん、マグのこと‥‥。
えー、やだ、どうしよう、マグには、2組のタカシくんがいるし‥‥、でも、このおにいさんも、けっこう、好みかも。きゃー、やだ、マグったら、もしかして、ましょうのおんな、かも〜!!

‥‥といった設定の「司書っ子マグたん」を、来る2010年の国民読書年に向けて、日本図書館協会か何かのマスコットキャラとして推薦します。
ポスターやドドンと萌えな感じのマグたんのイラストとともに、
「アナタのために、本を探してア・ゲ・ル!」
とか何とかいったキャッチコピーをつけておけば、なんとなく、司書さんの認知度アップと待遇改善に貢献するような気もします。
ついでに、ちゃんとしたマンガにして、でも書店売りはせず図書館だけに納品、ということにしたりすると、
「図書館でしか読めない幻の萌えマンガ!?」
として、それなりに話題になって、いいんじゃないでしょうか。


※川崎洋「祝詞」のネタは、『図書館のプロが教える〈調べるコツ〉―誰でも使えるレファレンス・サービス辞令集』(柏書房)から引用しました。
posted by 清太郎 at 23:13| Comment(8) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月03日

いもうと司書

雑誌「出版ニュース」の9月下旬号に、
「今、アメリカの大学でライブラリアンと呼ばれる職業が絶滅しつつある―デジタル化がもたらしたもの?」
という記事が載っていました。今更? というか、だから何? というか、ほぼ無料貸し本屋と化している日本の多くの図書館において、何かしらの変革をしない限りいずれは司書がただの倉庫番か「レジの人」になっちゃいそうなことは、ネットで調べものをするのが当たり前になったころから、わかりきっています。

将来(それも比較的近い将来)、司書はどうなるのか。司書に未来はあるのか。
真面目に考えると気が滅入るこの問題に対して、何かしらの示唆を与えてくれるのが、現在放映中のアニメ「戦う司書」です。
この作品は、
「人が死んだら本になっちゃう、という世界で、その本を管理する司書が無敵の武装集団となって、あやしい悪の教団と戦う」
という話で、タイトルから想像していた内容とはぜんぜん違っていたので第1回しか見てないのですが、それはそれとして、「戦う司書」、つまり、
「司書だけど、戦う」
という点こそが、閉塞感に悩む司書たちにとって、打開策のヒント、一条の光であるように思うのです。
そう、司書がこれまで通りの司書である限り、未来は見えない。それならば、司書+αの存在となることで、差異化できないか。そうすることで、司書としての生き残りをはかることはできないのか、ということです。

ただし、いうまでもなく、いくら差異化したところで、+αの「α」が、司書と同じくらい希望のないものでは、あまり意味がありません。
「フリーターの司書」
「新聞勧誘員の司書」
「植字工の司書」
などでは、ただの司書のほうがまだマシといわれてしまいそうです。
では、どのような「司書+α」になればよいのでしょうか。いつものように、考えてみました。

「耕す司書」
司書だけど、農家。
重い本を運び続けているうちにいつの間にか鍛えられた強靭な腰と手足は、すでにあらゆる肉体労働に対応できるはず。今年になって雑誌で特集されたりして農業がブームになってますが、司書であれば、鋤を振り上げて田畑を耕すなんて、お茶の子さいさいです。
図書館には農業関係書籍がバッチリ揃ってますから、農業について知識がなくても大丈夫。とりあえず自分の食べるものだけでもつくれるようになれば、将来、図書館がつぶれても安心です。
そうして、ときどき利用者さんが本を借りにきたら、
「おお、ちょっと待っててくんねえべか」
といいつつ(なぜか方言)、土にまみれた手を洗って、カウンター業務をしたりすると、なんだか素朴でステキです。
また、このごろは「顔の見える野菜」が流行っていますから、つくった野菜をカウンターのわきに置いておけば、利用者さんが喜んで買ってくれるでしょう。

「看護する司書」
司書だけど、看護婦さん。
肉体労働といえば、看護士さんもそうですね。
医療系の仕事は今後ますます需要が増えるばかりでしょうから、とりあえず将来も安泰です。
また、図書館の利用者は今後さらに高齢化が進むばかりですから、司書さんが看護士であれば、万が一、
「利用者さんが倒れた!」
「発作が!」
「脳卒中!?」
といった場合に、迅速・的確に対応できます。安心・安全な娯楽場として、図書館の地位向上にも役立つはずです。
もちろん、制服は白衣で。ズボン不可。スカートのみ。そうすれば、お年寄りばかりでなく、若い男子の利用客も増加することでしょう。

「祓う司書」
司書だけど、巫女さん。
比較的幅広い層に愛好されている看護婦さんに比べると、ややマイナーな巫女さんですが、それだけに、
「巫女さんのためなら、オレ、もう、毎日通います!」
という、少数ながら力強いファンに恵まれています(たぶん)。司書さんが巫女さんになれば、熱心なリピーターが増えるはずです。
また経済的にも、ときどきカモになりそうな利用者に対して、
「あっ、あなたの背後に、悪しき霊が‥‥」
などといって、お祓い料をせしめることで、司書としての収入の不足を補えます。

「奉仕する司書」
看護婦さんも巫女さんもいいけど、まずは基本(?)として、メイドをおさえるべきかもしれません。
メイド服を着た司書さんたちが、ずらりと並んで、
「おかえりなさぁい、ご主人様!」
と利用客を迎える図書館があれば、
「料金を払ってでも、利用したい」
というファンも多いはずです。
またメイドであれば、これまで利用者の無理難題に応えてきたサービス業としての司書のスキルがそれなりに役立つことでしょう。
「ご主人様、今日はどんな本をおもちいたしましょうか」
ということになれば、今までほとんど役に立たなかったリファレンスのスキルも活用できます。

「いもうと司書」
ただ、最近は猫も杓子もメイドですから、もうメイドは飽きた、という人も多いかもしれません。
むしろ、なんだかよくわかんないけど人気らしい、
「妹」
で攻めるべきかもしれません。
入館した利用者さんを、
「おにいちゃあん!」
と迎えるのね。
「おにいちゃん、本、借りてってぇ」
と甘えたりして。
利用者は、「もう、しょうがないなあ」とか何とかいいつつ、まんざらでもない気持ちで、本を借りていきます。

「ツンデレ司書」
妹があるなら、萌え属性として不動の人気を誇る「ツンデレ」もありでしょう。
真っ赤になって、そっぽを向きながら、
「べ、べつにアンタに本貸したいわけじゃ、ないんだからねっ!」
と、本を差し出したりして。

‥‥って、なんだか、当初予定した「司書+α」とは、ぜんぜん別物になってしまった。あいかわらず、司書の未来は見えないままでした。ダメじゃん。


posted by 清太郎 at 21:19| Comment(7) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月31日

ガンダム文庫創刊

あいかわらずの不況です。
景気はなかなか上向きになりません。
誰もが、財布の紐をがっちり締めるばかりです。
そんな中、メーカーや小売の人たちは、なんとかして商品を買ってもらおうと、いろいろ工夫を重ねています。
その工夫のひとつが、
「キャラクターとのタイアップ」
なかんずく、
「ガンダムとタイアップ」
ということで、真っ赤なシャア専用アイスにシャア専用カップヌードル、ガンプラ付きカップヌードル、包み紙に名セリフ・名場面が載ってるニュータイプ専用ガムといった、
「こんなのがシャア専用で、いいのか?」
と若干疑問に思わなくもない商品が次々と発売され、それなりに話題になっています。
これらの商品のターゲットとなっているのは、ガンダム好きな人、とりわけ、
「ガンダムだから、とりあえず買っちゃう人」
です。
不況だし将来も不安だし生活にそんなに余裕はないけれど、でもガンダムのために使う数百円くらいなら、もったいないとは思わない、という層が、確実に存在するのです。

というわけで、われらが出版界も、その「ガンダムだから、とりあえず買っちゃう人」に、本を買ってもらってはどうでしょうか。
サンライズ(あるいは創通エージェンシー)に渡りをつけて、新レーベルの文庫を創刊するのです。
名付けて、
「ガンダム文庫」
(そのまんますぎるかしら?)

ガンダム文庫の魅力は、何といっても、
「表紙がガンダムであること」
これに尽きます。
表紙がガンダムなだけで、「ガンダムだから、とりあえず買っちゃう人」は、思わず心ときめくこと、間違いなし。
さして興味のない文学作品が中身であっても、ついつい手が伸びてしまうのです。

たとえば、新訳古典文庫がベストセラーになった「カラマーゾフの兄弟」も、表紙がガンダムになれば、話題再燃です。

カラマーゾフ表紙.gif


シャアが表紙なら、女子の需要も喚起できるはず。

あしながおじさん表紙.gif


ほかにも‥‥、

パノラマ島表紙.gif

痴人の愛表紙.gif

恩讐の彼方に表紙.gif



ただ、表紙だけガンダムでは、いずれ飽きられます。
せっかくサンライズだか創通だかと組んでいるんですから、もっとふんだんにガンダム素材を使いたいところ。
多少コストがかさみますが、挿絵にガンダムを入れてみてはどうでしょう。
たとえば、宮澤賢治「よだかの星」の冒頭には‥‥。

よだかの星.jpg
《よだかは、実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。》


森鴎外「舞姫」の終盤、エリスが豊太郎の帰国を知る場面には、こんな感じ。

ララア.jpeg
《面色さながら土の如く、「我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺き玉ひしか」と叫び、その場に僵(たふ)れぬ。》


太宰治「駆け込み訴え」。

ギレンの演説.jpg
《申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。》



ビジュアルだけでなく、いっそのこと中身の文章もガンダム化してもいいかもしれません。
名前を変えてみるだけでも、ずいぶん雰囲気が変わります。
お馴染みの「走れメロス」を使うと、こんな感じ。
あ、タイトルはメロスじゃないですね、「走れガンダム」になります。

走れメロス表紙.gif


冒頭、《ガンダムは激怒した。》
激怒した.jpg



《必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。》
邪知暴虐.jpg



そこからいろいろあって、身代わりになった友を救うために、ガンダムは、走る、走る!
ああ、ガンダムは間に合うのか。
《すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたザクは、徐々に釣り上げられてゆく。》
つりさげ.jpg



《「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。ガンダムだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」》
メロスはここにいる.jpg



殴りあう二人の友。
なぐりあう2人.jpg



そして感動のシーンに水を差す、太宰ならではのラスト、
《「ガンダム、君は、まっぱだかじゃないか。」》
《勇者はひどく赤面した。》
まっぱだか.jpg



しかし、出版界は柳の下のドジョウなので、このガンダム文庫が成功すると、その後、続々と、
・ドラえもん文庫
・ディズニー文庫
・ハローキティ文庫
などが創刊されることでしょう。

たとえば、ドラえもんが表紙の「吾輩は猫である」とか、のび太が表紙の「人間失格」とか、ジャイアンが表紙の「蠅の王」とか、あるいは、

美少女表紙.gif

‥‥うーむ、これはこれで、案外いいかもしれません。



posted by 清太郎 at 17:40| Comment(6) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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