2008年04月24日

サン・ジョルディの日はなぜ失敗したか

えー、忘れていたかたも多いと思いますが、昨日4月23日は「サン・ジョルディの日」でした。
男子は女子に本を贈って、女子は男子に花を贈る‥‥、あれ? 逆だったかな? とか何とか、そういう日です。

あらためてWikipediaを見たところ、サン・ジョルディの日というのは、もともと1923年にスペインのカタルーニャ地方の本屋さんが考案したものなんだそうです。この日がセルバンテスの命日で、かつシェイクスピアの誕生日&命日、しかもカタルーニャ地方の守護聖人サン・ジョルディ(聖ゲオルギウス)の祝日であることから、ひとつうまいこと商売に結び付けられないか、とキャンペーンを始めたのが最初なんだとか。(ちなみに、男子が女子に赤いバラを、女子が男子に本を、でした。)

日本では1986年に導入されたそうですが、それから20年余がたって、ご覧の通り、残念ながらさっぱり根づきませんでした。どのくらい根づいてないかというと、「サン・ジョルディ」という言葉をカタカナ変換しようとしたら「三・女ルD」「産・所るディ」になっちゃった、というくらい。バレンタインデーは「馬連多淫D」なんかになることなく一発でちゃんと変換されるのに。

バレンタインデーやホワイトデーのあの興隆ぶりに引き比べ、サン・ジョルディの日はなにゆえ失敗に終わったのでしょうか。
そもそも本をプレゼントするって難しいとか、お互いにプレゼントを贈りあうなんてクリスマスでもないのにこっぱずかしいとか、あたしの彼は本なんて読まないとか、日本人の知的レベルが低下したからとか、いろんな理由を挙げるかたがいるかもしれませんが、しかしこれは単純に、出版社や本屋さんの営業努力が足りなかった、というそれだけの理由だと思うんです。

バレンタインデーが人気なのは、単純に、お菓子屋さんやスーパーやデパートががんばってるからです。
バレンタインデーが近づくと、お店には特設のバレンタインコーナーができて、バレンタイン用の、ちょっと高そうなチョコレートがいっぱい並ぶわけです。お菓子屋やスーパーやデパートは、バレンタインデーのための特別なチョコを、ちゃんと用意している。
これがもし、いつもと同じチョコレート、明治のミルクチョコレートとかマーブルチョコとかアポロチョコとか、ふだんと変わらない品揃えだったとしたら、どうでしょう。「そろそろバレンタインだから、チョコ買わなきゃ」と思って明治のミルクチョコレートとかマーブルチョコとかアポロチョコとかを買う女性客は、いるわけありませんよね。
それに対して、本屋さんはどうか。サン・ジョルディの日が近づこうが当日になろうが、店頭には「サン・ジョルディの日のプレゼント用の本」なんて、一冊も並びません。つまり、口では「サン・ジョルディの日ですよ! 本買いましょう!」といったとしても、お店に並べているのは、いつもと変わらない明治のミルクチョコレートとかマーブルチョコとかアポロチョコとか、ということなんです。これではお客さんの心が動くはずがありません。
Wikipediaの記事では、カタルーニャ地方ではこの習慣が定着しているようなことが書いてありますが、それが本当なら、彼の地では本屋さんががんばったのでしょう。

日本でも、本気でサン・ジョルディの日を定着させたかったら、口先だけでなく商品で、この日をアピールしなくてはいけなかったんです。
たとえば、
「サン・ジョルディの日限定! エルメスの総革文庫『紋切型辞典』」
「サン・ジョルディの日限定! ポール・スミスデザインの布製単行本『ボートの三人男』(広げればジャケットになるよ!)」
「サン・ジョルディの日限定! タグホイヤーの腕時計型本『失われた時を求めて』(100m防水機能付き!)」
なんてのがドカドカと店頭に積まれていたとしたら、限定、しかもブランド物ですから、それだけでじゅうぶん話題になったことでしょう。
マスコミに取り上げられ、「anan」で特集が組まれ、春先から今年のサン・ジョルディの日の特製本のラインナップが気になってそわそわする、ということになったはずです。

そんなに高価なものは買えないわ、どうせ彼からもらえるのは花束だけなんだし、というかたのためには、ふだんの本よりちょっと高めの「サン・ジョルディの日限定の特製デザイン本」を用意すればよかったんです。
たとえば、
「よく見ると読点(「。」のことです)がすべてハート形になってる」
「やっぱり既製品じゃダメ! 世界にひとつだけの本がつくれる手作り本作成キット」
「判型がハート形」
「主人公とヒロインの名前が、あなたと彼の名前に置き換えてある本(1週間前までにご注文ください)」
とかいうの。
こんな本が積んであったら、ほらね、なんとなく、買って彼に贈ってもいいような気がしてきますよね。別に相手がいなくても、
「自分用に、ハート形の特製『一瞬の風になれ』買っちゃおっかなー」
という女子も多かったことでしょう。バレンタインデーほどではなくとも、サン・ジョルディの日が近づくにつれ、本屋さんの店頭は女子たちの熱気であふれるようになっていたのではあるまいか。

‥‥と、今さら悔やんでも、しかたがないですよね。過ぎたことは、いさぎよくあきらめましょう。サン・ジョルディの日よ、さようなら!
そして、未来へ、前へと目を向けようではありませんか。4月23日は、今や「子ども読書の日」なんです(そうなんですよ。ご存知でしたか?)。子どもたち、あるいは両親や祖父母を相手に、どうすれば本を買ってもらえるのか、じっくりと広告戦略を練りましょう。
その際、大いに参考になるのは、サン・ジョルディの日の失敗です。失敗は成功の母。ここから学ぶことは、決して少なくはありません。
「子ども読書の日」にふさわしい本として、とりあえずは、そうですね、
「子ども読書の日限定! ポケモンカード付き絵本」
なんてのはどうでしょうか(安易すぎる)。
posted by 清太郎 at 07:56| Comment(7) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
バレンタインに学ぶとすれば、「食べられる本」にするべきでした。食パンにチョコレートで字を書くとかね。
私の申し上げたいポイントは、去年の恋と今年の恋は違うかも知れない、と言うことであります。
食っちまえば、あとに残らない。昨日の恋は胃袋に捨てて、明日の恋を指くわえてまとう、と言うわけです。
Posted by すずめの巣 at 2008年04月24日 22:26
 そういえば、そんな日がありましたね。
 本好きの間でもその程度なんですから、普通の人には、ねぇ。本当、なにかキャンペーンをもっと貼らないと認知度はあがらないんでしょうね。
 地道なとこから、あなたのタイプ別の恋愛本詰め合わせとか、あれこれ。くじなんかもあるようですが、1等にはその人の刊行物を全部プレゼントとか。←栗本薫とか、赤川次郎とか、菊地秀行とか森博嗣とかと言われたらえらく莫大なお金がかかりそうだけれど、それでも10万円ちょっとと考えれば悪くないことないですか。 
Posted by 樽井 at 2008年04月25日 11:57
すずめの巣さん。
なるほど、たしかに「食べられる」ことは大きなポイントでしたね。バレンタインがチョコレートではなくて、たとえばもし北海道のヒグマの置物(鮭くわえてる)を贈る日だったら、どれほど北海道のヒグマの置物メーカーとお土産屋さんが努力したところで、支持されなかったでしょう。昔バレンタインにもらったヒグマの置物が押入れの中に入ってるのを恋人に見付かって詰問されたりしそうだし。

樽井さん。
本好きの間どころか、今や本屋さんでも見かけません‥‥。
個々の本屋さんはいろいろ工夫しているのかもしれないですが、業界全体で、もっと本を売るぜ!的な気迫に欠けるように思います。書店くじも、前にも書いたけど、特等は海外旅行だなんていわれても、ねえ。好きな本あげます、のほうがよほどいいでしょうに。
Posted by 清太郎 at 2008年04月25日 13:59
そんな日があるのですか。初めて知りました。
いや、「本をプレゼントする日」ってのは前にもどこかで聞いた事があるような気がするのですが(たぶんこのHPで聞いたと思われる)、名前までは覚えてませんでした。
本をプレゼントするかぁ…。
でも本には、チョコレートよりもその人の性格が出るので気持ち(と言うか性格)を伝えるにはいいかもしれません、とマジレス。

でも、双方が同時にプレゼントするのはよくないかもしれませんね。ずらさないと。
バレンタインデーは、
「今日は誰からどのぐらいもらえるか」と、「こんだけあげたんだからこのぐらい返ってくるだろう」という策謀が人気の秘密だと思います(?)。
Posted by 黄黒真直 at 2008年04月26日 00:01
黄黒さん。
本は選ぶ人の嗜好や考え方が問われますし(チョコなら、「とりあえずゴディバにしておけば、まあ間違いなかろう」ということもあるんだろうけど)、せっかく念を入れて選んだのに「あ、それもう読んだ」といわれる可能性も大(そういう場合は、「再読こそが読書である、とナボコフがいってるよ」と応えればいいけど)、むずかしいですね。
まあでも、同時に贈りあう、というのは、すでにカップルであることを前提にしてるんだろうから、事前にきいておけばいいのか。
Posted by 清太郎 at 2008年04月27日 09:51
すでにカップルである、という前提が
破綻を含んでしまっているのでしょうね。

贈られてドキドキ、読むぞー、と思っても
共感がさっぱり得られない本や
読めども読めども(彼女の言う)山場の現れない本、
明らかに主人公と自分が重ならない本。

会いたくねえ、
感想語り合えねえ、
学校行きたくねえ、なんてことに。

下手すりゃあ、分かれちまうってもんですよ。

チョコレートは「おいしかった」と言っておけば
それでことが足りますもの。
最初に口に入れ時とその甘みの広がりと
ほろ苦さと後味のさっぱり感がウンヌンを
語る必要があった日にゃ、ねえ。
「俺、甘いもん苦手で」なんて
そんな台詞にもポッと出来ます。
Posted by いちろ at 2008年04月28日 14:36
いちろさん。
そうですね、サン・ジョルディの日だろうとなかろうと、本をすすめるのって、むずかしい。すすめられた本がおもしろくないのも困るし、逆に「コレ!」と意気込んですすめた本がさして評価されないのも困ります。
そう思うと、チョコレートっていうのは、無難でいいですよね。
Posted by 清太郎 at 2008年04月29日 00:03
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