「布団乾燥機」と入力しようとしたら、「蒲団乾燥機」と変換されてしまったので、思いついたネタ。
池波正太郎の文章がさまざまな面に応用できることは、本家サイトの「ドラえもん犯科帳」で示したように明らかなんだけれど、これでもう少し遊んでみたい。
「池波正太郎の文章で、田山花袋『蒲団』を書いたらどうなるか」
である。
題材となるのは、日本文学史上、もっともかっこわるいエピソードのひとつとして知られる「蒲団」のラスト。主人公の竹中時雄が、去っていった女弟子の芳子が使っていた蒲団に顔をうずめて泣くシーンだ。
原文は以下のとおり。
《時雄は机の抽斗(ひきだし)を明けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取って匂いを嗅いだ。暫くして立上って襖を明けてみた。大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡げてあって、その向うに、芳子が常に用いていた蒲団――萌黄唐草の敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。
性慾と悲哀と絶望とが忽ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
薄暗い一室、戸外には風が吹暴(ふきあ)れていた。》
いかにもしょぼくれていて、かっこわるい。発表から百年経っても、変わらぬダメ男っぷりである。
これを、池波正太郎風にすると、どうなるか。
こうなる。
かっこよくなってしまうのである。
時雄は机の抽斗をあけてみた。
「やあっ!!」
そこには‥‥。
古い油の染みた[リボン]が捨ててあった。
時雄はそれを手に取るやいなや、
「ふぐっ!!」
匂いを嗅いだものである。
しばらくして‥‥。
時雄は、立上がるや、身をかえしざま、
「たあっ!!」
と、襖を明けた。
そこには、大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡げてあり、その向うに、芳子が常に用いていた[蒲団]が重ねてあった。萌黄唐草の敷蒲団と、綿の厚く入った同じ模様の夜着である。
すかさず、時雄はそれを引出した。
「はっ!!」
女のなつかしい凝脂のにおいと汗のにおいとが、
(言いも知らず‥‥)
胸をときめかした。
おもわず、夜着の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附け、
(心ゆくばかり‥‥)
なつかしい女の匂いを嗅いだものだ。
そのときであった。
性慾と悲哀と絶望とが、時雄の胸を襲った。
時雄はその蒲団を敷くや、息つく間もなく夜着をかけると、
「むうん‥‥」
冷めたい汚れた天鵞絨の襟に、顔を埋めた。両眼から、熱いものがふきこぼれた。
さきほどまで吹き荒れていた風はいつしか静まり、青い空がおだやかに広がっていた。
やっていることは同じなのに、このかっこよさときたら、どうだ(「たあっ!!」などと、意味もなく気合いの入った掛け声を入れること、なんとなくキビキビ動いてるように描写することがポイント。最後はちょっと明るくしておきました)。
世のしょぼくれた中高年男性が池波正太郎のまねをしたがるのも、よくわかる気がする。
しかし、考えようによっては、このように可能性としてはかっこよく書けたであろうところを、あえてかっこ悪く、情けなく、しょぼしょぼに書いた、というところが、
「自然主義文学の矜恃」
である、ともいえるかもしれない。
2008年01月24日
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「やあっ」と気合いが入ってもやっぱり
あんまりかっこよくないと、思う。。。
百年たっても超えられないかっこわるさの
田山花袋を讃えておきたいところです。
そ、そうですか!?(^^;
芳子も思わず惚れる勢いのかっこよさだと思ったのですが、だめかなあ。
あるいは逆に、花袋が書いた「ダメ鬼平」なんていうのも、おもしろそうですね。