2010年07月19日

読書感想文の本の選び方

えー、7月は1度も更新しないまま、あわわ、いつの間にか夏休みの時期になってしまいました。申し訳ない。
夏休みといえば、そう、読書感想文ですね!
ということで、久しぶりに読書感想文の話題をひとつ。
今回は、基本に立ち返って、
「読書感想文のための本は、どんな本がいいのか」
について考えてみましょう。

読書感想文の書くために、何を読もう‥‥、というとき、
「とりあえず、おもしろそうな本を読んでみよう」
こう考える人は、多いかもしれません。
「おもしろい本を読んで、ドキドキワクワクしたことを、読書感想文に書こう」
と。
しかしこれは安易な考え、いやむしろ大いなる過ちというものでありまして、たとえば、その考え方にもとづいて、
・ハリポタ
・直木賞受賞作
・話題の恋愛小説
・最近のベストセラー
などを読んで、感想文が書けるか。
読んでる間はドキドキワクワクして、読み終わって、あーおもしろかった、さて読書感想文は‥‥、
「僕は、この本を読んで、ドキドキワクワクしました。」
以上、おしまい、です。
これ以上のことは、なかなか書けるものではありません。
それは、あなたに国語の才能がないから、なのではありません。国語の才能がある人も、それどころかプロの文章家だって、こうした小説を読んで読書感想文を書くことは、難しいのです。
それは当然なのでして、なぜならば、そもそも読書感想文とは、
「おもしろい本を読んで、ドキドキワクワクしたことを書くものではない」
からです。
その本来の目的が、最初の最初の第一歩が間違っているというのに、そこから読書感想文を仕立て上げようとするから、苦労することになるのです。

ここで、
「えっ、読書感想文って、おもしろい本を読んで、ドキドキワクワクしたことを書くものじゃないの!?」
と思ったあなた、
「読書感想文、3つの鉄則」
を思い出してください。
(鉄則1)あらすじを書かない
(鉄則2)登場人物の気持ちを考えない
(鉄則3)正しいテーマを探さない
すわなち、
「話と関係ないことを書く」
「自分の気持ちと考えだけを書く」
「自分で勝手にテーマをつくる」
ようするに読書感想文とは、読書を足がかりにして自分のことを書く、という作文なのです(本を読んでどんなにドキドキワクワクしようと、どんなに感動しようと、それは読書感想文とは、まったく関係ないのです)。

そうなると、読書感想文を書くために、どんな本を選べばいいか、おのずと明らかになりますね。
つまり、
「自分のことを書くための足がかりとしてちょうどいい本」
がふさわしい、ということになります。
上に挙げた、
・ハリポタ
・直木賞受賞作
・話題の恋愛小説
・最近のベストセラー
といった作品では、自分の生き方、自分の身の回りのこととはあまりにもかけ離れているがゆえに、その作品を通して自分のことを書く、ということが難しくなるのです。
(もちろん、ふだんの生活の中で、悪の魔法使いと魔法対決を繰り広げているようなかたは、たとえばハリポタを読んで、「ハリーはこのような戦略をとっているが、私であればこのような魔法を使い、このように戦いたいと思います」という感想文を書けばいいと思います。)

さて、それではその、
「自分のことを書くための足がかりとしてちょうどいい本」
とは、どんな本か。
人によってその基準はいろいろあるかもしれませんが、いちばんシンプルなのは、
「自分の日常に近い本」
でしょう。
自分の、この平凡な、ドキドキワクワクのない、ふつうの、ひと夏で大きく成長しちゃったりしない、いつもの日常。
そうしたものが描かれている小説を選べばいいのです。

「えっ、でも、そんな本で、どうやって読書感想文を書くの?」
と思うかたがいるでしょうから、ここにフォーマットを示しておきましょう。
(1)まず、自分の日常を書き連ねる。
最初に、夏休みの日記を素直に書いてみます。たとえば‥‥、
 「夏休みに入ってから、2週間が経った。去年と同じような、平々凡々な日常だ。朝は○時に起きて、○○して、○○して、○○して‥‥。先日は友達の○○君と○○に行って、○○だった。昨日は山形のいとこが遊びに来て、○○して‥‥。」
といったことを、原稿用紙1枚くらい書きます。
そうして、おもむろに、
 「そんな繰り返される日常に、僕はいささか倦んでいた。夏休みというこの何もない日々は、僕にとっては退屈以外の何ものでもなかった。
 だが、そんなある日、僕は、この本に出会った。」
と、一冊の本を示して、次が、
(2)本の内容を書き連ねる。
 「この本は、○○の日常を描いた作品だ。○○が○○して、○○が○○する。ときどき○○が○○して‥‥。」
と、やっぱり原稿用紙1枚くらい、内容を具体的に紹介します。
ここまでが、起承転結の起と承です。
皆さん、本を読んだら、がんばってここまで書いてください。ここまでくれば、後は簡単です。(1)と(2)に続けて、次のようなことを書けばいい。
(3)まとめ
 「ところで、こんな平々凡々たる日常を書き連ねたこの作品を読んでいて、僕はふと思った。作品で描かれている日常は、僕が送っているこの日常、退屈で仕方がないこの夏休みの日々と、大して変わりがないのではないか、と。いや、僕の日常そのままだと言ってもいい。
 しかし、どうしたわけだろう。作中で起こる日々のありふれた出来事ひとつひとつの、なんと輝いていることか。冒険もなければ危険な恋もない、スリルもサスペンスもない、ごくふつうの日常。なのに、その日常が、細部にわたるまで、たとえようもなく尊いものに思えてならないのだ。
 なぜか。
 もしかしたら、それは、作者自身が、そうやって日々の暮らしをいとおしみ、いつくしんでいるからではないだろうか。何気ない日常のひとコマひとコマ、一瞬一瞬を、決しておろそかにせず、大事にしているからではないか。
 作者が描き出すのは、ごく当たり前の日常だ。ハリー・ポッターやミステリや恋愛小説に比べて、本書は何らおもしろみのない小説かもしれない。でも、この一冊を通じて作者は、その当たり前の日常の大切さ、作りごとではない、誰もが自分のものとして生きているこの暮らしのかけがえのなさを、さりげなく示しているのかもしれない‥‥。
 そんな思いを抱きながら、作品を読み終えて本を閉じたとき、僕はふと、一気に視界が明るくなったように感じた。そうだ、日常は、退屈なんかではない。一日一日、一瞬一瞬のそのすべてが、まさに一期一会、二度と繰り返されることのない大切なものなのだ、と。
 夏休みはまだ2週間ある。いや、その先も、僕の日常はずっとずっと続いていく。その日常の一瞬一瞬を、大切にして生きていこう。今、僕はそう決意した。」
さあ、どうでしょうか。
何やらちゃんとした読書感想文っぽくまとまりましたね。
この(3)だけで、原稿用紙2枚分あります。
(1)で1枚、(2)で1枚ですから、原稿用紙4枚なんて、あっという間。
原稿用紙3枚以上、という規定であれば、(1)と(2)を適当に短くすればいいでしょう。
これにて、読書感想文終了!です。

しかしここで、
「ホントにこんな日常のことばっか書いてある小説なんてあるの? 具体的には、何て作品なの?」
という人がいるかもしれません。
「肝心の本が実在しなければ、絵に描いた餅じゃないかよ」
と。

ご安心ください。
そんな日常ばっかり書いてある作品は、ちゃんとあります。
いろいろあるでしょうが、代表的な作家をひとり挙げれば、庄野潤三。
昨年、惜しくも亡くなっちゃいましたが、1921年生まれの、いわゆる「第三の新人」のひとり。遠藤周作や吉行淳之介、島尾敏雄なんかと同じ世代の作家です。
もともと身の回りのことを題材にした作品ばかりの作家なんですが、晩年の「山の上」シリーズが、中でもスゴイ。小田急線向ヶ丘遊園駅が最寄り駅の丘の上の自宅を舞台に、子供たちが巣立った後の老夫婦ふたりの日常を淡々とつづったシリーズです。
これが、もうホントに日常。
近くに住んでる長男や次男、孫たちがたずねてきて、庭にシジュウカラが来て、庭にバラが咲いて、これは兄の英二が引っ越しのときにくれたものの生き残り、だなんてことが出てくるたびに説明されてて、毎日散歩に行って、毎年宝塚見に行って、人が来れば奥さんがまぜ寿司をつくって、近所の山田さんにスズムシもらって、清水さんからは料理のおすそ分け、夜はハーモニカ吹いて、奥さんが歌を歌って、そうして、何かいいことがあるたびに、「うれしい」、「たのしい」、「ありがとう」。と、ひたすら、その繰り返し。そしてその繰り返しが、読むものに喜びを与えてくれるのです。ああ、もう、至芸。
まさに、
「日本文学界のサザエさん」
です。
『貝がらと海の音』にはじまって、『ピアノの音』『せきれい』『庭のつるばら』‥‥、と何冊もあって、出てくる人たちがだんだん年をとっていく以外はどの作品でもほとんど同じことをしているから、
「えーと、これ読んだんだっけ、読んでないんだっけ」
と、いつもよくわからなくなってしまうんですが、そういうところもまたステキ。
ということで、この庄野潤三の「山の上」ものならば、
「自分の日常に近い本」
として、読書感想文にぴったりです。
何作もありますから、1回書いてしまえば、あとはタイトルだけすげかえて毎年同じ読書感想文を使い回せる(かもしれない)という利点もあります。

この庄野潤三以外にも、日常小説としては、尾崎一雄をはじめとする私小説系の作品(ただし、貧乏すぎたり痴情がもつれすぎたりして、わりと非日常なものが多い)、庄野潤三の友人の小沼丹(日本文学界随一の萌えキャラ、おぬまタンです)、あるいは最近の人なら、
椰月美智子『しずかな日々』
丹下健太『マイルド生活スーパーライト』
長嶋有『ねたあとに』
などがありますので、読書感想文に困ってる人は、ぜひ挑戦してみましょう。

(もっとも、実際に庄野潤三でこんな読書感想文書いてる中学生とかいたら、渋すぎてイヤだけど‥‥。)


posted by 清太郎 at 15:28| Comment(10) | TrackBack(1) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『マイルド生活スーパーライト』が出てきてたのが嬉しい。
「(2)本の内容を書き連ねる」のところで間違って『ペログリ日記』や『ソドム百二十日』を要約してしまわないように注意ですね。そんなもの間違う人はいない!
Posted by 千野 帽子 at 2010年07月20日 21:33
ボクの母校の高校では、図書委員主催で「読書マラソン」をやってます(ボクらの代が始めたものです! いまでも続いてるのが嬉しいです!)。
図書館の本を読んで、感想を小さなカードに数行程度で書いて、そのカードの枚数を競う…と言うものなのですが、
先日母校に行ったら、
「ライトノベルを読んで、そのあらすじだけ書いて出す人が多くて困る」
と司書の先生が仰ってました。
ボクなら、ラノベであっても原稿用紙10枚ぐらい感想文が書けるのに…!

ところで、今年の夏の推薦図書がイヤに面白そうに感じたのですが、清太郎さんはどう思いますか。
Posted by 黄黒真直 at 2010年07月20日 23:02
まず、日常生活を
・ハリポタ
・直木賞受賞作
・話題の恋愛小説
・最近のベストセラー
に近づけるように努力したいものです。
それだけでも、夏休みが足りないくらいでしょう。
で、その上で、
(3)まとめ
 「ところで、こんな平々凡々たる日常を書き連ねたこの作品を読んでいて、僕はふと思った。作品で描かれている日常は、僕が送っているこの日常、退屈で仕方がないこの夏休みの日々と、大して変わりがないのではないか、と。いや、僕の日常そのままだと言ってもいい。」
と続ければ、先生もぶっ飛んでくれるのではないでしょうか。
Posted by すずめの巣 at 2010年07月21日 08:33
chinoboxさん。
『マイルド生活スーパーライト』、あのダメさ加減が、なんともいい感じです。ラストもいい。
『ソドム百二十日』はともかく、『ペログリ』のほうは、わりとありそう。先生はビビるかもしれないけど‥‥。

黄黒さん。
おー、なんか伝説の先輩になってるかも。
課題図書、ちゃんとはチェックしてないけど『インパラの朝』はふつうにおもしろそう。図書館に入ったら借りるつもり。『ハサウェイ・ジョウンズの恋』も、物語としておもしろそうだけど、これで読書感想文書けるの?と思わないでもないです。

すずめの巣さん。
それはたぶん、「ぶっ飛んだ私小説を書くために、自分の私生活をぶっ飛んだものにすればいい」と考えた車谷長吉と同じ発想だと思います。読書感想文のために自分の人生を改革する、なんともすばらしいではないですか。まさに「この本が僕の人生を変えた」。推奨です。
Posted by 清太郎 at 2010年07月21日 22:12
はじめまして。
読書感想文の書き方を調べていたら
偶然このブログを見つけました。

この記事を参考に
頑張って読書感想文書こうと思います。
ありがとうございました♪
Posted by レミ at 2010年07月28日 14:27
レミさん。
おお、役に立ちましたか。読書感想文なんててきとうにさっさと片付けて、夏休みを楽しんでください。
Posted by 清太郎 at 2010年07月29日 23:07
↑上の清太郎さんのコメいいですね。

私は、公序良俗(合ってますか)に反しないならどんな本でも良いと思います。現代はどんな出題がされているか分かりませんが、いわゆる「本を読んで感想を書け」と突き放すような出題であれば本嫌いになりますよね。そして家族に代筆してもらったり、コピペ・盗作したり。
どんな本であっても、どうやって感想文を組み立てるのかを、しっかりと指導・助言しないと意味がなくなってしまう気がします。
読書嫌いにさせる読書感想文だったら、やらない方がいいよなぁと。今の読書感想文は昔と違うのですかね。
Posted by 通りすがり at 2010年11月08日 15:30
はじめまして。
夏休みの課題で出た読書感想文で困っていた中学生です←

とても分かりやすかったです!!
国語能力の低い私にはとっても助かりました(*´ω`*)(

本当にありがとうごまいました!
Posted by ぼのぼの. at 2011年07月31日 20:30
はじめまして^^
冬休みで読書感想文の課題でて
悩んでたところ
このサイトみつけたので
ほぼ盗作なみに参考にさせて頂きます笑
助かりました^^
感謝ですっ!!
Posted by ぱむ at 2012年01月05日 00:05
ぱむさん。
冬休みまで読書感想文の宿題なんて、イヤですねー。こんなつまらないことで、本を嫌いにならないでねー。
Posted by 清太郎 at 2012年01月15日 10:15
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Tracked: 2010-08-29 08:16
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