2009年02月02日

[本]ノック人とツルの森(アクセル・ブラウンズ)

久しぶりに本の紹介をします。



「ノック人とツルの森」
といわれても何やら意味不明で、あ、そうか、これはあれですか、
「カミロイ人の行政組織と慣習」(R・A・ラファティ)
のようなSFですか、ノック人というのはどこかの星の人ですか、そうですか、と一瞬思うのだけど、読み始めると全然そんなことはなくて、むしろけっこうハードでシビアな物語です。

どのようにハードでシビアなのかというと、主人公は物語の始まる時点で小学校に上がる直前の女の子アディーナ・アーデルングなんだけど、そのお母さんが、いわゆるところの、
「ゴミ女」
なんですね。アディーナのおうち「アーデルング・ハウス」は、お母さんが毎日ひたすら集め続けてるゴミが詰め込まれて、満足に移動もできないような、そんなゴミ屋敷なのです。
ところが、お母さんはなかなか巧妙で、家の外や庭はとってもきれいにしてるわけ。ただ、中を見られたらゴミ屋敷であることがばれちゃうから、娘のアディーナとその弟ボルコには、家の扉をノックする人(これが「ノック人」です)は邪悪な存在だ、と教え込む。ノック人を信用しちゃいけないし、うちのことをしゃべっちゃダメ、そんなことをしたら、お前達はママと引き離されてしまうわよ‥‥。

ということで、そんなゴミ屋敷出身のアディーナが、それでもノック人たちの小学校に入学して、アーデルング・ハウスと違って変なにおいがするなー、などと思いつつ用心深く友達もつくらず、ノック人の世界の中でひとり孤立したまま、学校生活を送っていく。
そんなある日、アディーナは、ふとしたことから迷い込んだ自然保護区の森(ツルの繁殖地で、ここが「ツルの森」ね)で、管理員の女性エアラと知り合います。彼女はノック人だけど、ほかのノック人と違う、ツル人だ‥‥、といつしかアディーナは、エアラに信頼を寄せていく。
そして‥‥。

ということで、この作品はいわゆるヤングアダルトなので、結末までの展開は、まあ予想通り。終盤、「えっ!」ということはありますが、「ええええーっっっ!!!」というほどのことは起こらない(たとえば、ゴミ屋敷の密室で殺人事件が起きて、アディーナがちびっ子探偵となって推理して、犯人は、ま、まさか、あの人が!!!ということにはならない)ので、安心して読めます。

‥‥と、これだけの説明だと、まあ設定はユニークだけど、ありがちな少女成長物語なのね、ということになるわけですが、いや、実は、隠し球があるのです。
著者アクセル・ブラウンズは自閉症者。(「鮮やかな影とコウモリ」という自伝もあります。)
この物語、ゴミ屋敷が舞台であるだけに、全編ゴミいっぱいで、食べたのを戻したのとか、泥とか、おしっこ(アディーナのおしっこは、物語の大切な要素です)とか頻繁に出てきます。でも、印象として受けるのは、硬質な清潔感。アディーナが使う「軽石級」「キツネ級」といった物事の格付け表現やアーデルング・ハウス内の「なんてきれいなの」「とても捨てられないわ」といったゴミの呼び方(ゴミ屋敷の中で育ちながら、アディーナは学校に入るまで、「ゴミ」というものが何なのか知らないのだ)とあいまって、見慣れた日常から微妙に遊離した、どこか不思議な味わいを漂わせています。
自閉症者の見る世界と、その独特の豊かさが、こうした表現に影響しているのかしら、などと思って読むと、うーむ、ますます興奮。この表現を味わうためだけでも、読む価値ありです。

ところで、ひとつ不満がありまして、主人公のアディーネが、どうやらけっこうな美少女らしいのですよね。最初は同級生から「くさい」とか何とかいわれる不潔少女だったから油断してたのに。お母さんもゴミ女なんだけど、なんだか美人っぽい。
私としては、
「結局は、かわいかったからなのね」
という感じがしてやや興醒めなんですが、読者の嗜好によっては、
「び、びびび美少女が、こ、こ、こんなことを!!」
と興奮度が高まって、よいかもしれません。

【こんな人におすすめ】
せせらぎ党少女部のかた

【こんな人におすすめしません】
・かたづけられない女子(主人公よりもお母さんに同情しちゃうでしょう)


posted by 清太郎 at 21:51| Comment(6) | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
先日はお世話になりました。今回紹介されている本も、先日の話に出てきてましたね。

とはいえ、カテゴリーが「本ネタ」であることと、「せせらぎ党」とがどのような意味合いをもつものなのか、妙に深読みしてしそうな自分がいたりします(笑)。いや、面白そうなんで読もうと思ってますけどね。
Posted by 八方美人男 at 2009年02月03日 08:52
八方美人男さん。
こちらこそ! いろいろと小説を読みたくなりました。
「ノック人」、せっかくなので、ブログで紹介してみました。
カテゴリーは、ケアレスミスです。直しておきました。深読みしなくても大丈夫ですよ(^^;
Posted by 清太郎 at 2009年02月03日 11:05
ウチの近くに全国ネットのワイドショーに最近よく出る「ゴミ屋敷」があります。
残念ながら住んでいるのは美少女や美人のママではなくおばあさんとその妹なんですけどね。
家の中はまさにごみが「詰まって」いて、窓のあたりからまっすぐゴミの中をトンネルが掘られ、
その一番奥に妹が住んでいるそうです。。。
その家はワイドショーのレポーターが時々訪れますが、
それ以外の「ノック人」はいません。
家の外にまでゴミがあふれ、悪臭が鼻をつきます。
私がこの本を読んだらきっとあの家を想像してしまいますね。
Posted by TSUGUMI at 2009年02月05日 13:22
TSUGUMIさん。
そのゴミ屋敷って、どっちか一方がゴミ屋敷の中で一時消息不明になって、もう一方が探したら見つかったとか何とか、そんなことがワイドショーでとりあげられてませんでしたっけ。おお、有名人(?)がご近所さんなんですね(^^;
「ノック人とツルの森」は、同じゴミ屋敷が舞台ですが、紙面から臭気が立ち上るような感じではありませんよ。むしろ、ゴミとはいえ美しいくらい。
Posted by 清太郎 at 2009年02月05日 22:11
書店で見つけたので読みました。
この本で一番伝えたかったことは何ですか?という問いに、「四角通りが本当に四角い通りで、角を二回曲がるともといた通りに戻って来ること」と著者は本気で答えていたそうで。
これだけいろんなこと書いておきながらそこかい!とびっくりしました。
Posted by たま at 2009年03月01日 13:26
たまさん。
この「四角通りが本当に〜」の言葉、なのだけど、四角形なら、3回曲がらないと、もとの通りに戻らないよねえ。通りからはずれる最初のひと曲がりは勘定に入れないのかしら、あるいは何か深い意味があるのかしら、と思ってしまって、そのあたりの不思議さがまた味わい深い作品でした。うーむ。
Posted by 清太郎 at 2009年03月02日 11:17
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