2010年05月30日

使用済み国語の教科書

えー、更新をさぼっているうちに(最近こればっかだな)、世間ではiPadが発売されて盛り上がったりしてますね。
iPadで不思議なのは、これを使ってできることの一番目に、
「電子書籍」
があがってくること。うーむ、いくらiPadなら電子書籍読みやすいからって、今まで本読んでなかった人がいきなり電子書籍読むことはないでしょう。
京極夏彦の新刊が電子書籍で出たりはしてますが、とりあえず司馬遼太郎の主要作品が電子書籍で安く手軽に読めるようになるまでは、大した変化はないんじゃないかと思います。

ところで、このiPadの話題のひとつとして、教科書をこれで配信しちゃう、というのがありますね。電子教科書として、とってもいいツールである、と。
視覚に障害がある人なんかへのサポートは必要としても、実際、各教科の教科書がすべてiPad1台におさまるのなら、かなり便利になりそうです。当面は一部の高等教育の場だけなんでしょうけど、こうしたスレート型端末がどんどん普及すれば、紙の教科書はすべて一掃されて、小学生があんな大きなランドセルを背負わなくて済むようになるかもしれませんね。
同時にクラウド化もどんどん進むでしょうから、わざわざ端末を持ち運びしなくても、学校では学校の、自宅では自宅の端末にログインすれば、すべてOK。手ぶらで登校しても、何の支障もないような日が来るかもしれません。

おお、なんと素晴らしいことではないか、iPadワンダホー、ITバンザイ!
と、手放しで喜んでいる人が世の中には多いようですが、しかし、本当にそれでいいのか。
電子化によって、便利になるのと引き換えに、われわれはもっと大切なものを失ってしまうのではないか。
いや、失うのではないか、ではない。失ってしまうのです!
われわれは断固として、この電子化の流れに、反旗を翻さねばならんのです!
というのが、今日のテーマです。

では、教科書の電子化によって失われるものとは何か。
まあ、ちょっと、聞きなさい。
iPad教科書で、誰もが喜ぶわけではありません。悲しい思いをする人も、いっぱいいるんです。
もちろん紙の教科書がなくなれば、ランドセル業者や教科書専門の印刷屋さんなどは、悲しむでしょう。でも、そういう話をしているのではありません。
ビジネスではなく心、感情、愛のレベルの問題なのです。

たとえば、教科書の電子化によって悲しむのは、4年2組のケンタくんです。
ケンタくんは、隣の席のユリコちゃんに片思いをしています。
従来の紙の教科書であれば、
「センセーイ、僕、教科書、忘れちゃいましたー」
「あら、ケンタさん、しかたがないわねえ、隣のユリコさんに見せてもらいなさい」
「ハーイ!」
と、隣の席ながらふだんはなかなか話しかけられないユリコちゃんと、一冊の教科書を分け合って、必要以上に密着して、なんかこういい匂いが漂ってきたりして、もうドキドキ。でもって、肩がちょっと触れ合っちゃったりなんかして、さらにさらに、ページをめくるときに偶然を装って、ちょこんと、指を、指を‥‥! ハアハア、もうオレ、今ここで死んでもいい‥‥。
ということができました。
しかし、紙ではなくスレート型端末であれば、そうはいきません。
「センセーイ、僕、教科書、忘れちゃいましたー」
「あら、ケンタさん、しかたがないわねえ、じゃあ学校の備品を使いなさい」
でおしまい。いや、上に述べたようにクラウド化が進めば、「教科書を忘れる」ということがあり得ないシステムにもなるでしょう。
ケンタくん、もうガッカリ。
教科書の電子化によって、ケンタくんは、せっかく隣になったユリコちゃんの肩にも指にも触れることのないまま、席替えになっちゃうのです!

そして、悲しむのは、こうして幼い恋を邪魔されたケンタくんをはじめ少年少女だけではありません。
すでに学校を卒業して久しい、われわれ大人も、大いに悲しむことになるのです。
だって、紙の教科書がなくなってしまうのですよ!
紙の教科書がなくなる、ってことは、算数/数学の教科書や理科、社会の教科書がなくなるだけではないのですよ。
そう、そうです。
国語の教科書、ぼくたちの国語の教科書も、なくなってしまうということなのです!

どうですか、ホラ、そう言われて、思わず青ざめた男子諸君も多いのではないか。
何しろ、国語の教科書なのです。
そこには、ぼくたちの、夢とロマンと愛が、詰まっているのです。
学校、というこの近代が生み出した不条理なシステムにおいて、ぼくたちはそれでも、そこに、人間的な夢を、ロマンを、そして愛を見出してきました。
学校の、どこにか。
そう。
すなわち、セーラー服、スクール水着、体操着、上履き、リコーダー、ピアニカの口にくわえるアレ‥‥。
ああ、なんという夢でしょう、ロマンでしょう、愛なのでしょう!
そして、ぼくたちは、セーラー服やスクール水着、リコーダーなどにおいて、清らかな女子小中学生、高校生の身体的なものの象徴を感じてきた一方で、彼女たちが使った使用済みの国語の教科書に、精神的なものの象徴を感じてきたのです。
たとえば裏表紙に書かれた名前は、粗野な男子とは異なる、繊細で几帳面な、女子ならでは筆跡で。
ちょうどいい塩梅に手垢で黒ずんでいるけれど、ページにあまり折れがないのは丁寧に扱われた証拠で。
何より、お手製のカバーがかけられていたりして。
でも、中を開くと、あちこちにかわいらしい落書きが。
正岡子規はアフロになっていて、芥川龍之介の鋭い目からはなぜか怪光線。
「走れメロス」には、ページの隅に、メロ×セリを二重線で消してその下に花丸囲みでセリ×メロ!!!と書いてあったりしたら、もう悶絶、卒倒。
女子小中学生、高校生の使用済み教科書をめくることで、ぼくたちはたとえようもない夢とロマンと愛を感じてきたのです。興奮と悦びと、そして安らぎを得てきたのです。

そしてそのすべては、紙の教科書であってこそ、なのです。
電子化されてしまっては、それらは決して味わえません!
あのめくるめく興奮が、悦びが、安らぎ、感動、味わいが、失われてしまうのです!
ああ、なんということ!!

と、こう言うと、
「まあ、教科書は、しかたがないよ、あきらめよう。教科書がなくっても、ぼくたちには、ほら、セーラー服が、体操着が、スクール水着があるじゃないか!」
とほざく男子がいるやもしれぬが、キミ、それは間違っとる!
教科書は、端緒にすぎないのです!
教科書の電子化を許せば、どうなるか。
それを皮切りに、学校内のあらゆるものが、次々と電子化されていくことでしょう。
黒板が、掲示板が、名札が、白線引きが‥‥、そしていずれは、紙の教科書が失われたように、布のスクール水着も失われ、
「電子スクール水着」
になってしまうのです!
それでもいいというのか、キミは!!
イカンだろう、ダメだろう、エッ、そうではないのか!?
電子スクール水着じゃ、どうにもならんだろう!
そうです!
電子スクール水着になってしまってから、泣き叫んでも、遅いのです!
そうなる前に、われわれは、先手をうたねばならんのです!
教科書という水際で、電子化を食い止めねばならんのです!
ぼくたちの大好きなスクール水着を電子化から守るために、いざ立ち上がれ! 教科書の電子化、断固反対!!



と、以上、このように、教科書の電子化に対して異を唱えている男子がいたら、それはスクール水着ファンだと思って間違いはないので、女子の皆さんは用心しましょう。


posted by 清太郎 at 20:56| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月05日

一箱古本市に行ってきた

5月2日の日曜日、「一箱古本市」に行ってきました。
一箱古本市っていのは、プロの古本屋さんやアマチュアの本好きが、それぞれみかん箱くらいの箱1つ分の古本を持ち寄る青空古本市です。
場所は谷根千(谷中・根津・千駄木)。根津神社のつつじ祭り期間中のこの時期と秋に毎年開催されているようです(これまで気になりつつも、なかなか縁がなかった)。
シキさんのお誘いで、すずめの巣さん(作務衣にサンダルで、すっかり地元民スタイル)と3人で連れ立って、5月の青空の下、古本「箱」めぐりを堪能してきたので、簡単にレポートします。

さて、11時半に千駄木駅で待ち合わせて、いざ出発。意外な人出で、千駄木から谷中にかけての商店街は、けっこうな賑わいです。多くは古本と関係ない下町観光の人なんでしょうけど、谷根千エリアって、いつの間にかこんなに人気スポットになってたのね。
で、とりあえずは駅近くの「コシヅカハム」へ。古本市に協力してくれるお店の店先なんかを借りて、数組の店主さんたちが「箱」を出しているのね。2日は10ヶ所に55箱が出品されていました(この日は2日目。1日目は4月29日でした)。コシヅカハムでは、10箱の店主さんがズラリ。
ここで異彩を放っていたのが、あの書評家の豊崎由美社長で、のっしと立ち上がってオススメ本講釈をしておられました。購入者には、「幸あれ〜」と豊崎社長から祝福の言葉。シキさんが買った文庫本には、おすすめのヒトコト栞に加えて、サインと金ぴかハンコが捺されてました。
私もさっそくお買い物。豊崎社長のところでは残念ながら「コレ!」という本は見つからなかったのですが、地味に見えてなかなかステキなセンスの「あり小屋」さんで買ったのが、
(1)獅子文六『娘と私』(新潮文庫)200円
(2)尾崎一雄『閑な老人』(中公文庫)200円
獅子文六のほうは、ちょっと前に評伝『獅子文六 二つの昭和』を読んで以来、気になっていた一冊。「娘」というのは、文六とフランス人の奥さんの間に生まれた子です。獅子文六、とても国際人なのです。奥さんは日本に来たものの、言葉も通じないし心を病んでフランスに戻っちゃうんだけどね。
尾崎一雄のほうは、パラパラめくると、「虫のいろいろ」みたいな虫関連の随筆が多いみたい。店主さん曰く、「尾崎一雄が売れるとは思わなかった」だそうですが、いや、意外に人気ですって。
最初だし、記念に写真撮影。皆さんこんな感じで「一箱」の本を出しています。

hako01.jpg

それともう一冊、「まぶしがり屋」さんで、
(3)ソール・ベロー『宙ぶらりんの男』(新潮文庫)10円
ソール・ベローは、古きよき時代のアメリカのビルドゥングスロマン『オーギー・マーチの冒険』が無類におもしろいノーベル賞作家。今の日本ではまったく読まれてませんが、将来の見えない不安な日常を生きるような作品を書いてます。『ハーツォグ』とかハヤカワNVで出てるのを持ってますが、新潮文庫でも出てたのね。陸軍に徴募したんだけど入隊まで7ヶ月待ちで、就職もできない、タイトルどおりの「宙ぶらりん」状態の話みたい。よくわかんないけどダメ男小説なんでしょうか。保存状態はよくないけど、10円ではなんだか申し訳ない作品です。

以上、いきなり3冊購入で、おお、なんだか幸先がいいぞう。
次は、8箱「古書ほうろう」。
ここでは、書評家の岡崎武志さんによる「岡崎武志堂」で、
(4)高野文子『棒がいっぽん』(マガジンハウス)400円
いつか古本屋で見つけたら買おう、と思ってた一冊です。ここで見つけたので買いました。
購入者はおみくじを引かせてもらえて、ジャジャーン、
「中吉」
でした。
「古本運は絶好調。ほしい本が向こうからやってくる」
だそうで、おお、ますますボルテージが上がります。

とはいえ、そこでしばらく停滞。続く花歩、アートスペース・ゲント、貸し原っぱ音地の3スポットでは空振りでした。
一冊、永沢光雄『声をなくして』というのを見つけて、永沢光雄ってもしかしてあの人? 名作『AV女優』の? 声をなくしてって、えっ、咽頭ガン!? そんなたいへんなことになってたの!? と気になったのですが、ハードカバー単行本で500円ではなあ、まあ図書館で借りようかなあ、と名残惜しくスルーしました。

ところで、このあたりでちょうどわれわれと歩調を合わせるかのように、
「痕跡本ツアー」
の一行と先々で遭遇。痕跡本っていうのは、ようするに、書き込みのある古本のようです。通常は嫌われる書き込みに、あえて価値と意味を見出すという、マニアックな趣向のよう。
それにしても、どんな書き込みが喜ばれるんでしょうか。やっぱり、
「不治の病で余命いくばくもない十代の美少女が書き込んだ、死を予感させるピュアな言葉」
などでしょうか。岩波文庫のカントやヘーゲルあたりで、
「おもしろいけど難しい‥‥。でも、これを理解するには、あたしの命が足りないわ‥‥」
といった書き込みがあると、痕跡本ファンは悶絶、鼻血なのか。いや、これだったら痕跡本ファンならずとも鼻血ですわな。ともあれ、気になるところです。

その後、藍と絹のギャラリー前で、SNS「やっぱり本を読む人々。」の一箱から、
(5)ジョー・ホールドマン『ヘミングウェイごっこ』(ハヤカワSF文庫)200円
を購入。ホールドマンは超ハード死闘戦争SF『終りなき戦い』の人ですね。『ヘミングウェイごっこ』というのは知らなかったんだけど、ヘミングウェイの贋作小説を書いていたら目の前にヘミングウェイその人が現れた、という話のようで、うーむ、気になる、と思わず手が出ました。

汗ばむくらいの陽気の中、「箱」めぐりはまだまだ続きます。途中で、金ぴか観音がそびえ立つ大円寺に立ち寄って(たまたま門前を通りがかったので)、三遊亭圓朝のお墓にお参りした後、特養ホーム谷中へ。
ここで、えーと、店主さんの名前忘れちゃったけど、ちっちゃい娘さんがいるお父さんによる「箱」の中に、あーっ、さっきの本がここにも!
(6)永沢光雄『声をなくして』(晶文社)250円
先ほどの半額で、しかも保存状態も上。置き場もないのに単行本で、ちょっと躊躇ったんですが、でも、これが、あれですよね、「ほしい本が向こうからやってくる」ということなんですよね。と、古本の神様(というか岡崎武志の)のお告げを信じました。

次に、TOKYOBIKE no OFFICE、Gallery Jin + classicoで、えーと、これも店主さん名を忘れちゃったけど、
(7)吉田健一『本当のような話』(中公文庫)200円
吉田健一のまだ読んでない小説で、しかも200円なら、買わざるをえないでしょう。ちなみに200円というのは、本についてる定価と同じです。おー、定価販売。
それともう一冊、
(8)子母澤寛『味覚極楽』(中公文庫)200円
ちょっと古めの食べ物エッセイが、このところわりと好きなので。『父子鷹』なんかの子母澤寛によるこの本は、パラパラ見ると、本人の随筆というより、有名人の聞き書きなのね。まだ読売新聞の記者だった若い頃に新聞の1コーナーとして連載したものに、30年後、一編一編に注のようなおまけエッセイをつけて一冊にまとめた、という本のようです。最初の連載は昭和2年で、「有名人」として小笠原長幹をはじめ伯爵、子爵がごろごろ。その中に、「印度志士ボース氏の話」なんてのも。中村屋のラース・ビハリ・ボースですね。わー。
ちなみに、ボースによると、「カレーをこしらえる上で一番大切なのは、カレー粉より何により、バタのいいのを選ぶことです」だそうです。

最後に往来堂書店へ回って、おしまい。本日の収獲は、以上の8冊でした。
もう2時を回っていましたが、近くの中華屋さんで祝杯。ビールプハーッ!
記念に、収獲写真をパチリ。左側は、すずめの巣さんの獲物です。

hako02.jpg

中華屋では、ビール(中ジョッキ350円の嬉しい下町価格!)をうぐうぐしつつ、本日の収獲についての語り合いは早々に終えて、
・天津丼はなぜ天津丼なのか。中華丼はなぜ中華丼なのか。なぜ日本丼やフランス丼がないのか。
・「伊」の字には何か意味があるのか。なぜ井伊直弼の「井伊」は「伊井」じゃないのか、伊は井より弱いのか。となると、たとえば藤、伊、井の三者の間には、井>伊>藤>井‥‥、というじゃんけんのような関係があるのか。
・将棋キャバクラというのもいいんではないか。キャバ嬢みんな将棋ができて、でも店内には将棋盤はなくて、「4六歩」「きゃー、お客さん、それ、ありえなくなーい!? じゃあー、あたしー、同銀」などという会話を楽しむの。
などといった論点について真剣に討議し、ゴールデンウィークらしい有意義な時間を過ごしました。シキさん、すずめの巣さん、おつかれさま。いずれはぜひ、出品者側で参加しましょう!


posted by 清太郎 at 09:51| Comment(7) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月01日

ノンフィクション万博を開こう

6月のワールドカップ開催を前に、新宿の紀伊國屋書店では、先月から「ワールド文学カップ」が開催されてます(5月17日まで)。
紀伊國屋新宿本店スタッフ有志による「ピクウィック・クラブ」の企画で、ワールドカップを模して、ブロックA(ヨーロッパ) 、ブロックB(中東・アフリカ) 、ブロックC(アジア・オセアニア) 、ブロックD(アメリカ)に分けて文学作品をおすすめしちゃおう、というフェア。シンプルだけど、興奮しますよね、こういうの。やっぱり書店員さんって、ホントに本が大好きなんだなあ、という基本を思い出させてくれるステキ企画です。
と、書評系ブログをはじめあちこちで絶賛されているわけですが、でも残念ながら、新宿ってあんまり用がないから、なかなか行けないのよねえ‥‥。見に行く前に終わってしまいそう‥‥。

ところで、これ、おもしろーい、と話題にしてばかりいないで、
「なーにがワールドカップだ、なーにが海外文学だ、うちはもっとスゴイもんねー」
と、似たようなフェアをやる本屋さんはないものか。
出版業界って伝統的に、柳の下の二匹目、三匹目、n匹目のドジョウが大好きな体質のはずなんですが、こと本屋さんに限っては、高いプライドがあるのか、そういう二番煎じ企画って、あんまり聞かないです。

ということで、例のごとく、本屋さんがやらないのなら、うちでやろうではありませんか。
ワールドカップと海外文学ではそのまんますぎてつまんないから、ジャンルをずらして、でもって、そういえば今日から上海万博が開催してるし、
「ノンフィクション万博」
ではどうでしょうか。(なんだか語感が古臭い気がするのは、万博ってコトバがレトロだからだと思います。)
世界各国を代表するノンフィクションやルポタージュをドーン!と集めて‥‥、というと、しかし考えてみると、日本はともかく、海外でその国の人が書いたノンフィクションって、どれだけ知ってるのか‥‥?
‥‥。
いきなり挫折‥‥。
という気がするので、その国の人が書いたんじゃなくて、その国のことを書いた、あるいはその国を舞台としたノンフィクション、ルポ、ということにしましょう。それだと旅行記ばかりになっちゃいそうだから、ふつうの旅行記っぽいのは極力避ける、ということにして。
1国1冊、ドカンと集めて、計200冊くらい。
よーし、これだけあれば、ワールド文学カップなんて、目じゃないぞー。
では早速、ノンフィクション万博の開幕〜。パンパカパーン!

えーと、まずは日本から1冊。
これについては皆さんいろいろご意見と、そしてとっておきの一冊をおもちでしょうが、主催者の権限により、勝手に決めさせていただきます。
日本の一冊は、もうこれはたまらぬ偏愛ステキルポ、
足立倫行『日本海のイカ』


日本海のイカ (新潮文庫)

日本海のイカ (新潮文庫)

  • 作者: 足立 倫行
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1991/10
  • メディア: 文庫




これでいきます。
日本海側の漁港をめぐって、イカ釣り船に同乗させてもらって、イカ漁師さんや港の皆さんから話を聞いて、一緒に酒飲んで‥‥、ただそれだけの地味〜な感じのルポのはずなのに、漁業の今と日本の社会への眺望がパーッと開けて、ふつうに生活する元気が出てくる。ルポタージュの基本の基本だと思います。

200冊もあると、1冊あたりそんなに熱く語っている余裕がありませんから、ササッと次にいきますよー。
次は、お隣の韓国。
超マイナーな一冊ですが、18世紀に書かれた漂流記、張漢普w漂海録』(新幹社、1990)はどうでしょうか。
済州島から中央へ、科挙に行こうとして遭難して漂流しちゃうんだけど、その著者がもうメチャ高飛車。書物で得た知識を滔々と並べ立てて現場の船乗りさんを指揮してしまったりして、そ、そんなんでいいんですか‥‥!?

その隣、北朝鮮は、のなかあき子『北朝鮮行ってみたらこうなった』とか、爆笑系旅行記がいろいろありそうだけど、まあふつうの旅行記だからなあ、うーん、パス。
で、中国。
中国もこれまたネタに尽きないから、最近の経済や政治を批判するものからシルクロードや雲南省への正しい探検ものまで各ジャンル満遍なく揃っていますが、ここではあえて、
さくら剛『三国志男』


三国志男 (SANCTUARYBOOKS)

三国志男 (SANCTUARYBOOKS)

  • 作者: さくら 剛
  • 出版社/メーカー: サンクチュアリパプリッシング
  • 発売日: 2008/05/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




コーエーの歴史ゲーム「三国志」を愛するあまり、中国語もできないのに三国志遺跡めぐりの無謀な旅に出てしまうルポで、まずはもうタイトルのインパクトがステキすぎ。内容も、たとえば夏侯淵の墓に行こうとバイクタクシーに乗ったら市民霊園に連れて行かれちゃって
「このドアホがっっ!! 市民霊園に夏侯淵の墓があるわけねーだろうがっっ!!! やっぱり適当に答えてやがったなテメー恥を知れコラッッ!!!」
なんて、こんなのばっか。

次。
そのお隣のインド。
インドといえば、まずはこれでしょう、ラピエール&コリンズ『今夜、自由を』
大英帝国最後のインド総督として、植民地支配のしんがり役を果敢に務めるマウントバッテン総督を中軸に、インド解放の希望の星ガンディー、実質的な独立運動指導者ネルー、パキスタン独立をもくろむジンナー、さらに各地の藩主たちが、それぞれ思惑を胸に、絡み合い、もつれ合っての大乱戦。独立の日へと一気呵成に突入して、さらにその果てに‥‥! という、いかにもノンフィクションらしい正統派直球ノンフィクション。これを絶版にしている早川書房を、インド政府は公式に非難すべきです。

次は南へちょっと飛んで、シンガポール。
E・J・H・コーナー『思い出の昭南博物館―占領下シンガポールと徳川侯』
著者は当時英領だったシンガポールで博物館の職員だった人。そこに日本軍が攻めてきて、あっけなくシンガポール陥落。占領されちゃった! どころか、自分も捕虜になっちゃった! うわー、博物館の貴重な資料が、野蛮な兵隊どもに蹂躙されちゃう! と思ったら‥‥、意外に日本にも話のわかる、科学の価値のわかる人たちがいて‥‥。
ということで、著者ら英国の学者と日本人の学者が協力して、戦時下の博物館を守り通すという、まあちょっとありがちな戦時下のいい話かもしんないけど、この手の「人の命より、大事なものがあるんだ!」的な科学者の奮闘、嫌いじゃないです。

次は、海を渡って、インドネシア。ジャワ島を舞台にした、
多胡吉郎『リリー、モーツァルトを弾いて下さい』


リリー、モーツァルトを弾いて下さい

リリー、モーツァルトを弾いて下さい

  • 作者: 多胡 吉郎
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2006/12/02
  • メディア: 単行本




ピアニストとして今でもわりと人気のリリー・クラウスは、開戦に巻き込まれてジャワ島で日本軍によって抑留されてたのね。その3年にわたる抑留生活を描いたのが本書。
強制労働に従事させられたりもするけど、でも同じく抑留されてる人たちをピアノによって慰めたり、さらには日本人ともピアノを通じた真実の交流があって‥‥。という、まあこれも反戦派のリアリストからすれば甘っちょろい内容かもしんないけど、それでも、物資もない、精神的に余裕もない、ピアノも粗末なアップライトで、しかしそこで奏でられたモーツァルトは、何よりも尊く‥‥。うーむ、たまらぬ一冊です。

海を越えて、さらに南へ。次はオーストラリアです。
アラン・ムーアヘッド『恐るべき空白』


恐るべき空白 (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)

恐るべき空白 (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)

  • 作者: アラン ムーアヘッド
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/04/21
  • メディア: 単行本




こちらは打って変わって、硬派骨太、これぞ漢(おとこ)のノンフィクション。前人未到のオーストラリア内陸部への無謀な探検に乗り出し、初めての大陸縦断を成し遂げるも、過酷な自然の前に、次々と命を落としていった男たちの壮絶な記録。小説を超えるすさまじい現実と豪腕ムーアヘッドの炎の筆力、その超弩級強烈タッグに、読者全員失禁です。

北半球に戻って、大きなところで、ロシア。
ロシア、というかソ連なんだけど、
武田百合子『犬が星見た』


犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫)

犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫)

  • 作者: 武田 百合子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1982/01
  • メディア: 文庫




オットの泰淳、竹内好と一緒に参加したソ連ツアーの顛末記で、ふつうの人が書けばただの旅行記なんだけど、武田百合子の目と頭脳というブラックボックスを通して出力されると、これがもう、ああ、ホントに‥‥。何気ない風景、ごくふつうの日常が、珠玉のきらめきを放ちます。

次は、ウクライナ。ちょっとハードに、
メアリー・マイシオ『チェルノブイリの森―事故後20年の自然誌』


チェルノブイリの森―事故後20年の自然誌

チェルノブイリの森―事故後20年の自然誌

  • 作者: メアリー マイシオ
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 単行本




史上最悪の原子力発電所事故の後、チェルノブイリにはぺんぺん草も生えないかと思ってたら、ぜんぜんそんなことなくて、むしろ人間の立ち入りが禁止されている分、広大な森が生まれ、希少種の動物たちが集まる野生の王国になっていた! もちろん、それらは高濃度に汚染されているけれど‥‥。
汚染された地域を実際にその足で歩いてきた著者は、自然を主人公とした本書によって、チェルノブイリ事故とその後に対する俯瞰的な視点を与えてくれます。

さらにヨーロッパ方面へ。東欧。アルバニアあたりかな?
イザベル・フォンセーカ『立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし』


立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし

立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし

  • 作者: イザベル フォンセーカ
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 1998/11
  • メディア: 単行本




実際にロマ(ジプシー)たちと暮らしをともにした著者が、現代のロマの実態とその被差別の歴史を克明に描く。今でもヨーロッパの中で異邦人であり続ける彼らの生き方や感性には、それなりの論理と哲学があるんだ、とわかって、目からウロコ。でも、何よりも、このかっこいいタイトルにガツンとやられます。たまらん。
ちなみに、イラクにおけるジプシーについては、上原善広『被差別の食卓』で、目からウロコ。

そしてヨーロッパ中央部へ。まずはドイツ。
ボルフガング・シュトラール『アドルフ・ヒトラーの一族』


アドルフ・ヒトラーの一族―独裁者の隠された血筋

アドルフ・ヒトラーの一族―独裁者の隠された血筋

  • 作者: ヴォルフガング シュトラール
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本




ヒトラーって、あんな権力者になったにもかかわらず、自分の一族を要職につけたりとかしなかった。それは、自らの出生や家族について、あんまり知られたくなかったからなのかも。だって、もしかしたら、両親は近親相姦(おじと姪)の関係だったかもしれないのだから‥‥。ということで、知られざるヒトラーの親族について、その祖父母の代から一人ひとり丹念に跡付けていく。
って、あ、これ、前にも紹介したことあったっけ(⇒こちら)。

前にも紹介したことあるつながりで、次のイタリアでは、これ。
八木虎造『イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました』


イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました

イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました

  • 作者: 八木 虎造
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




なんだか知らないけど草野球で遊んでたつもりが、えっ、何これ、プロ野球だったの‥‥、という、のんびりした話。チームのオーナーの娘で日本アニメオタクのバレリアちゃんに萌えます。(⇒詳しくはこちら

地続きでフランス。フランスもののノンフィクションといえば、やっぱりこれでしょう。
またしてもラピエール&コリンズで申し訳ないが、このコンビの作品はすさまじくおもしろいのだからしかたがない。
『パリは燃えているか?』


パリは燃えているか?(上) (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)

パリは燃えているか?(上) (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)

  • 作者: ラリー・コリンズ&ドミニク・ラピエール著
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/03/29
  • メディア: 単行本




第二次大戦末期、苦境に立たされたヒトラーは、「もう悔しいからパリを焦土してから退却する!」と目論むのね。街中に仕掛けられた爆弾。歴史的建造物はまさに風前の灯。どうなる!? どうする!?
だが、最前線で指揮を執っていたパリ占領司令官コルティッツは、ヒトラーの命令に背くことを決意、そしてレジスタンスやパリ市民は、さらにそのとき連合軍総司令官アイゼンハワーは‥‥!? ということで、パリ版・勝海舟と西郷隆盛の江戸無血開城といった趣もある、全編緊迫のノンフィクションです。

でもって、えーい、スペインもラピエール&コリンズだ。
『さもなくば喪服を』


さもなくば喪服を (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)

さもなくば喪服を (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)

  • 作者: ドミニク・ラピエール
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/06/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




どん底の貧困家庭に生まれて、若くして国民のヒーローとなった闘牛士マヌエル・ベニテス。その一世一代の闘牛シーンと、彼の生い立ちから現在までの足取りとを交互に描くという緊張感たっぷりの手法に引き込まれ、手に汗握りつつぐいぐいと読んでいくと、うわー、思いがけなくもスペインという国の真実に気づくことになる、という、‥‥いや、もう、読書のヨロコビ、そしてノンフィクションの愉悦が、ここにあります。

えーと、なんだか疲れてきたというか、そろそろ飽きてきたので(私も読者の皆さんも)、ヨーロッパはこのくらいにして、アフリカへ渡りましょう。
とりあえず、コンゴ。
コンゴといえば、あれですよね、やっぱり。
モケレ・ムベンベです。
幻の怪獣です。
ということで、幻の怪獣ムベンベ探索の旅の記録、
レドモンド・オハンロン『コンゴ・ジャーニー』
を紹介したいところだけど、未読なので、こっち。
高野秀行『幻獣ムベンベを追え』


幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/01/17
  • メディア: 文庫




早稲田大学探検部の連中による無謀な探検行。果たしてムベンベを見つけることができるのか? っていうか、それ以前に、ちゃんと現地までたどり着けるのか!? 本書に改題される前の『幻の怪獣・ムベンベを追え』を高校のときに読んで、早稲田探検部に少し憧れました。こんな体力がないので、あきらめましたが‥‥。
(ちなみに、いまだ現役の同著者による『ワセダ三畳青春記』は、コーヒー飲みながらとかでは絶対読んじゃいけない爆笑連続のオンボロアパート物語です。ここに出てくる大家のオバチャンは、一刻館の管理人さんよりも魅力的です。)

コンゴはそのくらいにして、次はタンザニア。
岩合日出子『アフリカポレポレ』


アフリカ ポレポレ―親と子のセレンゲティ・ライフ (新潮文庫)

アフリカ ポレポレ―親と子のセレンゲティ・ライフ (新潮文庫)

  • 作者: 岩合 日出子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 文庫




動物写真家・岩合光昭の奥さんが、娘の薫ちゃんを連れてのアフリカ暮らしをまとめた一冊。
ハイエナがヌーの子を引き倒したのを目撃した薫ちゃん、
「ママ、ヌーの子供は死んじゃったよ。私もおなかがすいた」
「食べられたヌーの子供が、かわいそうだと思わないの?」
「かわいそうだよ。ほんとうに、かわいそうだと思う。だから見ているの」
というシーンは、いつ読んでも胸が詰まる。

さて、えーと、次は‥‥。
と思ったのだけど、しかしいいかげん疲れてきたし、まあ、このくらいで、いっか。200国200冊どころか、20冊にも達してないうえに、アメリカ大陸にも渡れなかったんだけど‥‥。
続きはどこかの本屋さんで、がんばって企画してくれるといいなあ‥‥(丸投げ)。


posted by 清太郎 at 16:10| Comment(4) | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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