2010年04月17日

[本]るり姉(椰月美智子)

久しぶりの本の紹介でもします。
そういえば今年になって初めてです‥‥。



「るり姉」といっても、
《お姉さんじゃなくて、本当は叔母さん。お母さんの妹》
です。
《あたしがちいちゃい頃からいつだって、記憶のどこかに必ず登場する、大人と子供の中間のひと。》
るり姉は、あたしたちの書いたものや作ったものを大事にとっておいてくれるし、高校の入学祝いには図書カード三万円分くれるし、シーズーのアニーを見るたびに「悲しげアニー」と言うし、妹のみやこが中学生になったとたん髪を真っ赤にしたら「中学生っていうのは、ほんとばかだね」と言うし、いちご狩りセンターにはチューブのコンデンスミルクを持参して誰よりもたくさんいちごを食べるし、もう、大好き!
そのるり姉が、検査入院とかいって、でも別に心配なさそうだから病院でUNOしたりしたんだけど、なんかいつの間にか笑い事じゃなくなっていて、次にお見舞いに行ったらすっかり痩せて顔もひと回り小さくなってて、えっ、ちょっと、そんな、えっ!?

というのが、姪視点の第一章「さつき――夏」。
続く第二章は、さつきのお母さんでるり姉の姉、精神科の看護婦さんでいつもズボンのチャック全開でこの年にして隠れオタクのけい子視点。でも、第一章よりちょっと前の話「けい子――その春」。
第三章は、中学になっていきなりヤンキーになったけどけっこう素直でもう本当にるり姉のことが大好きな次女の視点で「みやこ――去年の冬」。第四章は、るり姉の新しいオットでカイカイと呼ばれてる開人の「開人――去年の秋」。
と、だんだん時間がさかのぼり、将来あんなことになるなんて思いもしないキラキラした日々が、もうせつないったらないの!
で、しかも最後の第五章は、20ページ余りの短い章で、はじめ小学生だった三女視点の「みのり――四年後 春」。えっ、なんでいきなり四年後なのよ!? でもって、わー、それはずるいよー、泣いちゃうじゃないのよー。

という、その展開と手法はありがちなんだけど、いやあ、このるり姉の造形が、いいんですわー。
なんだかキャラっぽくて、わざとらしい。という気もするけど、いや、でも、でも、ピュアな男子のハートをキュンキュンさせること間違いなし。
その魅力が爆発全開するのは、開人視点の第四章。なにしろ開人は合コンで年上のるり姉にビビッとひと目惚れ(《実際にビビッて音がした》)してるのだから、その描写の甘さたるや。
るりちゃんは、さびしいときは犬みたいにまとわりついてきて、でもふだんは猫みたいで、うれしいときは涙をぽろぽろ流して、「悲しみごっこ」を考案して(《「悲しみごっこ」というのは、二人で前後になって手をつなぎ、うなだれながら『昭和枯れすすき』などを口ずさみ、電気を消して廊下をとぼとぼ歩く、という遊び)》、結婚記念日の一泊旅行にはイラストまで描いた「しおり」をつくって、高速に乗ったら窓を全開にして外に向かって歌って、中学のときに音楽の授業でつくった曲をまだ覚えてて歌ってくれて、《るりちゃんの頭の中は、タイムマシンのように時間が自由自在だ。》
結婚前、《るりちゃんからメールが来ると、俺の気持ちはすうっと現実から少しだけ離れて、十五センチくらい宙に浮く気がした》というそのメールは宝物だからぜんぶ保存してあって、《読み返すと、不思議と小学五年生の自分と出会えた》。
メールの内容は、たとえば、
《――カマキリのお腹から細長い寄生虫が出てきたのを発見! 写メ送ります。
 バイクに踏まれたカマキリと、そいつの腹から飛び出た寄生虫。十連発の写メが来て、それを真剣に撮っているるりちゃんを想像しただけで、おかしくなった。》
でもって、るりちゃんは、《俺の大好きな》すけすけの黒ストッキングは穿いてくれなくて、パンティも《いっつも綿のダサいやつ》で、朝お弁当をつくってもらって出かけるとき、ぎゅうっと抱きしめると、《Tシャツはるりちゃんの寝汗の匂いがして、今すぐにベッドに戻りたい衝動に駆られるけど、ノーブラのるりちゃんへのいたずら心のほうが勝って、ちょいと手を出してみると、あと十センチというところで鋭い一撃がやってくる。るりちゃんは思いの外反射神経がいい。
「すんません、行ってきます……」》
という俺の毎日は幸せすぎて、いや、でも、
《――幸せじゃなくていいです。どうか、普通でいられますように。》
なんて開人が神妙に思ったりすると、次の夏には、あんなことになっちゃうのに! ああっ! もうっ! と読者としては何というか「志村、後ろ後ろ!」的な気分になっちゃったりするんだけど、そんなわけで開人の目を(そしてさつきやけい子やみやこの目を)通したるり姉の姿を見ていると、
「人生の伴侶とするなら、こんな女子がいいです。今まで僕は間違ってました。年下でかわいい系でおっぱいが大きくてちょっとエッチな感じの女子がいいと思ってましたが、必ずしもそうではないことがわかりました。るり姉みたいな女子だったら、年上でも、バツイチでも、おっぱいがちっちゃくても、いいです」
という草食系男子がいっぱい名乗り出てくるかもしれませんが、念のため、言っておきます。

こんな女子、いません!!


【こんな人におすすめ】
・理想の女子を探し求めている夢見る男子
・ガテン系のピュアな年下男子が好きな女子
・「ガンダムSEED DESTINY」のメイリンと「鋼の錬金術師」のホークアイ中尉のコスプレをする女子が出てくるような小説を読みたいかた


posted by 清太郎 at 09:15| Comment(3) | TrackBack(1) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月10日

岩波文庫を早光戦に乱入させる

行きつけの本屋さんでやってなかったので、3月下旬になるまで全然知らなかったんだけど、
「早光戦」
なんてのがあります。
早川書房と光文社の合同フェア、
「文庫・早光戦 五番勝負」です。
「二社の豊富なラインナップが五つのジャンルで対決! 幅広く、賑やかに、強烈に五番勝負を繰り広げます!
両者を読み比べることで、新たに見えてくる切り口……文庫の新しい楽しさ、面白さが生まれるはず。
さあ、新たな伝統の一戦が始まります!」
とのこと。

わー、なんだかおもしろそうではないですか。
そうそう、こういうのを読者(一部の)は求めてるのよ!
観戦してるだけでは、もったいない。ぜひとも参戦、乱入したい!
ということで、勝手ながら岩波文庫を乱入させてみることにしました。早光岩バトルロイヤルです。

早速、一番勝負から‥‥。

【一番勝負】
読めば惚れずにいられない!?
キャラクター対決

魅力的でキャラの立った作品が、一対一で真剣勝負。あの名探偵、名刑事、剣豪VS名ガンマンまで。軍配はどちらに上がるのか?

女性刑事・探偵対決
[ハヤカワ(以下、早)]探偵V・I・ウォーショースキー
[光文社(以下、光)]警部補 姫川玲子

「一番勝負」はいきなりミステリ戦で、岩波としてはかなり不利。岩波文庫のミステリっぽい作品って、シャーロック・ホームズ(本屋さんに並んでるの見たことない気がするけど)と、「江戸川乱歩短篇集」と、ボルヘス「伝奇集」の中のいくつかと、えーと‥‥。というくらい。
なのに、その最初が、「女性刑事・探偵対決」って、そりゃ無理でしょ。
ということで、とりあえずの代表は、ホフマン「スキュデリー嬢」(これも本屋さんで見たことないが)のタイトルになってるヒロイン、スキュデリー嬢。宝石強盗殺人で、被害者の弟子が犯人として捕まった事件で、その弟子は無実だ、と確信する女流詩人スキュデリー嬢が真相を探る‥‥、って話なんだけど、でも、このスキュデリー嬢、「嬢」とかいって、70過ぎ。老婆ファンには間違いなくオススメなんですが、探偵ウォーショースキーには惨敗です。
ちなみに、光文社古典新訳文庫からも「黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ」として出ています。

超人的記憶力対決
[早]パン屋の店員 チャーリイ
[光]陸軍二等兵 東堂太郎

ボルヘス「伝奇集」の1編、「記憶の人、フネス」のイレネオ・フネスは、あまりにも記憶力がよすぎて普遍的なプラトン的観念をもつことができない、「鏡に映った自分の顔や自分の手がつねに彼を驚かせた」というんだけど、なんか地味ですね。東堂二等兵に完敗です。

元祖名探偵対決
[早]灰色の脳細胞 エルキュール・ポワロ
[光]名探偵 明智小五郎
元祖名探偵といえば、やっぱりポーの「モルグ街の殺人」のオーギュスト・デュパンですよね。岩波文庫からもポオ『黒猫・モルグ街の殺人事件』が出ています。中野好夫訳。まあでも、探偵としての実力は、ポワロや明智君に及ばないかしら。数編にしか出てこないし。

人情派対決
[早]元祖ハードボイルド フィリップ・マーロウ
[光]捜査一課検視官 倉石義男
人情派で岩波文庫代表となると、これはもう、O・ヘンリの短編「改心」に出てくる探偵ベン・プライスに決まりでしょう。
かつて凄腕の金庫破りとして名を馳せたジミィと、彼を追うベン。愛に目覚めたジミィは、泥棒から足を洗おうと決めたが、金庫室に子供が閉じ込められて、「自分なら子供を救える、でもその瞬間、自分が金庫破りだとばれてしまう‥‥」という究極の選択。意を決して、子供を救ったジミィは、待っていたベンにおとなしく両手を差し出すが、ベンは、「何か誤解していらっしゃいませんか。あなたが誰だったか、記憶にありません」。
まあでも、勝負したら勝つのはマーロウかな。

私立探偵対決
[早]和製マーロウ 沢崎
[光]無頼探偵 野崎通
上に書いたように、岩波文庫でもシャーロック・ホームズが出てます。でも新潮よりも翻訳新しいくせに実物を見たことすらないし、不戦敗かしら。
とはいえ、ハヤカワの代表も光文社の代表も、どっちも知らない人です。すごい探偵なの?

ダーティヒーロー対決
[早]泥棒 ジョン・ドートマンダー
[光]外道の剣客 柴新九郎
ダーティーヒーローといったら、岩波にはいっぱいいそう。『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』のティル・オイレンシュピーゲルとか、『ハックルベリー・フィンの冒険』のハックとか、鼠小僧とか弁天小僧とか。しかしやっぱり、いろんな意味(とくに糞尿的な意味で)で「ダーティー」なヒーローといえば、ラブレー『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』のガルガンチュワ&パンタグリュエル父子がいちばんかしら。

悪女対決
[早]魅惑の女学生 メラニー
[光]謎の才色兼備 君島沙和子
えーと、これについては、サロメがいいとか「三銃士」のミレディがいいとか「高野聖」の女がいいとか数多の悪女ファンからさまざまな意見が提出されることでしょうが、ワタクシとしましては断然、ラクロ『危険な関係』のメルトゥイユ侯爵夫人をベスト悪女として推薦させていただきます。ハヤカワ・光文社の小物悪女なんてメじゃありません。

ハミ出し警察官対決
[早]一匹狼 リーバス警部
[光]新宿鮫 鮫島警部
うーむ、岩波文庫に出てくる警官キャラって誰がいたっけ、というあたりでそもそも思いつきません。泉鏡花『夜行巡査』の八田は私情よりも職務に殉じるハミ出さない警察官だし‥‥。

成長キャラ対決
[早]夏休みの小5三人組
[光]読者とともに成長 杉原爽香
成長といえば、やはり伝統あるドイツの王道ビルドゥングスロマンでしょう。ゲーテ『ヴィルヘルム・マイステルの徒弟時代』および『遍歴時代』とか、あるいはノヴァーリス『青い花』、ケラー『緑のハインリッヒ』、トーマス・マン『魔の山』‥‥。王道すぎて、なかなか読む気になれないのですが‥‥。

剣豪 vs. ガンマン対決
[早]保安官 ワイアット・アープ
[光]素浪人 月影兵庫
岩波文庫に出てきた剣豪、ガンマン? えーと、三銃士の皆さんは「剣豪」というのとはちょっと違うし、えーと、えーと、ええい、もうここは、剣豪本人に出てきてもらいましょう。宮本武蔵『五輪書』、あるいは柳生宗矩『兵法家伝書』。うーん、でも、なんだか微妙‥‥。

ということで、岩波文庫、鼻息荒く乱入したものの、10戦のうち、7敗。ぜんぜんダメでした。

二番勝負
可愛いだけじゃありません!
動物作品対決

事件の陰に動物あり!? ミステリからエッセイまで、両文庫の動物登場作品が対決。ネコ対ネコ、犬対犬のオーソドックスな対決から、「それってあり?」な対決まで。

猫探偵対決その1
[早]猫は殺しをかぎつける
[光]三毛猫ホームズの危険な火遊び
人間の探偵でさえ人材不足なのに、猫探偵だなんて! 何そのハンデ! 岩波に不利すぎる!(当たり前だけど)、と思ったのだけど、いや、考えてみれば、漱石の『吾輩は猫である』の猫なんて、いいかも。
だってホラ、あらためて考えてみると、この作品の冒頭、めちゃんこハードボイルド! 漱石風の戯作的言い回しを現代風に言い換えれば、
「俺は猫だ。いまだ名はない。」
なんだもんね。シビレル! 三毛猫ホームズなんて一蹴!
それにこの猫、あとで『「吾輩は猫である」殺人事件』(奥泉光)にも出てるし。

猫探偵対決その2
[早]猫探偵ジャック&クレオ
[光]猫は密室でジャンプする
ちょっと何、また猫探偵!? 『我輩は猫である』の猫に勝てなかったからって、それはないんじゃないの。とりあえず、ホフマン『牡猫ムルの人生観』のムルを出場させますが、うーん‥‥。

架空生物対決
[早]妖女サイベルの呼び声
[光]魚舟・獣舟
ハヤカワがあえて『幻の動物たち』や数多のSF作品を出さなかったのは、光文社にあわせてレベルを落としたからか? 岩波で架空生物っていったら、泉鏡花の『夜叉ヶ池・天守物語』とか『草迷宮』とか‥‥。あ、でも、鏡花もいいけど、どうせなら『西遊記』かな。

名犬 vs. バカ犬(?)対決
[早]マーリー
[光]名犬フーバーの事件簿
名犬というかバカ犬というか、存在感のある犬といえば、『ボートの三人男』のモンモランシーでしょう。最近、丸谷才一訳の中公文庫版がリニューアルされてましたが、しかし岩波版は、1941年発行の浦瀬白雨訳。読んでみたいけど、なかなか入手できるものではありません。残念ながら、不戦敗ということで。

動物学者対決
[早]ソロモンの指環
[光]シートン(探偵)動物記
ど、動物学者って、えーと、誰かいたっけ。ウェルズ『モロー博士の島』っていうのは、反則でしょうか。

会話する犬対決
[早]犬ですが、ちょっと一言
[光]犬にどこまで日本語が理解できるか
ちょっと、なんか、どこまで岩波文庫不利なのよ! 嫌がらせ? いじめ? ホントに「それってあり?」だよ。
と思ったけど、そういえばゴーゴリの『狂人日記』で、犬がしゃべってなかったっけ。手紙書いてるし。

虫対決
[早]虫づくし
[光]昆虫探偵
虫だったら、負けませんよ。ファーブルもありますが、それよりも、カフカ『変身』です。巨大な毒虫です。脚いっぱいです。かたい甲羅です。キモイです。ゾワゾワです。でも最後がなあ‥‥。

★名脇役対決
[早]夏への扉
[光]スパイク
ハヤカワに本命『夏への扉』を出された時点で、もう何を出しても負けのような気がしますが、えーと、アナトール・フランス『シルヴェストル・ボナールの罪』に出てくるハンニバルとハミルカル、ってのはどうでしょうか。

荒野の動物対決
[早]すべての美しい馬
[光]白い牙
うーん、いろいろ考えたんだけど、思い当たらず。無念。岩波からも『白い牙』出てます。ジャック・ロンドン、いいです。でも作品よりも、その伝記『馬に乗った水夫』(アーヴィグ・ストーン)のほうがもっといいです。以前はハヤカワNFに入ってましたが、今は文庫じゃなくなっちゃいました。

進化論対決
[早]ワンダフル・ライフ
[光]種の起源(上)
進化論で、この2冊の前に、何を出せというのですか‥‥。えーと、ラマルク『動物哲学』? なんか勝負する前にもう負けてます。

ということで、二番勝負は10戦のうちやっぱり7敗、もしくは8敗。岩波、惨敗です。

三番勝負
事実は小説より奇なり?
ノンフィクション・エッセイ対決

同じジャンルでも対比させると見えてくる両者の持ち味。いずれも、人生を豊かにする事うけあいの傑作揃い。

[ハヤカワ文庫]
ホーキング、宇宙を語る
二重らせんの私
変な学術研究1
妻を帽子とまちがえた男
五人のカルテ
はじめての現代数学
子供たちは森に消えた
セックスとニューヨーク
大西洋漂流76日
ブラヴォー・ツー・ゼロ

[光文社文庫]
ガラスの地球を救え
今日の芸術
風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険
アインシュタインの宿題
お母さんという女
もっと声に出して笑える日本語
札幌刑務所4泊5日
他諺の空似
永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編
菊と刀

ハヤカワ文庫は、以前NFに入っていた硬派骨太男のノンフィクション名作群(ムーアヘッド『恐るべき空白』とかラピエール&コリンズ『さもなくば喪服を』とか)を軒並みノンフィクション・マスターピースのレーベルに移しちゃったんで、なんだか寂しいラインナップ。でも光文社に比べれば、まだまだイケそうな感じです。
これらに対する岩波文庫のノンフィクション・エッセイは‥‥。

高群逸枝『娘巡礼記』
 もうこれはすべての乙女ファンに読んでもらいたい、足バタバタものの萌え旅日記。
『寺田寅彦随筆集』
 科学エッセイの基本の基本でしょう。
『中谷宇吉郎随筆集』
 『雪』もいいけど、いろんな話題のあるこちらを。師匠の寺田寅彦には及びませんが、科学者らしいステキエッセイです。同じく寺田寅彦の弟子の平田森三のエッセイがハヤカワに入っていて(『キリンのまだら』)、そっちもなかなかステキです。
・キャサリン・サンソム『東京に暮す 1928-1936』
 ガイジンの日本滞在記は、幕末のアーネスト・サトウやらヒュースケンやらビゴーやら、岩波の青からいっぱい出てますが、1冊挙げるなら、これ。著者による微妙にヘタな絵が、なんだか萌えます。このころの日本人は、のんびり生活してたんだなあ‥‥。
メンヒェン=ヘルフェン『トゥバ紀行』
 この本、なぜかうちに2冊あります。しかも、1冊は旅先でなくしたことがあるし。しかも、いまだはじめのほうしか読んでない。
長谷川如是閑『倫敦! 倫敦?』
 以前、はじめてロンドンに行くとき飛行機の中で読んだら、本書の中のロンドン(1910年)が現代のロンドンとさして変わりがないので驚きました。
F.キングドン-ウォード『植物巡礼―プラント・ハンターの回想』
 英国が世界に君臨していたころ、園芸に使えそうな植物を求めて、世界中の未開の地を探索したのが、プラントハンターたち。というだけで、けっこう興奮しますよね。

えーと、ほかにもいろいろありそうだけど、そろそろ飽きてきたので、このくらいで。

【四番勝負】
すべてお馴染み!
映像化作品対決

古典的名作から最新話題作まで。映画やTVの原作本対決。「読んでから観るか、観てから読むか」。あなたはどちら?

映像化された作品なんて、『伊豆の踊子』から『戦争と平和』まで、ブンガクものを中心に岩波にこそいっぱいありますが、映像の方はほとんど見たことないので、パス。
一応、ハヤカワと光文社、それぞれのリストを挙げておきます。

[ハヤカワ文庫]
フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電機羊の夢を見るか?』
デニス・ルヘイン『ミスティック・リバー』
マリオ・プーヅォ『ゴッドファーザー(上・下)』
カービー・マッコーリー編『闇の展覧会―霧』
アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』
エド・マクベイン『キングの身代金』
アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ 完全版』
クリストファー・プリースト『奇術師』
リアノー・フライシャー『レインマン』

[光文社文庫]
内田康夫『横浜殺人事件』
大薮春彦『野獣死すべし』
宮部みゆき『長い長い殺人』
東野圭吾『ゲームの名は誘拐』
高木彬光『白昼の死角 新装版』
みうらじゅん『色即ぜねれいしょん』
荻原浩『明日の記憶』
松本清張『鬼畜』
エリス・ピーターズ『聖女の遺骨求む 修道士カドフェル1』
コンラッド『闇の奥』

なんだか光文社の方は小粒ね‥‥。

【五番勝負】
エール交換!
自薦・他薦対決

「この作品なら負けません」「この作品は羨ましいぞ」出版社の枠を越えてオススメ。一冊ごとに各社推薦者の力の入ったコメント帯付。

早川書房と光文社がそれぞれ自社文庫のイチ押し5冊と相手の5冊を選ぶ、という趣向で、そうなるとこの勝負のためには、あらためてハヤカワ、光文社、そして岩波各文庫のベスト5を選考しなくてはならず、そんなことを考えはじめたら楽しいけど1日や2日では選べそうもないので、これもパス。
これもハヤカワ、光文社のリストを挙げるだけにしておきます。

[早川書房、自社のイチ押し!]
人類が消えた世界
わたしを離さないで
天の光はすべて星
華氏451度
深夜プラス1
[早川書房社員が薦める光文社文庫]
黒猫/モルグ街の殺人
ひとにぎりの異形
猫島ハウスの騒動
最後の願い
放送禁止歌

[光文社、自社のイチ押し!]
祝山
ビジネス・ゲーム
猫とともに去りぬ
オイディプス症候群(上)
シルバー村の恋
[光文社社員が薦めるハヤカワ文庫]
あなたの人生の物語
悪童日記
シーラという子
女には向かない職業
図書館の死体

ということで、いずれにせよ、岩波文庫、自分から乱入したくせに、あえなく返り討ち。
まあ、もともと勝負自体がハヤカワ文庫と光文社文庫に有利なように設定されているのだから、しかたがないかもしれないけど。
これが、
「江戸時代対決」
「哲学者対決」
「中国古典対決」
などであれば、ぜったい岩波が勝ったのになあ。残念。

ところで、全体的に、ハヤカワSFが冷遇されてる気がするんだけど、どうなのか。これだけのリストの中に、SFが3冊しかないってのは、どういうわけよ。あるいはSF対決は、水面下で計画中の創元推理文庫とのガチ対決のために温存してあるのか。今後の展開が気になるところです。
でもって、この対決、敗れた方の編集者は頭丸刈りとか鼻でスパゲティ食べるとか、何か罰ゲームがあるんでしょうか。それも気になるところです。


posted by 清太郎 at 21:37| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月01日

読書家向けキャバクラ「檸檬」体験記

前回の「キャバクラ本屋」を読んだというかたから、1通のメールをいただきました。

>こんばんは。
>池袋でお店を何軒かやってる者なのですが、
>そのうち1つが、読書家向けになっています。
>(中略)
>いかがですか、一度遊びにきませんか。
>ブログで取り上げていただけるのでしたら、料金半額でかまいません。
>ジュンク堂の裏あたりにある、「檸檬」というお店です。(後略)

とのことで、読書家向けキャバクラ!
しかも店名は「檸檬」!
さらに料金半額!
えーと、まあ念のために申しておきますと、私自身は、キャバクラなんていうものに興味があるわけではありません。しかしながら、一部の読書家向けブログを標榜している以上、こうした申し出を無碍に断るわけにもいかないでしょう。
読書家向けキャバクラとはいかなるものか、本当に読書家を満足させられるのか、その真偽のほどを、ぜひ確かめなくてはなりません。
ということで、決してキャバクラに興味はないのですが、お店を取材させていただくべく、先日の金曜の夜におじゃましてきました。以下、そのレポートです。

お店があるのはジュンク堂池袋店から200メートルくらいのところ。
駅とは反対側ですが、ジュンク堂やリブロで買い込んだ本を抱えてくるお客さんも多いと、後で聞きました。
メールをくれたオーナー氏はいなかったのですが、
「オーナーから話はうかがっています」
と、黒服のボーイさん(というのかな?)が丁寧に案内してくれました(こういうお店に入るのは初めてなんですが、なんだかすごく物腰やわらかなのね。どこでもそうなの?)。
店内は薄暗くて、どのくらいの広さなのかいまひとつよくわかりませんが、壁際に本棚がずらりと並んでいたりとかはしないみたい。うーん、何が「読書家向け」なんだろう。
ソファに腰掛けると、とりあえずそのボーイさんが、料金について説明してくれました。繰り返すけどこういうお店は初めてなので、ちょっと警戒してたのですが、いちおう明朗会計なのね。
説明によると、料金システムは、「セット料金」になっているとのこと(ふつうのキャバクラと同様だそうです)。45分が1セットで、5,500円(税・サービス料込み)。この料金には、ハウスボトル(ウィスキー)の飲み放題も含まれています(これもふつうのキャバクラと同様なんだって!)。ただし、女の子が飲むと、その分の料金が加算されるとのこと。なるほど。
ほかに、女の子の指名料が2,000円または3,000円なのだそうですが、今回は初めての来店だから関係ないよね。45分で出てきちゃえば、5,500円で済むのか(今日は半額だから、2,750円!)。へー、キャバクラって、思ってたより、ずいぶんリーズナブルなのねー。

ボーイさんの説明が終わると、さっそく女の子が隣に。
「こんばんは〜」
こ、こんばんは。なんだか緊張します。
「お客さん、はじめてですか?」
はいっ、はじめてどころか、キャバクラ自体がはじめてですよ初体験ですよリアルキャバ嬢と初会話ですよ。
「えー、やだ、そんなこと言われると、あたしも緊張してきちゃうー」
という彼女は、キリノちゃん。クリッとした目でかわいらしい顔ですが、キャバ嬢というわりにはふつうの格好で、髪型も別にモサモサアップにしてません。っていうか、店内見渡すと、どの女の子も、いわゆるキャバ嬢っぽい姿ではありません。なるほど、そのあたりはちょっと、読書家向けなのかも‥‥。
そのキリノちゃんの胸元には、名札がついてます。見ると、名前の上に、
「小説一般」
という文字が。
ん? これって、もしや‥‥。
「あ、これですか? あたし、小説一般が担当なんですー。小説なら、こう見えても、けっこう読んでるんですよ、あたし。ほかにも、マンガとか、社会とか、自然科学とか、歴史とか、ビジネスとか、いろいろあってー」
おおお、読書家向けって、そういうことでしたか!
名札にジャンル名とは、ジュンク堂と同じ。心憎い演出です。
ちなみに、キリノちゃんのように、ピンクのプレートに黒い文字の女の子は指名料2,000円、逆の黒いプレートにピンクの文字なら指名料3,000円とのこと。後者は「SF」とか「時代小説」とか「詩」とか、よりジャンルを絞った担当なのだとか。
また、相手の女の子の担当ジャンルが自分の好みと合わない場合、あるいは他の女の子と話したい場合は、いくらでも変更可能だそうです(キャバクラ用語で「チェンジ」というそうです)。

まあとにかく、そういうことでしたら、遠慮なく本の話をさせていただきましょう。
えーと‥‥。
などと、いきなり詰まる私。何度も言うようにキャバクラなんて入るのはじめてですから、女の子相手にどんなふうに会話したらいいのか、よくわかりません。そもそも、こんな若くてかわいい女の子と本の話をする(いや、本以外の話も含めて)なんて、いつ以来だ‥‥?
とはいえ、そこはそれ、キャバクラなんですから、たとえ外見はキャバ嬢に見えなくとも、相手はプロ。私のようなウブな客に対しても、ちゃんと会話をリードしてくれます。
「最近読んだ小説で、何かおもしろかったの、ありますー?」
えーと、えーと、最近、何読んだんだっけ。
「あたしはねー、お客さん、知ってますか? 辻原登の『抱擁』‥‥」
あ、それなら、私も読んだ読んだ。
「やーん、うれしい! この本のこと話せるお客さんがいなくって」
おお、では、まず『抱擁』について話そうではありませんか。『抱擁』のどんなとこがよかったの?
「えーっと、『ねじの回転』っぽいとこ‥‥、なんていうと、お客さん、引きません?」
いや、もう、引くどころか。『ねじの回転』、いいではないですか!
というところから始まって、『抱擁』と『ねじの回転』の比較、信頼できない語り手について、辻原登は私ははじめてだったんだけど他に何がおすすめなのか、しかし同じ『抱擁』ならむしろA・S・バイアットでしょう、きゃーあたしもバイアットの『抱擁』大好きー、バイアットをはじめ英国の現代作家の話、マキューアンもいいよねー、新刊の『初夜』も、ああいうとき女子はやっぱりあんなふうに思うわけ?(このあたり私もお酒が入ったので、エッチな話題にも挑戦してみました)、英国モノといえば一風変わったところでキース・ロウの『トンネル・ヴィジョン』、ソニー・マガジンズってときどき意外な掘り出し物があるよねー、『紙葉の家』とか、『紙葉の家』といえばアルフレッド・ベスターの『ゴーレム100』読んだ?、ピーター・アクロイドの『切り裂き魔ゴーレム』について‥‥といった感じで話が盛り上がり(感心したのが、そうやって話しながらもさすがプロ、キリノちゃんは、グラスについた水滴をしきりに拭いてくれるのね)、ふと気がつくとすでに1時間弱が経過‥‥。
ありゃー、45分で終わりにしようと思ってのに、1セット分はとっくに終わってたのね。延長は、15分ごとに2,000円なのだそうです。
うーん、これで十分ブログは書けるし(そういえば、いちおう取材に来たんだった)、そろそろ切り上げてもいいかなあ、いやあ、しかし、キャバクラって、はじめての体験だけど、案外、楽しいものですな。ぐふふ。
などと思っていると、
「すみませーん」
とボーイさんが登場。どうやらキリノちゃんに他から指名が入ったようです。
「楽しかったですー、今度いらしたら、ぜひ指名してくださいねー」
と、手を振って去るキリノちゃん。わー、なんか、名残惜しい‥‥。
と思ったら、
「こんばんは。よろしくお願いします」
と、次の女の子が現れました。キリノちゃんに比べるとお姉さんな雰囲気の、ロングの黒髪が清楚な感じのマヨイちゃん。
彼女の胸の名札には、
「小説・工学・産業」
の文字。おおお、なんだかよくわかんないけど、すばらしい。
キャバクラはじめての私ですが、ほどよくお酒も回っていますし、初顔合わせでも、もう大丈夫です。
「工学・産業ってことは、建築関係とか、大丈夫?」
「もちろんですよぅ、何かおすすめの建築本、あります?」
というところから、最近読んだ『住まいのりすとら』の話、それに載ってた「カーサ・ブルータス」企画の安藤忠雄に設計してもらった住宅の後日談について、『東京R不動産』もおもしろいよねー、この前出た『東京シェア生活』について、シェア生活といえば少女マンガだけど『グッドモーニング・コール』って知ってる?、きゃー知ってる知ってる「りぼん」ですよねー、というところからなぜか少女マンガの話題になり(「マンガ担当じゃないからそんなに知らないんですけど‥‥」と言われましたが、私もそんなに知ってるわけじゃないから問題なし)、往年の「りぼん」の話、やっぱり柊あおいだよねー、やだあたしリアルタイムじゃ知りませんよー、最近はもっぱら花とゆめコミックス、『てるてる×少年』と『紅茶王子』について、少年マンガ誌に描いてる少女漫画家について、でも渡瀬悠宇は『アラタカンガタリ』もいいけど『櫻狩り』に興奮した!‥‥などと盛り上がっているうちに、またいつの間にか1時間。
わー、いかん、このままではキリがない! このへんで終わりにします! 引き止めないでください!
と、
「今日はあんまり建築本の話ができなかったから、次はたっぷりお話ししましょうね」
などと言われつつ、残念だけど、お会計にすることにしました。もちろん、その前に、マヨイちゃんと、メアド交換。うふうふ。

正味滞在時間は、2時間強。
したがって、最初の45分5,500円+6回分の延長料金12,000円+女の子が飲んだお酒(もちろん、勝手に飲んだんじゃないよ。「一杯おつきあいしてもよろしいですか?」といわれてOKした分)+ポッキーとかおつまみの合計で、24,500円でした。今日は特別に半額だから、12,250円‥‥。
あれ? 最初、私、2,750円で出てくるつもりだったよね!?
こ、これが、キャバクラの魔力か‥‥。
なにせキャバクラは初体験で、相場というものがよくわからないから判断できないんだけど、こんなもんなんでしょうか。
いや、でも、好きなジャンルの本の話ができて(しかも、一方的に自分が話すのではなくて、ちゃんとした会話になって)、相手は若い女子、かわいい、ということになると、値段はどうあれ、なんかちょっと、また来てみても、いいかな‥‥、なんて気分になります。
ふだん本ばかり読んでるけど、女子と本についてしゃべったことなんてほとんどない、でも一度くらい女子と本バナしてみたい、という男子は、もしかしたら、こんなお店に行ってみるのもいいんじゃないでしょうか。

以上、読書家向けキャバクラの実態レポートでした。
はじめは「本当に読書家を満足させられるのか」なんて思っていたわけですが、読書家の端くれとして、力強く断言しましょう。
「満足しました!」
と。
「できればまた行きたい!」
と。
場所は池袋、ジュンク堂の近く。
店名は「檸檬」。
お店のホームページはwww.sexyclublemon.com

hp416.jpg

いやあ、もう、私もね、何度も言うけどキャバクラははじめてだったんですが、ハマっちゃう人の気持ちがよくわかります。楽しいですもん、ホント。相手はプロ、これは商売だってわかってるんですが、でも商売だろうと何だろうと、本について話してることはホントなんですからね。
それに、実をいうと、メアド交換したマヨイちゃんからは、あれから毎日メールが来るのです。
「本バナの続きがしたいですー(はあと)! 次はいつ来られますか? 会いたいなー」
とか何とか。マヨイちゃんったら、私とのおしゃべりが、そんなに楽しかったのかなあ。うふふ。
今回はまあ、お試しでしたけど、これから何度か通って、開店前の「同伴」で一緒にジュンク堂でお買い物したり、神保町で古本屋めぐりしたり‥‥、でもって、さらにさらに‥‥。
わー。





と夢と妄想はふくらむばかりなのですが、当然のことながら今日は4月1日、エイプリルフール。
以上はすべてウソです。
(このブログ、エイプリルフールじゃなくても、たいていウソですが。)
残念ながら、池袋に読書家のための「檸檬」なんてキャバクラ、存在しません。
池袋じゃなくても、神保町にも、ありません。
キリノちゃんもマヨイちゃんも、いません。
私は、こんなキャバクラに入ってません。
っていうか、そもそもキャバクラに行ったことも、ありません。
セット料金とか何とか、そんなこと全然知りません。これを書くためにネットで調べました。
とか何とかいいつつ、エイプリルフールだからそれもウソで、実はけっこうキャバクラ好きです、なんてこともありません。
キャバクラは入ったことないけどセクキャバなら毎月行ってます、ということもまったくありません。
キリノちゃんとマヨイちゃんのモデルはマナミちゃんとチヒロちゃんです、なんてことも絶対ありません。
ホントにキャバクラ未体験です。
キャバクラのキャの字も知りません。いや、キの字も知りません。
ホントのホントですよ。ね、誤解しないでくださいね、ホント、ホントなんですからね、ね、ね‥‥。



posted by 清太郎 at 00:06| Comment(8) | TrackBack(2) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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