2009年09月27日

番線印帳

書店業界の謎用語のひとつに「番線」というのがあります。
正確にいうとなるとよくわかんないんだけど、まあようするに、取次から各書店に割り振られた流通用コードのようなものです。
この番線に加えて、店名やら地域名やら何やらよくわかんない番号やらが一緒に記されたスタンプを「番線印」(あるいは書店印とか)といいます。
たとえば、本屋さんが出版社に注文を出すときに、ファックスするスリップに捺したり、出版社から来た営業さんがその場で注文書に捺してもらったり、そんなふうに使われています。

本屋さんの情報が詰まった番線印、ふだんこれを目にしているのは、本屋さんと出版社の人と取次の人くらいです。一般のお客さんには、あまり関係がありません。
まあ、目にふれたところで、四角い枠の中に数字や文字が入っているだけの事務的なハンコですから、味も素っ気もない、つまんないものです。
でも、この番線印、ちょっと手を加えてみると、おもしろいかもしれません。
単に数字と文字を入れるだけじゃなくて、地域の名物の絵を入れるとか、キャラクターをあしらうとか、あるいは数字と文字だけであってもデザインに凝ってみるとか‥‥。
「そんなことして、何になるの」
という書店関係者がいるかもしれないけど、まあ、見ていなさい。
はじめは、そんなのを気にする人は、出版社の人くらいでしょう。
ジジジ‥‥、と届いたファックスに捺してあった番線印に、大仏様の顔があしらってあるのを見つけて、
「へー、珍しいハンコだなー、‥‥おー、朝屋ブックス東大寺前店、なるほどねー、だから大仏様かー」
まあ、だからといって別にどうかなるわけでもなく、
「ふーん‥‥。さて、仕事しよーっと」
と、それだけで終わるかもしれません。
けれど、こうしたイラスト付きのデザイン番線印がポツポツと舞い込むようになると、ある日、ふと思うかもしれない。
「‥‥この番線印集めたら、おもしろいかも」
と。
そう、そうなのです。
一般的に、スタンプとは、人を熱狂させる何かを秘めているものです。
お寺の「御朱印」しかり、鉄道の駅スタンプや観光地の記念スタンプしかり、そしてちょっとマニアックなところでは、郵便局の「風景印」(単なる日付だけの消印じゃなくて、風景入りのかっこいい消印)しかり。
これらのスタンプを集めるために、何千、何万という人が、全国各地をめぐっているのです。帳面にぎっしり捺されたスタンプを眺めては、深夜ひとりほくそえんだりしているのです。
書店業界にもせっかく「番線印」という立派なスタンプがあるんだから、これを使わない手はない。秘蔵の番線印に磨きをかけて、スタンプ界に乗り込んではどうでしょうか。

これまでのシンプルなものに代わって凝りに凝った番線印を新調したら、実務的には、さほど手間ではありません。
本屋さんでレジに立っていると、たまにお客さんが、
「あのー、こちらに番線印、捺してもらえますか」
と、帳面を差し出してくるので、それにポン、と捺印するだけ。
「それだけじゃ、金にならないよー」
などと思ってはいけませんよ。お客さんの多くは、番線印だけ捺してもらうのは気が引けるので、ついでに週刊誌くらいは買ったりするはず。少なからず売上にも貢献します。
しかも、この番線印ファンは、必ずしも従来の顧客と重なるものではないのです。
本が好きで、いつも本屋さんで本を買っています、他にコレクションとかの趣味はありません、なんて人は、番線印がどうなろうと、あまり興味を引かれないはず。
むしろ、ふだん本屋さんで本買ったりしないけど、趣味で鉄道の乗りつぶししてます、あるいは郵便局めぐりしてます、などという鉄ちゃん、郵ちゃんあたりが、
「駅めぐりと鉄道めぐりのついでに、本屋めぐりも」
ということになります。必ずなります。
すなわち、書店業界としては、顧客層の拡大を見込めるのです。
さらに、伸張するネット書店やコンビニとの差別化もはかれるでしょう。

そして何より、地方の小さな書店にとって、起死回生のチャンスになるはず。
駅から離れた、さびれた商店街の一角にある、狭くて小さな、おばあちゃんがひとりだけでやってる、このおばあちゃん死んだら閉店、というような小さな書店。この店で買える本はすべて、駅前の新しいチェーン店で買えます、というような小さな書店。そんなお店にもちゃんと番線があって、番線印があるわけです。もちろん、このお店だけにしかない、唯一無二の番線印です。
そして番線印さえあれば、それを求めて、番線印ファンは必ずやって来ます。
来店して、番線印捺してもらって、ついでに雑誌か文庫本を1冊買っていく。
さらに、そのお店の番線印が、四角ではない、全国でも珍しい五角形の枠の番線印だったりしたら、ファンの間で話題になること必然。鼻息荒く、遠くからはるばる足を運ぶお客さんが絶えないことでしょう。
そうして、ひと通りマニアが一巡して、客足がにぶってきたところで、
「おばあちゃん引退、娘(といってももう還暦)がお店を継ぎました。ついては番線印のデザインも新調します」
ということになれば、そのニュースは瞬く間に番線印ファンの間をかけめぐり、ああ、コレクターの悲しいサガ、どんな辺鄙な場所にあるお店だろうと、再訪しないではいられません。
番線印趣味がなかったら、このお店は確実に、おばあちゃんの代で閉店していたことでしょう。
まさに番線印さまさま。地方書店の未来は、番線印にかかっている、といっても過言ではないのです。

‥‥といいつつ、この番線印集めの趣味が一般化するまでに、そんな個人経営の零細書店のあらかたは潰れちゃってるような気もしないではないけど‥‥。



posted by 清太郎 at 15:11| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月22日

痴漢冤罪防止ブックカバー

えー、シルバーウィーク真っ只中ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。すっかり更新が滞ってスミマセン。

それはさておき、先週9月14〜18日は、警視庁の痴漢被害防止週間でした。朝のプラットフォームでおまわりさんの姿をいっぱい見かけて、なんだなんだ!? と思ったわけですが、しかしこうして警察を頼りにする以前に、痴漢にウハウハな現場を提供し続けている鉄道会社は真面目に対策を考えるべきだと思います。(もしかしたら鉄道業界と痴漢業界が裏でつながっているのかもしれないけど。)
車内の痴漢については、以前書いた通りです(→「痴漢に間違われないためには」)。痴漢冤罪を防止するためには、本を読んでいるのがいちばんなのです。
だというのに、本業界が痴漢冤罪対策キャンペーンをおこなった、なんて話をちっとも聞きません。今回の痴漢被害防止週間でも、少しも話題になりませんでした。
いたずらに出版不況を嘆いてるひまがあったら、少しくらい行動しなさいよ! と、もういい加減イライラしてきたので、本日、ついにワタクシ自ら立ち上がることにしました。

ということで、ジャジャーン、
「痴漢冤罪防止ブックカバー(男子向け)」
(画像は見本です。ダウンロードはこちらから。

chikan_mのコピー.gif

読んでいる本にこれをつけておけば、
・痴漢に間違われることがない
・これを見た男性が「あっ、そうか、痴漢に間違われないためには本を読めばいいのか!」とひと目でわかる
・「そうか、この人は痴漢冤罪防止キャンペーンのためにがんばってるんだな!」と思われるので、ぎゅうぎゅうの満員電車の中で本を読んでいても、迷惑がられない
という一石三鳥の優れものブックカバーです。
プリントアウトしてお使いください。(A4の用紙に印刷してください。外側の線で折ると新書用、内側の線で折ると文庫用のブックカバーになります。)

女子のかたは、こちらをどうぞ。
「痴漢冤罪防止ブックカバー(女子向け)」
(画像は見本です。ダウンロードはこちらから。

chikan_fのコピー.gif

さあ皆さん、これらのブックカバーの利用を通じて、車内読書をさかんにし、書籍需要を高めましょう。

あ、もちろん、いくらこのブックカバーを使って本を読んでいたとしても、以下のような場合には痴漢と間違われてもしかたがないので、お気をつけください。
・本の中身が、「団地妻ムチムチ大作戦」だった
・本の中身は「カラマーゾフの兄弟」だけど、ズボンとパンツを履いていなかった


posted by 清太郎 at 13:02| Comment(7) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月03日

読書週間の標語が意味するもの

読書週間の歴史にあって、昨年が大きな転機だったことを以前指摘しました(こちらを参照)。
で、今年はというと、果たして、その路線を踏襲するものだったといえます。
今年の読書週間の標語は、これ。
「思わず夢中になりました」
どうでしょうか。
昨年同様、本にまつわる言葉を排した、つまり読書週間じゃなくとも通用するコピーです。この標語なら、釣り週間でも切手収集週間でも覚醒剤取締り週間でも、何にでも使えるわけです。
ここに、読書週間の方向性はほぼ固まったといっていいでしょう。

このことについて、巷の読書ファンの間で、毀誉褒貶かまびすしいと聞きます。
反対派は、本にまつわる言葉を抜くとはケシカラン、と主張しています。まったく日本男児らしからぬ、正々堂々と勝負せよ、それとも何か、え、本のことを、隠したいと思ってんのか!? 恥ずかしいのか! エッ、コラ!! と、言葉は荒いですが、むしろその心は乙女のごとく繊細。本の力と価値を心から信じている、ロマンチックな理想主義者です。
賛成派は、より現実路線です。もう黙っててもお客さんがくる時代じゃない、正々堂々なんかしてると、売れるものも売れないのだ、むしろ敷居を低く低く低くして、っていうか読書とはわからないようにして、
「思わず夢中にって、何のことかしら? もしかして、もしかして‥‥、ムフフ」
などとうかうかしていると、いつの間にか、
「うわー、読書のことだった」
と絡めとられてしまう、という搦め手戦法にしかわれらが生き残る道はないのです、というのです。

私は、これらどちらの意見にも、くみするものではありません。
むしろ、事態は今や、正々堂々か搦め手か、などといったレベルをはるかに超えたところまで達している、と考えています。
「思わず夢中になりました」
この一見して凡庸かつ何気ない標語には、私の喝破するところ、読書界上層部の壮大な野望が隠されているのです。
どういうことか、説明しましょう。
読書界上層部は、おそらく、以下のようなシナリオを思い描いていると考えられます。
まず、読書週間の標語の文言から、本にまつわる言葉をなくします。現在の段階です。
これが何年も続いて、当たり前のものになったころ、第二段階として、「読書週間」のネーミングを変えます。
「愛書週間」とか何とか、そんな感じにします。
読書も愛書も、まあ見た目そんなに変わらないですから、特に耳目を集めることもないでしょう。
そうしてそのまま、
「素敵な出会いをしてみたい」
とか、
「からだが火照ってしまいます」
とか、
「一晩中むさぼっていたい」
とか、毎年そんな標語を連ねた挙句、最終段階として、愛書週間の「書」の字のほうも取っ払っちゃう。
取っ払っちゃって、どうするか。
読書とは何の関係もない、
「恋愛週間」
にするんです。
日本人は愚かなので、
「あれ? 今気づいたけど、この週間って、昔から恋愛週間だったっけ?」
「なんか違う週間だった気もするんだけど」
「でも、標語は『一晩中むさぼっていたい』だしなあ」
「そうだよね、気のせいだよね。昔から恋愛週間だったよね」
ということになります。
そうです。読書界上層部は、これら三段階の漸進的改革により、読書界を丸ごと恋愛界にシフトしてしまおうとしているのです。

何たる由々しきこと!
と、一読書ファンとしては戦慄せざるをえない事態ではあるのですが、しかし常識的に考えて、この判断は至極妥当なものだといえます。
構造的な出版不況、さらにリーマンショックに端を発する経済危機、デフレスパイラルの懸念、少子化による市場の縮小。こんな時代にあって、従来のような、地道に本をつくって刷って(あるいは電子化して)売る、という業態が限界に来ていることは明らかです。
そうなると、いつまでも本にしがみついているのは愚の骨頂。読書界にとって、ついに、その始まりから共に歩んできた本と決別すべきときが来たのです。まさに変革が、イノベーションが求められているのです。
そして、イノベーションの筋道として考えうる方策が、読書から恋愛へ、という業態の転換に他なりません。
IBMがパソコン販売からソリューションビジネスへと転換したように、また富士フイルムが写真フィルムから医療分野へと事業の基軸を移しつつあるように、読書界も大きく変わらねばならない。変わらねば、生き残れないのです。
そうした背景を鑑みるに、自動車や電機、金融など他の産業に比べて伝統的に読書界が強みとしてきた「恋愛」の分野に経営資源を集中させる、という読書界上層部が企図は、きわめてまっとうな判断といわざるをえません。
おそらく、将来的には、恋愛コンサルティングや恋愛サポート、恋愛システム構築といった恋愛サービスから、さらに恋愛デリバティブ、恋愛先物取引など、次々と市場を創出しつつ、恋愛界を一手に牛耳ろう、といった青図が描かれているのでしょう。(少子高齢化社会における内需拡大をもくろむ政府の後ろ盾があるかもしれません。)
恋愛化に対応できない中小出版社や地方の書店などは、読書界では本を売ってればいいと思っていたらいつの間にか梯子をはずされ、「えー、恋愛? そんなの聞いてないよー」などと騒ぎつつバタバタとつぶれてしまう、ということになるかもしれませんが、一面ではそれは業界の不良資産の一掃を意味するものでもあり、長期的には業界の発展に利することになるでしょう。

かつてブラッドベリは、「華氏四五一度」を通じて、政治的な事由によって本が読めない社会を描きだしました。
しかし、われわれが向かおうとしているのは、経済合理的な理由から、本を読まない社会なのです。(おそらく、誰もが恋愛を謳歌する、それはそれで幸せな社会でしょう。)
今はまだ読書週間の標語くらいにしか、その兆候は見えませんが、しかし、いずれ、たとえば駅前のあゆみブックスの店名が、
「あゆみラブックス」
などになったら、読書ファンとしては、覚悟したほうがいいと思います。


posted by 清太郎 at 07:39| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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