2009年07月20日

燃える! 読書マンガ

少年とは純粋なものなので、「キャプテン翼」を読んではサッカーがしたくなり、「SLAM DUNK」を読んではバスケ部に入りたくなり、「ヒカルの碁」を読んでは碁を打ちたくなり、「テニスの王子様」を読んではテニススクールに通いたがってきました。
現今におけるこうした競技の興隆の何割かは、マンガによるところが大きいといえます。少年に対するマンガの影響とは、かくも甚大なものなのです。
少子化にともなう競技人口の減少を危惧する各種競技団体は、マンガの題材に取り上げてもらおうと、日夜「少年ジャンプ」編集部に足を運び、盆暮れには付け届けをし、接待し、あるいは政治家を通じて圧力をかけ、脅し、なだめ、すかしているといわれています。
しかし、そんな影響力をもちながら、これまで少年マンガは、自らの足元に対してあまりに無自覚だったのではないでしょうか。他の業界に貢献している暇があったら、むしろ自らが拠って立つ出版業界を振興すべきではなかったのか。
若者の本離れをどうしよう、出版不況どうしよう、などとオロオロしてないで、とにもかくにも、「SLAM DUNK」や「テニスの王子様」のような熱く燃える、
「読書マンガ」
をつくるべきなのではないか。
これまで数々の作品で培ってきたノウハウを用いれば、少年マンガのプロにとって、難しいものではないはずです。
たとえば‥‥。

四月の初め。玉南高校3年生の本田ヨミが、学校に向かうバスの中で本を読んでいると、隣に新入生らしい男子が立つ。
本を読みつつ、ちらと横目で見るともなしに見ていると、どうやら彼、聴いていたiPodの充電がいきなり切れてしまったらしい。で、暇つぶしにケータイをいじろうかとしたけど、どうやら家に忘れてきてしまったようだ。
プッ、ドジな子。
みじめに落ち込んでいる彼が、ふとかわいそうになったので、ヨミはカバンの中から1冊の本を取り出した。(今読んでる本と次に読む本、いつでも2冊持ってるのは、文藝少女のたしなみです。)
「ねえキミ、よかったら、これ、読む?」
「えっ‥‥、あ、ありがとうございます!」
少し頬を赤らめながら、本を受け取る少年。
ふふ、よっぽど手持ち無沙汰だったのね、と手元の本に目を戻したヨミは、たいへんなことに気がついた!
彼女が今読んでいるのは小杉天外「魔風恋風」の上巻。ということは、少年に手渡した「次に読む本」は、その下巻だった!
悪いことしちゃったわ‥‥、とわびようとしたヨミは、思わず瞠目した!
下巻であるにもかかわらず、少年は平気な顔をして読んでいたのだ!
(も、もしや、この子‥‥)
と、いきなりバスが急ブレーキ!
もんどりうって倒れる、ヨミも少年。
そのとき、倒れながらヨミが目にしたものは‥‥。
バスの車内で回転しながら、それでも本から目を離さない少年の姿だった!
しかも、
(あの体勢は‥‥、ま、まさか‥‥!)
仰け反って宙を舞いつつ、典雅に本を読むその姿は、
(もしや、あれは、幻の‥‥、“飛天円舞の読み”‥‥!?)
驚いたヨミは、少年に問いただす。
「キミ、いったい何者!? その読法は、どこで覚えたの!?」
ところが少年は、きょとんとした顔で、
「えっ、ドクホウ? 何のこと?」
どうやら、彼は読書に関してはまったくの素人、“飛天円舞の読み”は、彼の桁外れの集中力と運動能力がなせる偶然だったらしい‥‥。
でも‥‥、
(この子がいれば、全国も、夢じゃない‥‥)
ヨミは、少年に迫る。
「どう、キミ、うちの部に入らない?」
実は彼女、玉南高校読道部の部長だったのだ!
「読道部? それって、文芸部のことですか? 俺、部活は運動部系にするつもりなんで‥‥」
「だーいじょうぶ、うちも運動部だから。読道は、立派な武道なんだから!」
こうして、何やらわけもわからぬままに主人公・読谷理人(りーど、と読みます)は読道部に入部することになる。
だが、部室に連れてこられた理人を待っていたのは、部員たちからの冷たい仕打ちだった。
「フッ、素人が‥‥」
と冷笑するのは、二宮金吾。二宮金次郎の子孫である彼は、薪を割りながら本から目を離さなかった金次郎が編み出したという二宮流読法の達人である。
「‥‥」
理人を無視して本のページを撫でているのは、波那輪チホ。彼女は、わずか数ミクロンのインクの厚み、あるいは活字による凹みを指先で感知し読書をする、盲目の天才美少女読書家だ。
だが、そんな彼らも、厳しいトレーニング(本を読みながら腕立て伏せ、懸垂、ジョギング、スパーリングなど)に音を上げずについてくる理人を、少しずつ見直すようになるのだった。
一方、当初は基本的な本の持ち方(「左手は添えるだけ」)すらままならなかった理人も、次第に読書の楽しみを知るようになっていった‥‥。
そして迎えた、読道大会関東予選。
初の予選突破を目指す玉南高校の前に、強豪たちが立ちはだかる!
特訓の成果は!?
予選を勝ち抜き、天下一読道大会への出場を果たせるのか!?
本田ヨミの奇策とは!?
理人は再び“飛天円舞の読み”を繰り出すことができるのか!?
徐々に明らかになっていく金吾の悲しい過去、さらに二宮一族との因縁とは!?
チホのウブな恋の行方は!?
そして、激しい戦いの果てに、理人が見たものとは‥‥!?

‥‥と、こんな感じのマンガなら、純粋な少年が興奮し、
「うわあ、なんだかオレ、本読みたくなってきた!」
となること、間違いなし(まあ、もうちょっとマシな設定のほうがいいだろうけど)。
読書人口急増、作中に出てきた作品の売上も急増、「若者の活字離れ」ともサヨナラです。
(ただし、小学生男子の間で、
「飛天円舞の読み!」
とか、
「秘技・円月読法!」
とか、変な格好で教科書の朗読をすることが流行るかもしれないけど、それには目を瞑りましょう。)
あとはただ一点、、
「読書で、どうやって戦うか」
ということだけ解決すれば、すぐにでもマンガ化できるはずです。

ちなみに、少年に対してはこうした読書マンガで読書熱を煽るとして、少女に対しては、
「本を読めば、キレイになる!」
「読書で恋がかなう!」
とか何とか、そっちの方面から攻めればいいと思います。

posted by 清太郎 at 06:25| Comment(10) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月11日

ノルウェイに森がない

「1Q84」が売れているようですね。
すでに200万部突破だとか。出版不況も何のその、さすが村上春樹です。
その村上春樹、人気なのは日本でだけじゃありません。この前はイスラエルで賞もらってましたが、もっと近い国、中国でも大人気らしいです。
とくに「ノルウェイの森」は、それが中国の現代文学あるいは若者の文化に与えた影響ははかりしれないのだとか。今でも、たとえば川上弘美の「センセイの鞄」のような日本の人気作品が翻訳出版されるときに、
「21世紀の『ノルウェイの森』!」
なんていうキャッチコピーがつけられるそうです。

ということを、「図書館情報メディア研究」という雑誌に載ってた王海藍「中国における「村上春樹熱」とは何であったのか : 2008年・3000人の中国人学生への調査から」という論文を読んで、初めて知りました。へー。
で、同論文にあったんだけど、村上春樹人気があまりにすごいので、2004年には「ノルウェイの森」の続編も出てしまったのだとか。タイトルは、
「ノルウェイに森がない」
作者は村上春樹本人ではなく、彼の“秘密の愛人”、福原愛姫。(なんじゃ、このベタなペンネームは。)
語り手のワタナベをはじめ「ノルウェイの森」の登場人物がそのまま出てきて、中国の春樹ファンは、「ついに続編が!!」と騒然としたらしいです。

などという話を聞くと、今の日本人は、
「中国ってホントに‥‥」
「さすが、『ハリー・ポッターと中国帝国』を出した国wwwww」
と冷笑侮蔑しがちなんだけど、いや、でも、考えようによっては、これはとってもステキなことです。
まあ多少正統性に問題があるとはいえ、このとき中国の春樹ファンは、日本の春樹ファンがだれひとりとして読んだことのなかった「ノルウェイの森の続編」を読めたのです。(王海藍によると、プロットもしっかりしてたらしい。)
なんともうらやましい話ではありませんか。
もしかしたら現在の中国では、たとえば、日本では作者が死んで未完が確定してしまった「グイン・サーガ」の続きが読めるかもしれない。(個人的には、どっちかというと、グインよりも「魔剣」の続きを読みたいのだけど。)
あるいは作者が飽きたのか日本では続きが出ていない田中芳樹の「創竜伝」などの続きが出てるかもしれない。
芥川龍之介「邪宗門」や「大菩薩峠」やゴーゴリ「死せる魂」やフロベール「ブヴァールとペキュシェ」など錚々たる未完作品(と日本では考えられている作品)が、ちゃんとおしまいまで読めるかもしれない。
さらに、「SLAM DUNK」の1年後、赤木や三井が抜けた穴を新入生のリー君(中国人留学生)が埋めて、ついに湘北バスケ部は全国を制覇してるかもしれない。「HUNTER x HUNTER」のアリ編はとっくの昔に終わっていて、今はクラピカと旅団の最終決戦終盤戦になっているかもしれない。
うーむ、考えれば考えるほどうらやましい中国出版界の続編事情。
そんなわけで、ここでは、あったらうれしい続編をいくつか考えてみました。

北村薫「スキップ」の続編。
「リピート」
高校2年生からいきなり42歳へとスキップしてしまったわたし一ノ瀬真理子。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師・桜木真理子としての生活に次第に慣れてきて半年たった9月のこと。大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。目覚めるとわたしは、72歳になっていた! わたしは一体どうなってしまったのか‥‥。でも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、『わたし』を生きていく‥‥。老年文学に爽やかな息吹を吹き込む、感動長編!

「博士の愛した数式」の続編。
「ルートが恋した図形」
今や数学教師となったルート。ある日、ちょっとした交通事故の翌朝、ふと目覚めると世界が一変していた。なぜか、身の回りのものが何なのか、わからないのだ。高次脳機能障害による失認。それにより、ベッドもイスも時計も野球帽も、ノートも鉛筆も、そして三角も円も、目には見えていても、それが何なのか認識できないのだ。絶望に沈むルート‥‥。
でも、彼には、博士との思い出があった。身の回りのすべてのものにメモを貼り付けていた博士に習って、すべてのものに付箋を貼って対処していこうとするルート。彼を支える妻と息子、そして母。再び数学教師として教壇に立てる日はやってくるのか。ひたむきなルートの姿が、癒しと感動を呼ぶ!

「剣客商売」最終話。
「秋風の賦」
90を過ぎたある日、病に倒れた小兵衛。おりしも、かつてない巨悪が江戸を襲おうとしていた! 大治郎は単身、小兵衛の力を借りることなく、難敵を打ち破る。
「みたろ、父上。勝ったんだよ、ぼく、ひとりで。もう安心して逝けるだろ、父上」
思い残すところ無く、安らかな笑顔で逝く小兵衛。
「父上が逝ったら、部屋ががらんとしちゃったよ。でも‥‥すぐに慣れると思う。だから‥‥、心配するなよ 父上」

「走れメロス」の続編。
「走れディオニス」
メロスが走ったあの日から、25年の歳月が流れた。セリヌンティウスは若くして死んだが、かつての暴君、今や名君の誉れ高いディオニスは、臣下メロスと親友以上の関係を続けていた。だがある日、侵入した隣国の王により、メロスが捕われてしまう! 三日後の日没までに刑場にたどりつかねば、メロスは処刑されるというのだ!
かつてメロスを走らせたディオニスが、こんどはそのメロスのために、走る、走る! 暴河を渡り、山賊を打ち倒し、老骨に鞭打ち、一心にひた走る! そしてその先に‥‥!
13億の同志諸君、涙せよ!

posted by 清太郎 at 11:06| Comment(8) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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