2008年01月31日

叛逆挽歌・江戸川乱歩

成分解析とか相関図ジェネレータとか脳内メーカーとか、オンラインでいろいろ世の中の真実を探れるようになった現代ですが、今ちょっと話題なのは、
「名前を入力するとライトノベル風の二つ名を生成するよ。」
という「二つ名メーカー」なのだそう。
(でもどっちかというと、ジョジョのスタンドの名前みたいなんですが。ライトノベル風、というのは西尾維新の「戯言遣い」シリーズ風、ということなんですね。どうせなら、もっとわかりやすく「スタンドメーカー」をつくってもらいたいものです。)

ともあれ、せっかくですから、例のごとく、いろいろ作家の名前を入れて遊んでみましょう。
‥‥と、思いつく端から入力していったのだけれど、それっぽいものって案外できないものなのね。

夏目漱石:冥府(アムネイジア)
森鴎外:感染協会(サブリミナルナイトメア)
芥川龍之介:堕落陥穽(エクリプス)
泉鏡花:爆撃尖弓(サイレントブラスト)
正岡子規:失踪願望(ショットガンジプシー)
菊池寛:殺戮煉獄(ジェノサイドキャノン)
太宰治:不死蜘蛛(エターナルサプライズ)
谷崎潤一郎:氷結解放(ダークリベリオン)
井伏鱒二:陰翳円舞(ソリタリーシャドウ)
村上春樹:立体崩壊(ゴシックコラプション)
安部公房:贄(エクソダス)

と、作品あるいは本人のイメージに合致するものが、なかなかできません。太宰治が堕落陥穽で、泉鏡花が冥府で、安部公房が立体崩壊で、谷崎潤一郎が陰翳円舞ならよかったのに。
かろうじて、これはアリかな、と思えたもの。

・あさのあつこ:蒼穹瘴気(ナイトメアプロジェクト)
一見小学生も読める爽やかなテーマなのに、実は腐臭たっぷりのヨコシマな内容、というところが「蒼穹」で「瘴気」っぽい。

・樋口一葉:彼岸蓮華(カラミティレクイエム)
夭逝した女性作家っぽい。

・萩原朔太郎:頽廃瘴気(バロックナイトメア)
でも朔太郎って、そんなに退廃的だっけ。

・近松秋江:桃色炎球(ストロベリーフレア)
いかにもストーカー作家らしい気がする。

・綾辻行人:青の奇術師(マニックディスペアー)
奇術師っぽい気はするけど、でも、青って何。

・坂口安吾:錯乱矛盾(ファナティックサーカス)
夫人の三千代さんはけっこう苦労したそうです。

・川上弘美:酩酊忌避(アシッドミラージュ)
酔っていそうで、酔ってない感じ。

・堀口大學:架空研究(インビジブルサン)
いわれてみれば、架空の研究をしてそうなキャラだ。

・志賀直哉 禁縛原理(ファンダメンタルバインド)
これはちょっといかにも志賀直哉っぽいような気がする。

・谷川流:終末運命(モノクロームリボルバー)
「涼宮ハルヒの憂鬱」っぽい気がするんだけど、どうでしょう。

なかなかうまい!いいとこ突いた!と思ったものは、こんなあたりか。

・京極夏彦:呪言計画(サイレントアンセム)
・永井荷風:幻影挽歌(ヴァニシングカウントダウン)
・稲垣足穂:月蝕騎士(ペネトレイトラビリンス)

すでに二つ名(というか、あだ名)を持っている場合は、どうなるか。
作家じゃないけど、水滸伝の登場人物に、二つ名を付け直してみました。

・呼保義 宋江→失踪瀑布(デッドリージプシー)宋江
・花和尚 魯智深→妄想奇禍(デッドトリック)魯智深
・行者 武松→幽閉脳髄(インナーネオテニー)武松
・神行太保 戴宗→四番目の急報(スチューピッドチューズデイ)戴宗
・黒旋風 李逵→恍惚実験(デイドリームパラドックス)李逵
・白面郎君 鄭天寿→歌う平面(フラットトラウマ)鄭天寿

なんだか、かえって弱そうになっちゃった‥‥。
皆さんもいろいろ試してみましょう。
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2008年01月30日

[本]土曜日(イアン・マキューアン)



思わぬところに落とし穴がパックリ口を開けて待っている、というのがイアン・マキューアンの小説。
「マキューアンなんだから絶対悲惨なことが起こるに違いない!」
ということだけはわかってるんだけど、それがどこに現れるのか、まだまだ先なのか、それとも今読んでるページのすぐ次なのかは見当がつかない。今は平穏無事で、平和で、安全で、満ち足りているように見えるけど、実は‥‥。薄いガラスの一枚板の上に築かれた日常、いつそのガラスにひびが入るのか‥‥、という緊張感が、たまりません。

この作品も、期待にたがわずやってくれました。外科医ヘンリー・ペロウンの土曜日。早朝、ベッドルームの窓から、火を噴きながら降下していく飛行機を見たときから、ぞわぞわとした、まだ見えない不安と波瀾を予感させ、でもいつも通りの土曜日が始まって、あるアクシデントがあって、「すわっ」と身構えると、思ったよりあっけなくスルーして、また日常に戻り、でもアクシデントの結果を引きずっていて、いつもと変わらない午後が過ぎ、そして‥‥。
前作「贖罪」(公開中の映画「つぐない」の原作ね)が60年の時を相手取ったのに対して、「土曜日」に流れる時間は、タイトル通り、ある土曜日(2003年2月15日)の始まりから終わりまでのみ。それだけに、濃密な描写のマキューアン節も思う存分堪能できて、ぷはーっ、ときどき息苦しくなります。
主人公ペロウンが、外科医でお金持ちでロンドンの一等地に住んでいて健康で奥さんが美人弁護士で息子が才能あるミュージシャンで娘がこれも才能ある詩人で今の生活に満足していて‥‥、と幸せすぎるのがムカムカするのだけど、でもマキューアンなんだから、この人がぜったいヒドイことをされるはず、えーい、いっそのこと早く悲惨なことになれ、いや、でもでも、ドキドキ‥‥、というような、サディスティックな気持ちとマゾヒスティックな気持ちを両方味わえます。
そのペロウンのことを忌み嫌わなければ、ラストは、えーと、ネタバレがイヤなら、これ以上、読まないように。上向きです。「時間のなかの子供」に通じるものがあります。ちなみに、濃密描写の手術シーンには、「イノセント」の死体解体シーンを思いだしました。(血とか苦手な気弱な男子は、飛ばして読みましょう。)

平穏部分を取り去って、ストーリーの起伏のあるところだけあらすじにすると、ちょっと「ブラックジャック」のエピソードっぽい話でもあります。

【こんな人におすすめ】
・「ブラックジャック」ファン
・Sな人
・Mな人

【こんな人にはおすすめしません】
・ニートの人(定職に就いてから読んだほうがいいです)
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2008年01月26日

広辞苑グッズ

広辞苑第六版が出て、本屋さんに積んでありますね。ネットで検索、が当たり前になった現在ですが、手に取れるモノとしての辞書って、やっぱり頼りがいがあるんでしょうか。
そういえばユニクロから「広辞苑Tシャツ」も出てるんですよね。広辞苑の挿絵を大きくプリントした、というもの。別に図柄じゃなくても、文字、たとえば、
「だらかん【だら幹】(堕落した幹部の意)労働組合・政党などの堕落した指導者をいう。」 
なんてのをプリントしてあるだけでも、インパクトがありそうですが。
ほかにもどんなアイテムがあるのかな‥‥、と思ってちょっと検索してみたんですが、うーん、意外なことに、これといって見当たらない。「広辞苑グッズ」なんて、いかにもありそうなのに‥‥。
たとえば、こんなの。

・広辞苑のかたちをした枕
広辞苑のように見えるけど、さわるとフカフカ。机に向かったまま居眠りするのにぴったりです。
これ、もっと本格的な商品があるんだけどね‥‥。

・広辞苑のかたちをしたお弁当箱
広辞苑のように見えるけど、函から取り出すと、じゃーん、お弁当箱!
容量は、23.6×18.2×9.6センチだから、約4リットル。育ち盛りのお子さんのいるご家庭におすすめです。

・広辞苑のかたちをした金庫
広辞苑のように見えるけど、暗証番号を入力しないと函から出せません。
本棚に入れておけば、誰も金庫とは思うまい。へそくりを隠すのにぴったりです。
っていうか、ふつうの広辞苑にへそくりのお札をはさんでる人も多そうだけど。

・広辞苑のかたちをしたステレオスピーカー
広辞苑のように見えるけど、背表紙に眼を近づけてよく見ると、細かい穴がプツプツあいていて、あら、これはスピーカーなのね。
左右のフラットパネルスピーカとサブウーファを四角いボディに一体化。本棚や卓上など、どこに置いてもさまになります。iPodもセットできるよ!

・よりぬき広辞苑
約24万項目の中から選びぬいた傑作項目1000語を1冊に!
これ1冊読めば、広辞苑がわかる!

ところで、検索してて、すごいのを見つけました。
寸法を見て見て!
386 x 1094 x 780mm
38.6センチ×109.4センチ×78センチ!
巨大すぎ!! これで重さは1キロ余りしかないから、軽くて使いやすそうだよ! 老眼で、広い部屋をお持ちのかたにおすすめです。
(この「Knezon」にある本は、どれも巨大みたい。文春新書なのに80センチだったりするよ。)
posted by 清太郎 at 10:57| Comment(7) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月24日

池波正太郎の蒲団

「布団乾燥機」と入力しようとしたら、「蒲団乾燥機」と変換されてしまったので、思いついたネタ。

池波正太郎の文章がさまざまな面に応用できることは、本家サイトの「ドラえもん犯科帳」で示したように明らかなんだけれど、これでもう少し遊んでみたい。
「池波正太郎の文章で、田山花袋『蒲団』を書いたらどうなるか」
である。
題材となるのは、日本文学史上、もっともかっこわるいエピソードのひとつとして知られる「蒲団」のラスト。主人公の竹中時雄が、去っていった女弟子の芳子が使っていた蒲団に顔をうずめて泣くシーンだ。
原文は以下のとおり。

《時雄は机の抽斗(ひきだし)を明けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取って匂いを嗅いだ。暫くして立上って襖を明けてみた。大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡げてあって、その向うに、芳子が常に用いていた蒲団――萌黄唐草の敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。
 性慾と悲哀と絶望とが忽ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
 薄暗い一室、戸外には風が吹暴(ふきあ)れていた。》

いかにもしょぼくれていて、かっこわるい。発表から百年経っても、変わらぬダメ男っぷりである。
これを、池波正太郎風にすると、どうなるか。
こうなる。
かっこよくなってしまうのである。

 時雄は机の抽斗をあけてみた。
「やあっ!!」
 そこには‥‥。
 古い油の染みた[リボン]が捨ててあった。
 時雄はそれを手に取るやいなや、
「ふぐっ!!」
 匂いを嗅いだものである。
 しばらくして‥‥。
 時雄は、立上がるや、身をかえしざま、
「たあっ!!」
 と、襖を明けた。
 そこには、大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡げてあり、その向うに、芳子が常に用いていた[蒲団]が重ねてあった。萌黄唐草の敷蒲団と、綿の厚く入った同じ模様の夜着である。
 すかさず、時雄はそれを引出した。
「はっ!!」
 女のなつかしい凝脂のにおいと汗のにおいとが、
(言いも知らず‥‥)
 胸をときめかした。
 おもわず、夜着の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附け、
(心ゆくばかり‥‥)
 なつかしい女の匂いを嗅いだものだ。
 そのときであった。
 性慾と悲哀と絶望とが、時雄の胸を襲った。
 時雄はその蒲団を敷くや、息つく間もなく夜着をかけると、
「むうん‥‥」 
 冷めたい汚れた天鵞絨の襟に、顔を埋めた。両眼から、熱いものがふきこぼれた。
 さきほどまで吹き荒れていた風はいつしか静まり、青い空がおだやかに広がっていた。

やっていることは同じなのに、このかっこよさときたら、どうだ(「たあっ!!」などと、意味もなく気合いの入った掛け声を入れること、なんとなくキビキビ動いてるように描写することがポイント。最後はちょっと明るくしておきました)。
世のしょぼくれた中高年男性が池波正太郎のまねをしたがるのも、よくわかる気がする。

しかし、考えようによっては、このように可能性としてはかっこよく書けたであろうところを、あえてかっこ悪く、情けなく、しょぼしょぼに書いた、というところが、
「自然主義文学の矜恃」
である、ともいえるかもしれない。
posted by 清太郎 at 23:27| Comment(2) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月20日

岩波文庫五人姉妹マンガ

去年の夏に書いた「岩波文庫五人姉妹」ですが、いただいた設定イラストをもとに、てきとうに五コママンガ(中途半端なコマ数だ)を描いたものの、なんとなくアップする機会を逃して、そのままになっておりました。(みどりちゃんとあおいちゃんが出てくるものも描いて、五人揃ってからにしようと思ってるうちに、めんどくさくなった。)
で、このままお蔵入りにするのももったいないので、何の脈絡もなく、今日いきなり掲載。夏服なのは、描いたのが9月だからです(っていうか、手抜き)。

manga.gif

岩波文庫五人姉妹については、ネタとしてはその後もいろいろ考えていたのですが(「実は、変身ヒーローだった、とか」とか)、そのままになってました。ちゃんとした文章になったら、また忘れられたころにアップするかも、です。

そういえば「今日の早川さん」も2巻が出るそうですね。こういう、本をキャラ化するネタがもっと出てくると楽しいのになあ。経営破綻した草思社なんて、いかにもキャラが立っていていいんじゃないかと思うのだけど。
「おいっ、ソウシ、療養してたんじゃないのか。もう体はだいじょうぶなのか?」
「ええ‥‥、心配かけて、すみません、うっ、ゲホゲホッ」
なんて感じで。
posted by 清太郎 at 13:36| Comment(3) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月17日

「ママ、なぜおうちにサーバーがあるの?」

ちょっと前のギズモード・ジャパンより。こんな絵本があるんですね。
「ママ、なぜおうちにサーバーがあるの?」
(原題「Mommy, Why is There a Server in the House?」)
たぶんWindows Home Serverのノベルティか販促グッズで(米Amazon.comにも載っていて、冗談レビューも寄せられています)、“「家にサーバーを置く理由を、子供が理解する助けになる」ための本だそうです”とのこと。

ページを開くと、
「サーバーって何か知ってるかい?(Do you know what a server is?)」
から始まって、そのすぐ後の言葉が、
「もちろん知ってるよね!(I bet you do!)」
というところがいきなり可笑しい。さらに、
「パパとママがとても愛し合っているなら、パパはママにステキなプレゼントをしたくなる」
という次のページに、
「だから、パパは家庭用サーバーを買うんだよ!」
どんな家庭だ。

どう考えても、絵本を読む年ごろの子どもが「ママ、なぜおうちにサーバーがあるの?」とママに訊くとは思えなくて、まあ、そのムリムリ感がたまらなくステキなんだけど、しかし実用的には、もっと子どもの心にうったえる内容を考えられなかったのか、とも思います。
たとえば、小さなサーバーが大冒険を繰り広げる、
「いさましいちびのサーバー」
とか、ちっちゃなサーバーが森に出かけて虎と遭遇する、
「ちびくろさーばー」
とか、だるまちゃんに新しい友達ができたよ!
「だるまちゃんとサーバーちゃん」
とか、のんたんもサーバーを買ったよ!
「のんたんのサーバーだいすき」
とか。楽しく読んでいるうちに、いつの間にかサーバーについての知識が身につき、サーバーが欲しくなり、Windows Home Serverを買いたくなっちゃいます。

これに味をしめたMicrosoftが今後も、読んでいるうちに同社のブランドに自然と慣れ親しむことができるような、絵本や児童書をどんどん出してくれると楽しいですね。
「はじめてのログイン」
「ズッコケ家庭内LAN構築」
「ハリー・ポッターと秘密の添付ファイル」
「ビル・ゲイツってほんとにいるの?」
などなど、想像するだけでワクワクします。


※でも、こういう本ばかりになっちゃったら、イヤではあるんだけど。先日手にした「感涙食堂」(生活文化出版)は、ぐるなびのエッセイコンテスト入賞作をまとめたものなんだけど、このコンテストがカシオ計算機の協賛で、巻末にカシオの広告記事が載っているのを見て、げんなりしました。
posted by 清太郎 at 22:47| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月15日

[本]エリザベス・テイラー「エンジェル」



1900年代初頭の英国。16歳のエンジェル(アンジェリカの愛称です)は、田舎町で小さな食料品店を営む母親とふたりのつましい暮らしから目を背け、大時代なロマンス小説の執筆に情熱を傾けていた。やがて自らの出自さえ書き換えてしまうほどの類い稀な想像力と文才で、一気に人気作家への道を駆け上がる。幼い頃から憧れていた豪邸パラダイスを買い取り、ノラという有能な秘書も得たエンジェルは、ノラの弟で孤高の画家エスメと恋に落ちる。

というのが、いま公開中の映画「エンジェル」のあらすじで、本書はその原作となったもの(ノラは小説ではノーラ、エスメではなくエズメは兄、といった設定の違いがあるみたい。それに、映画では、エンジェルが書く小説はそれなりにちゃんとした恋愛小説っぽいようだけど、原作のこちらでは、えーと、いわゆるケータイ小説のような、商業的には大いに売れまくるけれど、中身は、まあ、その‥‥、という代物)。

1957年の発表。著者エリザベス・テイラーは、女優ではなくて、ただの同姓同名です。小谷野敦の初翻訳、というので興味をそそられ、読んでみました。
読みどころは、ヒロインであるエンジェルの変人っぷり。っていうか、イヤな女っぷり。訳者があとがきで書いている、
「『赤毛のアン』をリアルにしたような」
というのが言い得て妙で、目の前にあるはずの現実が、エンジェルにはすべて自分の想像力のフィルター越しにしか見えないわけね。アヴォンリーのアンは、その豊かな想像力で周囲の人たちの気持ちを幸せにしちゃいますが、エンジェルの場合は、げんなりさせます。でも彼女自身は、すべてを想像力のフィルターを通しちゃうから、周囲のげんなりっぷりがちっともわからない。ますますイヤな性格になるばかりです。それがいい。
映画のレビューなんかを見てると、ヒロインのエンジェルは最後、手痛いしっぺ返しをくらうことになるみたいですが、原作の方は、最後まで想像の世界は壊れないまま(一瞬、かなり危機的になるけど)。読み始めは、「なんだよー、この鼻持ちならない女は!」と思っていても、終盤にさしかかると、この鼻持ちならなさに愛着がわいてくるので、最後のあたりの、屋敷はボロボロで身なりも不潔で、客観的には零落しきってるんだけど、でも本人は気高いつもり、というところが、なんだか爽快に思えてきちゃったり(老僕のマーヴァルとの悪態のつきあいっぷりもステキ)。

このキャラクタの造形はいかにも英国小説!ですね。ブラックで悪趣味で皮肉っぽくて、でも著者はこのキャラのこと案外好きなんだろうなあ、という感じ。
とくに、年を取ってから。バーニス・ルーベンス『ミス・ホーキンズの五年日記』のミス・ホーキンズや、バーバラ・ピム『秋の四重奏』のマーシャ(両作品とも、登場人物が定年退職してから話が始まる)を思いだしました。このへんの戦後の英国小説って日本ではあまり紹介されてないけど、まだまだおもしろい作品がいっぱいありそうです。

【こんな人におすすめ】
・映画「エンジェル」を観たけど満足できなかったかた。
・子ども時代に「赤毛のアン」が大好きだった女子。
・妻や彼女のわがままで傍若無人な性格にヘキエキしている男性諸君(妻や彼女の傍若無人っぷりなんて、エンジェルに比べればかわいいものだと思えます)。
posted by 清太郎 at 21:37| Comment(2) | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月11日

[本]草思社を勝手に支援する

新風舎の民事再生法申請も、芥川・直木賞候補発表も、個人的にはあまりピンとこない話題でしたが、このニュースには驚きました。
「草思社、民事再生法適用を申請」
えーっ! そ、そうなの!?
ニュースによると、すでに複数の企業が支援を表明していて、3月あたりにはまた新刊が出るようになる、というのでひと安心なんだけど、でも今後は、「ジャカジャカ売れるわけではないだろうけど、でも確実に、これはいい!と自信をもっていえる翻訳物・自然科学物を出してくれる出版社」、というこれまでのカラーを維持できるとは限らないでしょう。(ちなみにこれは私の偏った見方で、世間的には「声に出して読みたい日本語」「間違いだらけのクルマ選び」「清貧の思想」「平気でうそをつく人たち」などで知られる出版社、ということになっているようです。どれも読んだことない。)

ということで、本日は緊急企画!(まあ緊急じゃない企画なんて今までひとつもないんだけど)
草思社を勝手に支援することにしまして、同社の「ジャカジャカ売れるわけではないだろうけど、でも確実に、これはいい!と自信をもっていえる翻訳物・自然科学物」をいくつか紹介したいと思います。

ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」(上下)

これはそれなりに話題になりましたよね。大局的な視点から歴史を見るって、こんなにおもしろいのか!という興奮を骨の髄まで味わわせてくれる本。上下2冊の重量級で、もうボルテージ上がりっぱなし。
テーマはシンプルで、ユーラシア大陸と南北アメリカ大陸、どっちも文明が生まれたのに、結局はユーラシア大陸(の特にその端のヨーロッパ)が圧倒的に優位に立ったのはなぜなのか? それは、
「ユーラシア大陸が横長で、南北アメリカ大陸が縦長だったから」
という、縮めて言うとトンデモなんだけど、とにかくこのことを、気候やら地形やら家畜やら穀物やら言語やら、膨大な知識を動員して、事細かに論証していくのね。
著者は後に、文明の発端側ではなく終焉側に焦点を当てた「文明崩壊」(もちろん草思社)を出してますが、こっちはやや精彩に欠けます。




〈サイエンス・マスターズ〉シリーズ

海外の実力派研究者たちが自然科学のオモシロサを披露してくれるシリーズ。小学生の頃に読んだアシモフの科学発見シリーズ(「ブラックホールってなに?」とか「恐竜ってなに?」とか)を彷彿とさせて、毎回楽しみにしてました(まだ続いてるんだっけ)。
「思考する機械コンピュータ」「セックスはなぜ楽しいか」「宇宙を支配する6つの数」など17冊が出てるみたいだけど、とくにおすすめは、
イアン・スチュアート「自然の中に隠された数学」
リチャード・ドーキンス「遺伝子の川」
の2冊。議論に迷いがなくて、実にシンプル。たとえば、「自然の中に隠された数学」ならば、トラは檻の中でどうして行ったり来たりするのかを説明するくだりとか、「遺伝子の川」ならば、超音波を通してコウモリが認識する世界ってテレビとかではよく昔風のCGのワイヤーフレームみたいなので表現したりするけど、あれって絶対違うってば、人間が「見てる」のとあんまり変わんないって、という話とか。なーるほど、と思います。






V・S・ナイポール「神秘な指圧師」

トリニダード・トバゴ出身のノーベル賞作家の処女作にして出世作。英領トリニダード島の人々ののんびりした暮らしをコミカルにつづった一編で、そういえば「本読みHP」でも紹介してました。詳しくはそっちを見てもらうとして、植民地の人々が話すなまりのある英語を尾道・広島弁に置き換えた訳者の英断(?)に拍手。
「そろそろわしらも英語国民であるということを自覚してええころじゃけえ、恥ずかしがらずにちゃんとした英語をしゃべらんといけんのう」。




アドルフ・ヒトラーの一族

これは以前、mixiの日記(ほとんど更新してない)に書いたんだけど、タイトル通り、ヒトラーの親やら兄弟やら親戚やら、そんな知られざる一族の生い立ちと一生を丹念に追った歴史本。
マリアは、自分が生んだ息子アロイスの父親が誰かを誰にも教えない。アロイスが5歳のとき、彼女はヨハン・ゲオルクと結婚する。しかし、子どものアロイスはふたりの間で育てられることなく、すぐさまヨハン・ゲオルクの弟であるヨハン・ネポムクにあずけられ、そのままそこの養子になる。マリアは結局、アロイスの父親が誰なのか、口にすることなく死んじゃう。アロイスが10歳のとき。
長じてアロイスは、若い娘にはだらしない男となり、2番目の妻ファンニが病気で寝ている間、家政婦として雇っていたクララと通じる。ファンニの死後、アロイスは、すでにみごもっていたクララと結婚する。クララは、ヨハン・ネポムクの娘の子、つまり孫だった。
しかし、男親の名を明らかにせず死んだマリアは、なぜ息子アロイスを、夫ではなく夫の弟ヨハン・ネポムクにあずけたのか。アロイスの本当の親が、ほかならぬそのヨハン・ネポムクではなかったのか。だとすると、その孫娘であるクララとアロイスは、姪とおじの関係ではなかったのか。
その近親相姦だったかもしれない2人の間には6人の子どもが産まれ、4人が幼くして死亡。生き残った女の子はパウラ、男の子は、アドルフ。
という、自らの出生にいささか疑問があるだけに、ヒトラーはことさら親族を表に出さなかったのね。地味ながら、いろいろ発見があってゾクゾクします。




稲垣栄洋「身近な野菜のなるほど観察記」

えー、そろそろ面倒になってきましたが、続けます。
キャベツにナスにカボチャにタマネギ、ニンジン、ニラ、オクラなどなど43の身近な野菜について、農学的・植物学的・博物学的に手際よく紹介。などというとありがちに見えるのだけど、いや、もう、その語り口が、たまらんのですわ。
涙なしには語れないタマネギの生い立ち、厳しい減量に耐え勝利を勝ち取ったボクサーの王者のようなマスクメロン、努力家のニラ、ぬめりはあってもぬかりはないヤマノイモ‥‥。著者は、植物学界の東海林さだおである!といいたい。
オクラはアフリカ原産でハイビスカスの仲間で、だから派手な花が咲くとか、ほうれん草のほうれんっていうのは漢字で書くと、えーと、ここでは文字化けしちゃうかもしれないから書かないけど、とにかく難しい字でペルシアを意味していて、つまりペルシア原産なのだとか、思わず「へえ」の雑学知識も満載です。
同じ著者の「身近な雑草のゆかいな生き方」もおすすめ。




稲本喜則「当面の敵というのを決めることにしたのだ。」

これがなぜいきなり草思社から出たのか、よくわかんないのですが、おそらく「いま流行りのブログ本ってやつを、いっちょ当社でも出してみっか」ということなったときに、このブログのファンだった社員がダメモトで企画を出して、通っちゃったのでしょう。私もひそかにファンだったので、びっくりしました。
電車の中では読めないような(ブハッと吹きだしてしまうので)多彩な脱力ネタいっぱいで、日本語の奥深さを堪能できます(ブログでは最近、言葉遊び物が少なくなっちゃったのが、ちょっとさびしい)。




ポール・ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」

1996年に83歳で死ぬまでに数学をやり続け、1500本の論文を発表した放浪の数学者ポール・エルデシュの評伝。でもって、「古今東西評伝傑作選」なんてのがあったら、絶対にはずすわけにはいかない一冊。
エルデシュの頭の中はもうホントに数学だけで、他人の迷惑なんか考えない(それがまたお茶目なんだけど)。アイデアを思いついたら早朝だろうと知り合いの数学者に電話をかけて、
「西海岸はまだ午前5時だよ」
「よかった。それなら間違いなく家にいるな」
なんていうのもステキです。



といった、数々のステキ本(ほかにもまだまだあるよ)を出してきた草思社を、これからもひそかに応援していきたいと思います。
posted by 清太郎 at 00:00| Comment(7) | TrackBack(2) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月09日

本カルタに挑戦

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。ぼんやりしているうちに松の内も過ぎて、新風舎が民事再生法を申請したり、芥川・直木賞候補が発表されちゃったりしましたが(今回の直木賞候補、ネタ的にはおもしろくないラインナップですね。素直にいけば、「該当者なし」かなあ。あるいは佐々木譲か、今さら馳星周か)、まあせっかくですからお正月の話題をひとつ。

本のブログにふさわしいイベント、ということで、お正月休みには、こんなのを試してみました。「本カルタ」です。もちろん、ジョジョカルタとかポケモンカルタのような、
「(あ)愛の流刑地、略してアイルケ」
から始まる五十音のカルタなんて売ってませんよ。手作りしたわけでもありません。
もっと単純に、現物の本をカルタ代わりにしたものです。写真を見れば、一目瞭然。取り札が本のカバー、読み札が本の本体、というわけです。

karuta.jpg

サイズが揃ったほうがカルタっぽいですから、すべて文庫にしました。百人一首にならって100冊、といきたかったところですが、うちの狭いリビングでは80冊が精一杯。参加者は、これのためにわざわざ呼んだ、K田くん、S橋ちゃん、M黒さん、U谷くん。皆それなりに腕っこきの本読みです。
ジャンケンで、読み手はU谷くんに。では、さっそく始めてみましょう。
「芭蕉紀行」
「ハイッ」」
おお、K田くん、早い。
「これ、絵ですぐわかりますよね」
なるほど、表紙を覚えていれば、絵で探せるわけね。っていうか、岩波文庫や講談社文芸文庫だけではないから、タイトル文字を見なくても、絵や写真を見ればけっこう取れるよね。
「うさぎのミミリー」
あ、これは手元にあった。
「ハーイッ」
よーし、一冊ゲット。
「おらんだ正月」
えーと、これは岩波文庫の緑。何冊かあるけど、これは‥‥。わ、M黒さん、カルタ大会だっていうのに、そんな短いスカートはいてくるのは、よくないと思います。
「ハイッ」
あー、もう、ほら、S橋ちゃんに取られてしまった。
「富士日記‥‥」
「ハイッ」
あっ、M黒さん、それは「富士日記(上)」でしょ。読み札を最後まで聞きましょう。
「富士日記(中)」
ほーらね、お手つき。残念でした。お手つきの人は1回休みです。ほらほら、立ち上がって。あ、いや、もう、だから、そんな短いスカートは、ダメなんだってば。
「錦の休日」
「ハイッ」
ほーら、もう、またS橋ちゃんに取られちゃった。

などとやってるうちに、サクサク進行。カルタよりサイズが大きいし、表紙の絵も案外覚えてるから(何しろ、自分の蔵書だ)、それほど探すことなくバンバン取れます。80冊では少なかったくらい。やっぱり広いところで100冊以上、ドドーンと広げたいなあ。
さーて、残り少なくなってきたぞ。
「風流江戸雀」
「ハイッ」
「至福千年」
「ハイッ」
ちなみに、お正月なので、和ものっぽい、あるいはちょっとめでたい感じのタイトルを集めてみました(だから、「死の棘」や「悪魔が来たりて笛を吹く」などはNGです)。
「厄除け詩集」
「ハイッ」「ハイッ‥‥あーっ」
えっ、何? どしたの?
「ごめーん、勢いあまって、カバー、破れちった」
‥‥そ、そうなの。「厄除け詩集」、けっこうお気に入りなんですが。う、うう。でも、取り札に選んだ以上、しかたがないよね、うん、しかたがない‥‥。

ということで、皆さんが本カルタをおこなう際には、以下のことに留意するといいでしょう。
・本はなるべく多めに。広い場所でできるなら、100冊以上がおすすめ。
・イラストや写真、文字だけなど、表紙はできるだけ多彩に。
・大事な本は、取り札にしない。
・短いスカートをはいてこない。(ただし、場合によっては、むしろ推奨)

今回は、カバーを取り札にしましたが、これで物足りない場合は、カバーを読み札、本の本体を取り札にしてもいいと思います。文字だけで地味ですが、各文庫ごとに、それなりにバラエティがあります。ただし100冊ではちょっと多いかなあ。
また、本体を取り札にした場合は、タイトルを読み上げるのではなく、カバーに書いてあるあらすじや梗概を読み上げる、という遊び方もできますね。
「鎌倉円覚寺の茶会で、今は亡き情人の面影をとどめるその息子、菊治と‥‥」
「ハイッ!」
とかいうの(ちなみにこれは、川端康成の「千羽鶴」)。このほうがちょっと百人一首っぽいですね。ぜひお試しください。


そしてもちろん、以上は例によって丸ごとウソなので(かわいい本たちを、カルタなんかにできません)、実際に本カルタを実行されたかたがいたら、ぜひレポートしてください。
posted by 清太郎 at 09:23| Comment(11) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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