2007年12月21日

読書界しょんぼり番付

先日、今年の読書界番付を考えてみましたが、しかし世の中、景気のいいことばかりが話題ではありません。ガッカリ、しょんぼり、トホホなことも、いろいろニュースになりました。
ということで、読書界番付を補完して、今日は「読書界しょんぼり番付」を。あんまりたくさん並べると落ち込んでしまいそうなので、短めのリストです。

読書界しょんぼり番付


西
コミックヨシモト(3カ月で休刊) 横綱 ダカーポ休刊
朝日ソノラマ営業停止 大関 無料漫画誌コミックガンボ(1年で休刊)
著作権問題 関脇 書肆アクセス閉店
コミックボンボン休刊 小結 北村薫、またまた直木賞逃す
イミダス・知恵蔵休刊 前頭1 野ばらちゃん大麻所持で逮捕
インド式計算ドリル酷似本 同2 米LIFE廃刊
渋谷ブックファースト閉店 同3 ヴァンテーヌ休刊

「読書界番付」よりも、こっちのほうが、人によって意見が分かれるでしょうね。鳴り物入りで登場したコミックヨシモトとコミックガンボはどちらもしょんぼりな結果に終わりましたが、わずか7号で終わった前者と1年やって結局ダメだった後者と、どっちが番付が上かは一概には決めかねます。
ダカーポ休刊については「何それ? 雑誌の名前?」という人も多いでしょうし、「コミックボンボン休刊がいちばんショックだよー」と叫んでいる男子もいるでしょう。

著作権の問題は、50年から70年への保護期間延長については今年は大した進展があったわけではないのですが(音楽や映画なんかの違法ダウンロード問題は悪いほうに進展した)、ドラえもん最終話の同人誌をはじめ、いろいろと著作権絡みのニュースが目立ちました。
ホントは著作権そのもののありかたといった根本的なところから、ちゃんと議論すべきなんでしょうけどねえ。多くのクリエーターにとっては、自分が死んでから数十年後の著作権保護なんかよりも、今現在、もっと多くの人に自分の作品にふれてもらいたい、ということの方が大事なんだろうし。50年か70年かが問題になるのは、ミッキーマウスとかドラえもんとか、膨大な著作物の一部の一部のそれまた一部なんだろうし(松本零士の子孫にはもしかしたら関係あることかもしれないけど、たぶん三田誠広の子孫には関係ないと思う)。著作権の権利は権利として大事だけど、これでお金を儲けようとあまりに思いすぎなんじゃないかなあ。っていうか、このままずるずる引き伸ばして、数十年後に、「わー、ポケモンの著作権があとちょっとで切れるよー、そうなったら日本のGNPの10%が危うくなっちゃうよー」などということになった場合(日本の未来、どんなだ)、あらためて考え直しても遅くないと思うんだけど。

ちなみに、私個人にとっていちばんのしょんぼりは、渋谷ブックファーストの閉店です。縮小して近くに移転しましたが、あの物量がひとつの魅力だっただけに、ホントに残念。
posted by 清太郎 at 23:58| Comment(5) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月20日

[本]五月の霜(アントニア・ホワイト)



翻訳の刊行は今年9月。でも原著の出版は1933年。戦前です。著者もすでに故人(1899-1980)。なんでこれまで紹介されてなかったのかよくわかんないのだけど、英国では「シャーロット・ブロンテの後継者」とも評価されている、なんていうから、むふう、これはぜひ読まねばなるまい。
ということで読んでみたところ(みすず書房から出ていて見かけは取っ付きにくいですが、訳文はとても読みやすい)、ぐふう、たしかに、女子度全開。なにしろ、あなた、作品の舞台はカトリックの寄宿女学校。女学校!で寄宿!ですよ。登場するキャラクターも、氷の美貌を持つマザーに、女子も見とれるブロンド美少女に、シニカルでボーイッシュなこれまた美少女に‥‥と、暗く厳かな修道会が背景ながらも、あちこちに、ふわわわんと花びらが舞ってます。

まあもちろん、だからといって、「だめよだめ、お姉さま‥‥」とか、そういった展開になるわけはなく(妄想の余地は大いにあるが)、話の軸となるのは、思春期の少女の成長と信仰の物語。カトリック、というのがミソで、ほら、英国は英国国教会だから、カトリックはマイノリティで、この当時、国内ではまだまだ差別されていた、そういう存在であるうえに、主人公ナンダ・グレイは、カトリックへの改宗者(著者自身、9歳から15歳までをロンドン近郊にある聖心修道院附属の寄宿学校で過ごしたそうで、ナンダ・グレイは著者の分身)。生まれつきカトリックではない。周りの生徒や修道女たちとは、微妙な違いがある。その点が最後まで大きなポイントとして、ドラマを盛り上げます。(というほど、ドラマチックじゃないけど。アッと驚く「ジェイン・エア」的展開を期待して読むと、肩透かしです。)

でもまあ、神の名のもとに人を試すような教育と信仰のあり方は、生理的になんだか気持ち悪かったりもして。ただ、それはそれで、現代日本の小説ではなかなか読めないようなテーマで、「カラマーゾフの兄弟」なんかでもそうだけど、「宗教ってわかんないけど、小説にするとおもしろい」というか、そうしたあたりも楽しみどころです。

【こんな人におすすめ】
・「マリア様がみてる」ファンの人
・シニカルでクールで知的で少年っぽい、「ケッ」とか言っちゃってちょっと言葉遣いが乱暴な美少女萌えのかた
・オーソドックスな少女マンガが好きな男子
posted by 清太郎 at 09:38| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月18日

キノベス2007で紀伊國屋書店を見直す

一部の紀伊國屋書店ファンの人しか知らないことですが(私もファンじゃないので、あんまり知らない)、紀伊國屋書店では年末になると、「キノベス=紀伊國屋書店スタッフが読んで選んだ今年のベストブック」を発表しています。たぶん2003年から。
去年までのは、まあ言ってみれば、ありがち、というか、この程度だろうなあ、というか、読書が趣味ですとかいいながら現代日本のあんまり年寄りではない作家の小説以外はあまり読んでないのかなあ、というか(去年の1位はカズオ・イシグロの「私を離さないで」だったけどね)、だから本屋大賞ってああなっちゃうのか、というか、そんな感じだったのですが、今年の「キノベス2007」を見て、いや、思いをあらためました。襟を正しました。さすが本屋さんです。
「紀伊國屋書店全スタッフから『実際に読んでみて面白かったのでお客様にぜひおすすめしたい本』という主旨で募りました。約550件の応募に対し、社内の『自他ともに認める本好きのスタッフ』十数名が選考委員として最終投票。」
という言葉に、あまり偽りはないようです。(っていうか、単にたまたま私好みになっただけかもしれないけど。)
貼り付けておきますと、こんな感じ。

1 サクリファイス 近藤史恵 新潮社
2 夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦 角川書店
3 川の光 松浦寿輝 中央公論新社
4 世界屠畜紀行 内澤旬子 解放出版社
5 給食番長 よしながこうたく 長崎出版
6 生物と無生物のあいだ 福岡伸一 講談社
7 怖い絵 中野京子 朝日出版社
8 国のない男 カート・ヴォネガット 日本放送出版協会
9 先生とわたし 四方田犬彦 新潮社
10 ピクトさんの本 内海慶一 ビー・エヌ・エヌ新社
11 17歳のための世界と日本の見方 松岡正剛 春秋社
12 なぜ社員はやる気をなくしているのか 柴田昌治 日本経済新聞出版社
13 鹿男あをによし 万城目学 幻冬舎
14 男子 梅佳代 リトル・モア
15 映画篇 金城一紀 集英社
15 武士道シックスティーン 誉田哲也 文藝春秋
17 インシテミル 米澤穂信 文藝春秋
18 おひとりさまの老後 上野千鶴子 法研
19 しずく 西加奈子 光文社
20 ねにもつタイプ 岸本佐知子 筑摩書房
21 あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します 菅野彰×立花実枝子 新書館
22 星新一 一〇〇一話をつくった人 最相葉月 新潮社
23 ホームレス中学生 田村裕 ワニブックス
24 有頂天家族 森見登美彦 幻冬舎
25 頭のうちどころが悪かった熊の話 安東みきえ 理論社
25 神は妄想である リチャード・ドーキンス 早川書房
25 獣の奏者 1闘蛇編 上橋菜穂子 講談社
28 街場の中国論 内田樹 ミシマ社
29 ぼくには数字が風景に見える ダニエル・タメット 講談社
30 とりつくしま 東直子 筑摩書房

「川の光」が3位かぁ、とか、「ホームレス中学生」はやっぱり入るのね、とか、あれは入らないのか、とかいったことは多少ありますが、いやもう、「世界屠畜紀行」が4位で「給食番長」が5位で「ピクトさんの本」が10位で「男子」が14位というだけでも、かなりのステキランキング。
ただし、5位の「給食番長」は、以前からずっと読みたくてしかたがないんだけど、絵本ってなかなか探しづらいので未読(本屋さんの店頭で、一般書籍ならともかく、絵本を「どこにありますか?」ときいて教えてもらって、そのまま立ち読みして帰るのは気が引ける)。
「国のない男」と「先生とわたし」は、そのうち読まねば、と思ってるところ(今年ヴォネガット死んじゃったし)。「星新一」は、うかうかしてたら、今年の日本SF大賞に選ばれてしまった。
「頭のうちどころが悪かった熊の話」は、書店員さんになんだか人気がある気がします。私もリブロ池袋店で強烈にこれをすすめていたPOPを見なかったら、知らないままでした。(こういうのが本屋大賞にノミネートされればいいのにね。)

ちなみに、2005、2006年のキノベスは、こんなでした。
キノベス2005
キノベス2006

紀伊國屋書店に対抗して、ブックファーストやら旭屋書店やら、あるいは文教堂とかブックオフとかでもいいけど、各書店チェーンが「スタッフが選んだランキング」を発表して、それぞれのセンスを競えば、おもしろいだろうに。そうなったらぜひ、このブログでは、各ランキングを比較して「ランキングのランキング」をつくりたいと思います。(余計なお世話だけど。)
posted by 清太郎 at 13:34| Comment(6) | TrackBack(3) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月16日

2007読書界番付

毎年12月になると、ヒット商品番付が発表されます。日経MJ(日経流通新聞)によるもの、SMBCコンサルティングによるもの、今年はどちらも横綱にニンテンドーDSおよびWiiが選ばれ、先日ちょっと話題になってましたね。
ということで、真似してここでも考えてみました。
「2007読書界番付」。

どれだけ売れたか、だけではなく、話題性やインパクトの大きさ、将来性、私の個人的趣味といった各要素を勘案したうえで、順位をつけてみました。「出版界」とするとちょっと限定的になるので、「読書界」ということで。またヒット商品番付同様、東と西、というのに特に意味はありません。

「えーっ、ちょっと、これはないでしょ、こっちの方が番付は上だよー」
とか、
「あれが入ってないじゃないの」
とかいったご意見・ご感想がございましたら、どうぞお寄せください。(なんだかうまく表組みができなかった)


読書界番付

西
ハリポタ最終巻 横綱 ケータイ小説
ドストエフスキー 大関 ブログコミック
千代田区立図書館 関脇 ドラえもん最終話同人誌
集英社文庫の人間失格 小結 DS文学全集
無料ゲド本 前頭1 ジャンプSQ
広辞苑第六版 同2 ミシュラン東京版
機械萌え写真集 同3 池澤夏樹個人編集世界文学全集
ガガガ文庫&ルルル文庫 同4 夏目漱石
僕はパパを殺すことに決めた 同5 女性の品格
一瞬の風になれ 同6 多摩美術大学の新図書館

簡単に解説しておきますと、ハリポタ最終巻とケータイ小説が横綱というのは、まあ動かないところでしょう。どちらも出版界のみならず社会全体で大きな話題となりました。ハリポタの日本語版は来年7月23日発売とのことで、そちらは来年の番付に載りそうです。ケータイ小説は、ケータイで読む作品はもとより、「恋空」など書籍化された作品もベストセラーになりましたね。
大関以下は、異論のあるかたも多いでしょうが‥‥、ドストエフスキーは、光文社の新訳「カラマーゾフの兄弟」の大ヒットを通じて、注目されました。21世紀になっても、やっぱりおもしろいものはおもしろいのですね。ブログコミックは、「電車男」をはじめとする昨年までの書籍に加えて、今年は「となりの801ちゃん」「ぼく、オタリーマン。」「今日の早川さん」などのコミックものの書籍化が目立ちました。
5月にリニューアルした千代田区立図書館は、素敵なインテリアやITを活用したサービス、システムに加え、11月には電子書籍のオンライン貸出サービスを始め、図書館の新たな可能性を示しました。ドラえもん最終話同人誌は、著作権問題との絡みでニュースになりましたね。あれほど儲けなければ、見逃されただろうに‥‥。
「デスノート」の小畑健を表紙イラストに起用した集英社文庫「人間失格」、手軽に文学作品が読める「DS文学全集」、どちらも名作を、中身はそのままに、インターフェイスを工夫することで、より親しみやすいものといえるでしょう。先のドストエフスキーといい、今年はハードな文学作品にふれる人が、少しだけ多くなったように思います。
無料ゲド本110万部の配布は、「あー、そんなこともあったっけ」という人がいるかもしれませんが、今年の出来事ですよー。休刊した月刊少年ジャンプに代わって創刊された「ジャンプSQ」は、2日で50万部を完売してさらに増刷と大成功でした。来年、急落して休刊がニュースにならないといいのだけれど。
広辞苑は10年ぶりの改訂です。「うざい」「ニート」などの新語の追加がニュースでとりあげられました。発売は年明けなんですけどね。内容についてかなりの批判も巻き起こったミシュラン東京版は、あっという間に完売して重版、それでも品薄。店頭に並べれば売れるんでしょうが、あえて販売部数をおさえているようです。
写真集で今年特筆すべきものといえば、やはり「工場萌え」「ダム」「恋する水門」などの機械萌え写真集でしょう。無機的な萌えです。池澤夏樹個人編集世界文学全集は、コアな本好きの間では話題になりましたが、果たして成功するのでしょうか。来年に期待です。
ドストエフスキーに続き、夏目漱石も、江戸東京博物館で夏目漱石展が開催されたりしてちょっと注目を浴びました。直筆原稿の「坊っちゃん」も出版されましたし。小学館初のライトノベルレーベルがガガガ文庫とルルル文庫です。小学館らしく、言葉遣いなどの校正がきちんとしてるんでしょうか。
供述調書を引用した草薙厚子「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)は、プライバシー侵害やら秘密漏示容疑で社会的に問題になりました。Amazonではいまだに高値がついています。「女性の品格」は、ただのベストセラーランキング1位。
今年の本屋大賞で、佐藤多佳子「一瞬の風になれ」が選ばれてしまったのは、まあ予想できたことではあるんだけど、ちょっとつまんないことでした。なんだかもっと埋もれた作品を大紹介するような賞があってもいいのになあ。伊東豊雄のデザインによる多摩美術大学の新図書館は、建築方面でけっこう話題になりました。ガラスとコンクリートで構成された、軽やかな建物。海外ではここ数年、メジャーな建築家が本気でデザインした美麗な図書館がいくつもできてますが、日本でももっとこういう素敵図書館ができればいいと思います。

そのほか、ランキング外になったものを挙げると‥‥。
・AneCan創刊(あんまり広告がとれてないとウワサされてたけど、どうなのかしら)
・ブックオフオンラインがスタート(あっという間に品薄になってしまいました)
・丸善オンラインストアがスタート(Amazonとの提携によるものです)
・もったいない図書館が開館(福島県矢祭町の図書館。蔵書はすべて全国からの寄贈本です)
・死亡筆記(中国で刊行された「デスノート」が社会問題を生み出しました)
・国際漫画賞創設(ローゼン麻生の肝いりです)
・中原中也生誕百年
・SF世界大会が横浜で開催
・坂の上の雲ミュージアムがオープン(安藤忠雄の設計です)
・Amazon「Kindle」発売

一年後、あらためて見返すと、「何これ、こんなことあったっけ?」とかいった寂しいことになってるものもけっこうあるんだろうなあ‥‥。
posted by 清太郎 at 20:18| Comment(4) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月14日

[本]虫食む人々の暮らし(野中健一)



南アフリカでは、カメムシを食べる。
あのカメムシである。くさい虫。うっかり手でさわっちゃったりすると、なんかもうたいへんなことになっちゃう、あのカメムシ。
「ぐえーっ、でも、食べるっていうからには、くさくない種類のカメムシなんでしょ?」
と思うかもしれないけど、いや、じゅうぶんくさい。しかも、日本のカメムシより巨大。体長2.5センチくらいあって、厚みがあってころころしている。
においをとるための下ごしらえとして、バケツの中で折り重なってガサガサ動いているカメムシに、
《少量の熱湯を注いで、木べらでかき混ぜる。》
こうすると、くさい成分が分泌され切って、においが除去されるのだ。当然、作業中はもうくささムンムン。顔をそむけながらバケツの中身をかきまぜてる写真からも、そのすさまじさがうかがえる。
こうしてにおいをなくして天日干ししたカメムシは、そのまま食べられる。
《味は脂っこく、食感は、クシャクシャ感とシャリシャリ感の混じったものだ。‥‥脂っこさも、ギトギトしたものではなくてまろやかなバターピーナツのようなものだ。嗜好品として、おやつや酒のつまみに用いられる。》
「クシャクシャ感」ってどんなだ、と思うけど、ちょっとおいしそう。

同じカメムシを、ラオスでも食べる。
ただし、こちらは、におい抜きナシ。
調査チームのアシスタントのセンドゥアンさんは、稲穂にとまったカメムシをつまんで、その場で生きたまま食べちゃった。しかも、おいしそうに。
著者もおそるおそる真似してみる。
《つかまえて手に持つとあの独特のにおいがカメムシから発せられる。口もとへ持っていくと、さらににおいが鼻をつく。それでも脚や頭をもぎり取ってから、口の中に入れてみた。》
すばらしいチャレンジ精神だ!
《すると口の中からはあの臭いにおいはしない。口の中に入ったカメムシの体を噛んでみると、ぴりっとした刺激を舌に感じる。‥‥しかし、そのあとで、なんとも言えない甘い味が口から脳に広がる感じがした。酸と脂のハーモニーが広がるとでも言い表せばよいだろうか。》
ハーモニーって、いったい‥‥。ミスター味っ子ですか、味皇ですか。

香草やらニョクマムやら、個性の強いにおいが好まれる食文化の中にあっては、どうやら、カメムシのつんとしたにおいは、くささというよりも、独特の個性的なにおいとして肯定的に評価されているようなのね。もちろん、このにおいが苦手、ナマではさすがに無理、という人も多いようだけれど、それは香草が苦手な人と大好きな人がいるのと同じようなもの。むしろ、人によってさまざまに、カメムシのにおいの微妙な違いを繊細に楽しんでいるのだ。

虫を食べる、なんていうと、
「ゲー」
「ありえねー」
「キモイ」
「かわいそうに、貧しいからしかたがないのね」
「たんぱく質を摂取するために、生きていくうえで必要だから食べているのですね」
と思いがちだけれど、そうではなくて、実はかなり高度な食文化なのね。日本のハチノコや東南アジアのタガメ、南アフリカのモパニムシ(芋虫です)など、食べられる虫の多くが、日常の中にあってもどっちかというと嗜好品に近い、おいしくてちょっと高価な食材としてあつかわれている。

ということで、虫、という身近なものを、食べる、というその営みを通じて、人間の文化の多様性と、それがいかに相対的なものであるかを明らかにしていくのが本書。ほとんどチャレンジ精神のみで書かれた名著「虫の味」(八坂書房)とはまた違った虫食へのアプローチは、知的刺激に満ちています。

【こんな人におすすめ】
・チャレンジ精神旺盛なかた
好き嫌いの多いかた
・まだ這い這いしていた幼児のころに、落ちていたカメムシの死骸を食べちゃったりして、おかげで今でも親戚のおじさんなんかから「カメ子」などと呼ばれてうんざりしているかた(「カメ子で何が悪い」と、開き直れます)
posted by 清太郎 at 10:32| Comment(4) | TrackBack(1) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月12日

偽装本

2週間ほど出張に行っておりまして、毎日バタバタしてたのでしばらく間が空いてしまいました。またぼちぼちと更新していきます。
出張中、ホテルからダイヤルアップで細々とネットにつなげたりしてたので(最近はどこも無線LANなのね。そろそろノートパソコン買い換えないといけないのかしら)、ニュースのチェックとかおろそかにしてました。おかげで、帰国してはじめて知ったよ、テラ豚丼。船場吉兆もいきなり女将が泣いて謝ってるし。
それにしても、耐震偽装に始まって、食品やら英会話教室やら、このごろは偽装、大ハヤリですね。まあ実際のところ、偽装なんて、合コンで年齢を偽装したり、職場でネットを見ながらいかにも仕事してるふうに偽装したり、彼女のおしゃべりを真面目に聞いているかのように偽装したりと、多くの人にとっては身近なものなわけですから、賞味期限くらいでそこまで目くじら立てなくても、とは思わないでもないのですが、それはさておき、昨今のこうした風潮の中、われらが本業界も、いつまでも対岸の火事と思っていると足元をすくわれるのではないか。

というのも、たとえば、印刷された本がこんなにあふれていなかった時代なら、本屋さんの偽装は、けっこうあったんじゃないかと思うんです。何も知らない読者に対して、「徒然草」だと偽って、「方丈記」を売りつけたりするのね。「徒然草」のほうが「方丈記」よりも厚いぶん、流通量が同じ程度であれば、原価が高くて販売価格も高かったかもしれないから、本屋さんは不正にお金をもうけられます。
都から遠く離れた地方都市で、その土地には本屋さんが一軒しかなくて、町の知識人はみんなその本屋さんで本を買ってる、なんてことであれば、全員に同じ偽装本を売っていれば、なかなかバレるものではありません。
「このまえ本屋に入荷した『徒然草』読んだでござるか?」
「おお、読んだでござるよ」
「いやあ、いいでござるねえ、『徒然草』」
「そうそう、無常っていうか」
「ゆく川の流れはたえずよ、たえず。しかも、元の水にあらず。うーん、いいこと言うでござるねえ、『徒然草』」
「まさに、ツレヅレって感じでござるなあ」
なんてことになる。

あるいは、伝え聞くところによると大長編の恋愛物語であるという「源氏物語」という作品をぜひ読んでみたい、と本屋さんに注文して、本屋さんは、まあいちおう真面目に探したんだけど、品薄でどうしても「源氏」が手に入らない、かわりに入手できたのは「平家物語」だった、という場合に、ふと魔がさして、この「平家物語」の表紙の「平家」の文字を「源氏」にこっそりさしかえて、
「お客さん、ようやく『源氏物語』が入荷しましたよ」
と、その偽装源氏物語を売りつけちゃうことがあったかもしれない。
喜んだお客はさっそく言い値で購入して、読み始めるんだけど、どうも思っていたのと展開が違うような気がする。いや、たしかに義仲やら義経やら、源氏が大活躍する内容だから、これが源氏物語であることは間違いないはずなんだけど、でも、こんなに男くさい話なのだっけ、恋愛ものじゃなかったっけ?
ということを本屋さんにたずねると、
「お客さん、何言ってるんですか、じゅうぶん恋愛ものではありませんか。九郎判官義経と静御前、義仲と巴御前、滝口入道と横笛、ああ、いずれおとらぬ悲恋の物語。それに、男女の仲だけが恋、ってそりゃ、お客さん、頭がかたいってもんでございますよ。体と体、魂と魂がぶつかりあう、いくさこそ、男の恋でございます!」
なんて言われて、なるほど、そういうものか、いくさこそ恋か、と丸め込まれちゃったりして。

いや、別にそんなに昔にさかのぼらなくても、海外の作品が次々に紹介されはじめた明治の頃ならば、香港あたりのいかがわしいところでてきとうに印刷されたバッタモンの小説を、正規の作品といつわって販売する悪徳書店もあったことでしょう。
「やあ、キミ、バルザックの『ル・ペール・ゴリオ』(ゴリオ爺さん)を読んだかい」
「やあ、読んだとも、いやあ、僕は感動したよ」
「うむ、僕も大いに感動した」
「とくに、愛するふたりの娘への、ペール・ゴリオの報われぬ愛情‥‥」
「うむ、ゴリオの、あの哀れな最期には、僕は正直、涙を禁じえなかったね」
「おお、キミもかい。僕もなんだ。本当に、何と悲しいことだろう。顔がゴリラに似ていただけなのに‥‥」
「えっ、ゴリラ? キミはいったい、何の話をしてるんだい」
「えっ、『ル・ペール・ゴリオ』だよ。ゴリラに似てるがゆえにゴリオなんてあだ名で呼ばれた男の、悲しくも皮肉に満ちた一生の物語じゃないか。バルザックらしい、まさに人間喜劇だ」
「おいおい、ペール・ゴリオはゴリラになんか似ちゃいないぜ。キミはどこでその本を手に入れたんだい。もしやそれは、巷間に出回っているという偽装本じゃないのかい」
「あちゃー、やられた」
ということが、ままあったかもしれない。

ただ、そんなのは過去の話(そういえば、中国には偽ハリポタなんかがあるけど)、現代日本のような情報化社会で、そんなことはありえない、と思っている人は多いでしょうが、いや、それはどうか。膨大な量の本が流通し、「あらすじで読む」がもてはやされている今のような状況下では、あらすじこそまったく問題ないものの、ディテールを仔細に見てみると正規品に比べて明らかに質の落ちる不良品・非正規品がまぎれこんでいないとは、言い切れないのではないか。
たとえば、えーと、今私の手もとにある岩波文庫のオースティン『高慢と偏見』。これの上巻をてきとうにパッと開いてみると、えーと、128ページには、長女ジェーンのバストサイズは92センチのFカップと書いてあるんだけど、あなたの持っている『高慢と偏見』では、もしかしたらこれが微妙に違う数値になっているかもしれないし、そんなこと全然書いてないかもしれない‥‥。
posted by 清太郎 at 13:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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